正体
「それじゃあ、みんなは戻りなさい。私はこの子たちと話があるから」
エリは町の人たちにそう促した。町の人たちはエリの違和感に気づくそぶりもない。興奮冷めやらぬ様子で、素直に小屋を出ていった。
小屋の中には俺たち三人が残された。未だ、シイナは気を失っている。
「はあ、やれやれ」
エリはそう息をつくと、ポケットから煙草を取り出した。一本、口にくわえて火をつける。そして尊大に煙を吐き出した。
エリは、さっきまで涙ながらにクミ討伐の知らせを報告していたはずだ。だが今、彼女にそんな気配は微塵もない。
俺はエリに凄んだ。
「お前、嘘をついてるな。クミに討伐が向かうだなんて話、でたらめだろう」
エリは慌てたそぶりもなく、にやりと不敵に笑う。
「やっぱりサカタくんには気づかれてたか。クミが魔法を使えないことも気づいていたようだし。勘が鋭いね」
「どういうことか説明しろ!」
俺の怒声にも一切、エリは動揺を見せない。飄々と肩を竦める。
「いいよ。もう嘘をつく必要はないしね。まず私の正体から……私の町長という立場は仮の姿だ。私はね、盗賊なのだよ」
「やはりそうか」
隣でシイナが呟いた。どうやら意識を取り戻したらしい。額から流れた血が渇いて肌に張り付いている。シイナは血にまみれた恐ろしい形相で目の前のエリを睨んだ。
「お前はバンダの女盗賊、ルアーノだな。その特異な長身、覚えがある。盗賊の癖に魔法を使いこなす凶悪な犯罪者だ。数年前に死んだと聞いていたが……謀ったか」
エリはシイナの放つ殺気も一切、怯むことはない。にこりと微笑む。
「その通り。有名人だね私も。だけど、その有名人という立場が、私には煩わしかったんだ。新政府にも目をつけられていた。だから私は、自分はもう死んだということにして、新しい人生をこの町でやりなおそうと思ったのさ」
シイナの眼光がますます、鋭くなる。
「クミはお前の手下だな?」
「そう。まず私は、この町に潜入して、人々の人望を集めた。そうして町長の立場に就いたあと、クミに町を襲わせた。それからはクミを利用して、町の財源をちゅうちゅうと搾り取らせてもらったよ」
「な、なんだよそれ」
俺は愕然として呟くしかなかった。エリが女盗賊で、クミはその手下? 全てはエリの策略だっただと? 頭がどうにかなりそうだった。
「私を攻撃したのもお前だな!」
シイナの怒号にエリはついに、けたけたと笑い出した。
「その通り。クミには魔法を使う仕草をさせているだけだ。実際はその影から、私が魔法を使っていたのさ。この町の人間を騙すのは実に簡単だったよ」
俺は動揺を隠せないままエリに疑問を投げた。
「待てよ、じゃあ、お前が引き取った孤児はどう説明するつもりだ。あの子たちは、お前が引き取ってあげたんだろう。お前が本当に悪いやつなら、そんなことをするつもりはないだろうが」
俺はまだ、エリが悪人だとは信じられなかった。いや、信じたくはなかった。子供を手当てするエリの姿は、善人にしか見えなかった。あの全てが嘘だったなんて……思いたくない。
しかしエリは、俺のちっぽけな希望を、あざ笑った。
「あの孤児たちは、人望を集めるための小道具だよ。町長に就いてからもないがしろにはできないからね。全く、甘えてこられてうんざりしたよ」
「そんな……あの子たちをこれからどうするつもりだ!」
「別にどうもしないよ。もう私の計画はここで終わりだ。この町にはもう、財源はない。絞りつくしてしまったからね。口封じにクミを殺してから、私はこの町を去る。子供たちはまた、孤児に戻るんじゃないかな? あの子たちを養う余裕も、もうこの町にはないからね」
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