からくり
「シイナ!」
俺は急いで立ち上がり、倒れるシイナに駆け寄った。体を起こす。シイナの体はだらりとして力ない。俺が体を起こした拍子に、頭からつーと血が一筋流れた。
一体全体、何が起こったのかさっぱりわからなかった。俺は確かに、クミからは何の脅威も感じられなかった。あいつは魔法を使えない。そう確信したはずなのに、シイナは正体不明な一撃を食らって倒れている。あのシイナがだ!
決して、シイナが弱いからじゃない。確かに、途方もないほど強力な攻撃魔法が繰り出されたのだ。
「ぶはははは! 私をコケにするからそういう目に遭うんだ! おい、サカタと言ったね。お前は可愛い顔をしているから、見逃してあげるよ。お前たち、こいつらを牢に連れていけ!」
クミの掛け声とともに、町の人たちが一斉に立ち上がって、俺とシイナを取り囲んだ。成すすべもなく、あっという間に拘束されてしまう。
「おい、やめてくれ!」
俺の必死の声は無視される。耳元で誰かが小さく囁いた。店主だった。
「すまないサカタくん。ここは大人しく連れていかれてくれ。そうでなければ君たちを守れない」
あえなく俺とシイナは町の人たちに身柄を拘束されて、連行された。
☆
俺とシイナは町の外れにある小さな小屋に連れていかれた。それは小屋とも言い難いようなあばら家である。地面に直接建てられた壁と屋根が、辛うじて家の形を保っているだけだ。
俺たちはこの小屋の真ん中の柱にロープでぐるぐる巻きにされて、一切身動きが取れなくなってしまった。この柱は地中深くに埋められているらしい。人間の力ではどうすることもできなさそうだ。
町の人たちは、拘束した俺たちをしばらく見下ろしていた。彼らの表情には、得も言われぬ悲しみが漂っている。こんなことしたくない、そんな心の声が、ありありと聞こえてくるようだった。
「ここはクミ様の命令で作られた牢屋なんだ。言うことのきかない町人をこうして閉じ込めて、反省させる場所なんだよ」
先頭に立つ店主が俺たちに言った。その表情は、今にも泣きだしそうな悲痛さで溢れている。
「言いなりになってるわけだな」
俺の皮肉めいた言葉に、店主はぽろりと涙を流した。
「君たちのような子供をこんな目に遭わせたくはない。だがクミ様の言うことを聞かなければ、必ず誰かが傷つく。だから……」
俺の隣では、シイナが力なくぐったりとしている。こいつが今、どんな状況にあるのかわからないが、今すぐ手当が必要なのは間違いがない。俺は感情を爆発させた。
「あんたら、あんなやつに言いなりになって、悔しくないのかよ!」
「もちろん、悔しい。だけど私たちには、救いがある」
そういう店主の表情には、一筋の光明を見るような、希望が浮かび上がっていた。
そのとき。
小屋の戸が開かれ、誰かが入ってきた。
「エリさん!」
町の人たちが、小屋の中にはいってきたエリに道を譲った。エリは悲しみに暮れた表情で、この場にいる全員の顔を一人ひとり、見つめていく。町の人たちは言葉もなく立ちすくんでいた。
エリは俺とも目を合わせた。
その瞬間また、妙な直感が働く。
エリは間違いなく、悲しんだ顔をしている。恐らくクミの言うことを聞くしかない、こんな状況を憂いているのだろう。
だが、何故だろう? 俺にはエリの表情が、ほくそ笑んでいるように見えるのだ。
「すまないねみんな。長い間苦労をかけて。こんなことは君たちだってしたくないだろう。この町の人たちはみんな、優しい人だから」
「エリさん……」
「だけど安心してほしい。今日やっと、首都の新政府から連絡があった。この町を不法に占拠しているクミを、討伐に向かってくれるという」
わっ! と歓声があがった。町の人たちは口々と喜びを声に出していく。
「ついにだ!」
「待ちわびた。この数年間、地獄だった」
「やっとこの町に平和が戻る!」
エリは無言でただ頷いて、彼らの言葉を聞いている。
「首都の優秀な兵士ならクミを倒せるはずだ。この町が救われるときがきた!」
町の人たちはエリの言葉にさらに、歓喜していく。
だが俺には、エリの言葉が到底、本当のことを言っているとは思えなかった。
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