町長? 独裁者?
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人だかりができていた。人々は動揺して、広場の中央を注視している。
騒ぎの中心には、見たこともないぐらい太った女が、まるで玉座のような豪華な椅子に座っていた。厚化粧を塗りたくってはいるが、年頃は随分な年増だ。俺の母親より年上じゃなかろうか?
そいつは口をへの字にした不機嫌な顔で、尊大に椅子に腰かけふんぞり返っている。
その目の前に、フィルがいた。
「あわわ……」
フィルは尻もちをついて目を回している。何があったのかわからないが、どうやら目の前の女に、何かをされたようだ。
「あたしは、強い」
その女は独り言のように吐き捨てた。
「フィル!」
俺は慌てて広場の中央に向かって駆けつけた。ふらふらしてるフィルの肩を支える。外傷はない。
「何かの魔法攻撃にやられたみたいだな。気をつけろ、目の前の女は魔法使いだ」
あとからゆっくりついてきたシイナが、フィルの様子を見て言った。
「お前たち、よそ者だね」
突然、女ががなり声をあげた。酒を飲みすぎたやつみたいに、かすれ切った声だ。なのに、体が大きいせいか、耳を塞ぎたくなるほどの声量だ。
俺は妙なプレッシャーを感じて身構える。
「そうだ! さっきこの町に来た」
「そうかい。私は町長のクミだ。お前たち、まずはこの私に挨拶してもらおうか」
町長だと? 俺は違和感を覚える。町長がこんな大層な椅子に座って、ふんぞり返っているのか。見たところ、この町は大したお金もなさそうな小さな町だ。人だかりを作る町の人たちも、決してお金がありそうな見た目ではない。なのに、この女は自分だけが派手な服を身に着けているのだ。そして、広場を囲むようにして並ぶ出店の数々は、まるでこいつを楽しませるために見える。
「その前に、あんたフィルに何をしたんだ?」
俺は怒りを込めて訊いた。フィルのこの状況は、明らかにこいつからの攻撃を受けている。フィルが何をしたのかわからないが……ひょっとしたら不機嫌に八つ当たりとかしてフィルの方から喧嘩をふっかけたのかもしれないが……その可能性が高いけど……俺は仲間を傷つけるやつは許さない!
瞬間、クミの目がぎろりと猛禽類の様に鋭く俺を睨んだ。
「まずは、この私に挨拶をしてもらおうか」
有無を言わせない圧力だった。見た目はただの太ったおばさんなのに、まるで大砲を突き付けられているかのような威圧感。とてもこいつは一介の町長には思えない。まるで独裁者だ。
しかしここで負けてられない。
「何をしたのかって聞いたんだよ、おばさん」
クミのこめかみに青筋が走る。
「失礼だね、私はまだ三十だよ」
俺の背後でシイナが小さく驚きの声を上げた。
「えっ……同い年?」
俺は構わず言い返す。
「三十は立派なおばさんだろうがおばさん!」
「この多様性の時代になんてことを言うんだいこのガキ! くく……久しぶりだねこんなに生意気な奴らは」
そう呟くなり、クミは巨大な手のひらを俺たちに向けた。ベルルのときに見た。魔法使いが、魔法を使う仕草だ。やつが何をしてくるのかはわからない。
なのに……何故だろう? ちっとも危険を感じない。
「申し訳ありません、クミ様」
横から突然、声が割り入る。俺たちの目の前に、背の高い痩せた女性が立って、クミと対峙した。
彼女は落ち着いた声で言った。
「彼らの失礼は、雑用役の私の責任でしょう。私が彼らの世話をしますから、ここはどうかお気を静めてください」
「……ちぃっ! さっさと連れていきな!」
「かしこまりました」
背の高い女性はくるりと踵を返して俺たちと向き合った。肩のあたりで髪の毛を切りそろえた、目の据わった人だった。そして随分、背が高い。シイナも女にしては背の高い方だけどそれよりはるかに高い。
「行くよ、君たち。私はエリ。ひとまず私の家に来てもらおう」
エリは俺たちにそう促すと、先を歩き始めた。
☆
俺たちはエリの家に招かれた。町の外れにあるこの周囲は、人家より自然に近く、静かな場所だった。
「君はまだ若い男だから、大目に見てもらったんだよ。クミは若い男が大好きだからね。あれが若い女だったら、ただじゃすまなかった」
エリはテーブルの向こうで、マグカップのコーヒーを啜りながら言った。落ち着いた調子で喋る様は、まるで教師のようだった。この人のことは何も知らないが、優秀な人のように見える。
と、思ったら。
エリは片頬を吊り上げて、いやらしく笑みを浮かべた。テーブルを乗り越えんばかりに、ぐいーっと顔を寄せてくる。
「それで、君はサカタと言ったね。異世界から来たんだって? いやぁ、こんな人は初めて見たよ。是非とも体を調べさせてくれないかい。この世界の人間と違いがあるのか調べたい」
「い、いや~違いはなにもないと思うけど」
俺は曖昧にごまかすしかなかった。エリの目の下には、よく見たらすごい隈がある。どうやらこいつもかなりの変人みたいだ。
「そんなことより、フィルの様子はどうなんですか」
俺は部屋の隅に視線を投げた。そこにはベッドが置かれていて、フィルが寝かされている。フィルは結局、あのまま気を失ってしまっていた。
エリはやはり落ち着いている。
「心配いらないよ。クミの軽い攻撃魔法で目を回しているだけだ。一日眠れば良くなるだろう。あの子、あんなに可愛いのに男の子なんだね。不思議だ。あとで体を見させてもらおう」
「いやそれはやめてあげてください。それとこの町は一体……」
「君の言いたいことはわかる」
エリは俺の言葉を遮って言った。
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