えっ? 夫婦?
「待て待て、ちょっと状況を整理しよう。シイナ、今お前は【ドレイン】の副作用でこうなってる、と言ったが、それはどういう意味だ?」
俺は努めて冷静に、シイナから離れた。シイナは案外、あっけなく俺を解放したが、未だ熱っぽい目で俺を見つめている。
「そんなことよりキスをまた……」
「いーから説明せい!」
シイナは小さく舌打ちをした。
「ちっ……私の【ドレイン】は他人から男ポイントを奪う能力だ。だが同時に、私から相手へにも、極めて微量だが生命エネルギーのようなものが渡っている。それは無意識のうちに流出しているのだ」
「イメージしづらいんだが」
「二つの隣り合った水たまりをイメージしてみろ。その二つの水たまりの間にある土を崩すと、どちらかへ水が流れていくだろう。【ドレイン】を使うと、それと同じようなことが起きるのだ」
シイナの説明で、なんとなく理解する。【ドレイン】という能力は、つまり他人と繋がる能力でもある、ということだろう。
「普段【ドレイン】を使うときは、それでも問題ない。相手へ渡る生命エネルギーは極めて微量だし、それ以上に私が相手からの生命エネルギーを奪っているからだ。だが、先日は状況が違った」
先日の状況と言うのは言わずもがな、俺と唇を重ねたときのことだ。
シイナは説明を続ける。
「あのとき、私とお前は肉体的に接触した。それは例えるなら、二つの水たまりが完全に交じり合って、一つの水たまりになったような状態だ。私の生命エネルギーとお前の生命エネルギーが、一瞬とはいえ結合し、お互いの体内に共有されたのだ」
「んーむよくわからん」
頭を抱えた俺に、シイナは出来の悪い子供に教えるように、ゆっくりと言う。
「この男女の生命エネルギーが交じり合った状態は、珍しいことではない。社会では自然とこの状態の男女が発生する。それは、夫婦だ」
「はあ?」
夫婦だと? 衝撃の言葉に俺は、一瞬白目を剥いて気絶しかけた。だが、どうにか正気を保つ。
俺は恐る恐る、結論に向かった。
「それじゃあ、シイナさんあんたはひょっとして……」
シイナは顔を真っ赤にして、こくりと頷く。
「そう。私はあのとき、お前と生命エネルギーが交じり合った影響で、お前のことをまるで旦那のように愛してしまったのだ」
俺は、またも硬直してしまう。そんなことって、ありですかい?
「まっ……待て待て待て待て! その理屈で言うなら、俺もお前のことを好きになってなきゃおかしいだろ!」
「そこらへんはよくわからんが、どうもこの生命エネルギーが交じり合った状態は、女の方が強く影響を受けるようだな」
シイナは平然としていた。最早、この状況を受け入れているらしい。
「まじかよ」
俺は混乱した。命を奪い合った仲のシイナが、今度は一転して、俺に好意を向けている。それも、ただ好きってわけじゃない。妻が旦那を愛するのと同じレベルの好意だという。
そんなレベルの好意を向けられて、俺はどうすればいい! まだ女とまともに付き合ったこともない元引きこもりの俺が。
「どうやって責任をとればいいんだ――」
シイナは、呆然とする俺の腕を掴んだ。今度は引き離せないぐらい、ものすごく強い力だった。
「とりあえず一緒の宿に泊まろう♡ そこで子供を作って一緒に育てよう♡ 名前はお前の名前と私の名前を合わせてサカナにしよう♡」
「ちょっと待ってくださいシイナさん今の俺はそんな立て続けにボケかまされても突っ込む気力がないですから……」
あまりの事態に、俺は貧血でぶっ倒れそうになった。
そのとき。
――ひぇ~。
夜の帳がすっかり下りた、町の奥。そこから、フィルの悲鳴が聞こえてきた。なんとも間の抜けた悲鳴だったが、間違いない。
「シイナ、今の声」
一瞬でシリアスモードに入った俺に、続きをするのは無理だと悟ったのだろう。シイナは舌打ちをして、悲鳴の方に視線を投げた。
「うむ、あの変態の声だな」
「急ごう!」
俺とシイナはフィルの悲鳴が聞こえた方角へ走り出した。
町の奥に進んで、驚いた。すっかり夜だから、もう町の人たちは寝静まっているだろうと思っていたのだが、住宅地をいくつか抜けた先で、祭りが行われていた。
そこは町の中心の広場なのだろう。街灯が整備されて、昼の様に明るい。丸い広場を取り囲むようにして、出店まである。しかし日本の祭りの雰囲気は一切なく、海外の繁華街のような雰囲気だ。
その広場の中心で、奇妙な光景が広がっていた。
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