そういう意味?
☆
シイナがあとをついてくるという、妙な状況ではありつつも、俺たちの旅路に特に大きなトラブルはなかった。俺もフィルも、二回目の旅立ちということもあって、それなりに経験値を経ているからだろう。
夕暮れには、最初の町に到着した。
名前もないような小さな町だ。町全体が背の低い柵で囲まれているらしい。柵の開けた、門とも言えないような小さな入り口が、俺たちを出迎えた。
その入り口でフィルがまた騒ぎ出した。
「ねえサカタさん! 結局あの女ずっとあとをついてきましたよ。宿はどうするんでしょう?」
俺は肩を小突かれて振り返る。そこにはやはり、素知らぬ顔のシイナが突っ立っている。シイナは俺の視線に気づくとふい、と顔をそむけた。今日一日、後ろが気になって振り返っては目を逸らされる、ということを何度も繰り返した。
俺は頭をぼりぼり掻いてから、シイナに声をかけた。
「なあ、宿のあてはあるのか? もし良かったら、同じ宿に来るか?」
「お、そうか? ではお言葉に甘えようか」
シイナは待ってました、と言わんばかりに俺たちに近づいてきた。断られると思っていたのに、意外と素直だ。
フィルがまたも、大騒ぎし始めた。
「ちょっちょっちょっと! 何考えてるんですかサカタさん。こんなやつを近くに置いてたら、いつ寝首をかかれるかわかりませんよぉ」
「俺たちをどーにかするつもりなら、今日一日何度もそのチャンスがあっただろう。もう、シイナにそのつもりはないさ」
それが今日一日で俺が出した結論だった。相変わらずシイナの目的はわからない。だが少なくとも、俺たちに危害を加えるつもりはないはずだ。
フィルは愕然とした表情で立ち尽くした。
「そんな……やっぱりサカタさんは、シイナとのキスが忘れられないんだ。エンナをぶっ飛ばすとか調子良いこと言ってるけど、本当は顔の良い女を近くに置いておきたいって思ってるだけなんだ」
さすがに俺は呆れてため息をついた。フィルの肩に手を置いて、諫める。
「お前なあ。ちょっとは大人になれよ。俺たちは別に、仲良しこよしやるために旅をしてる訳じゃないだろう?」
今日一日の疲れがあったせいか、俺の口調は若干、強くなってしまった。すぐに、はっとする。
しまった、言い過ぎた。
後悔したときにはもう遅い。俺を見るフィルの表情がその瞬間、すっと冷たくなった。
「……じゃあ、もういいです。さようなら」
フィルは踵を返すと、一人で町の奥に向かって進んでいってしまった。
「お、おいおい、待てよ」
呼びかけたところでフィルは止まらない。ずんずんと、俺たちを置いて歩いていく。
「待てってば――」
慌てて追いかけようとした俺の手を、後ろから誰かが掴んだ。
シイナだ。
シイナは真顔で俺の手首をつかみ、じっと俺を見つめる。
「な、なんだよ」
動揺しながらも、俺はフィルの進んでいった方向に視線を戻す。フィルの姿はもう、見えなくなっていた。夜の帳が下りようとしている。
「離せって……」
焦って手を振り張ろうとした俺だが、シイナの強い力に、どうすることもできない。俺は、その力の強さにぞっとした。
こいつ、ひょっとして俺が一人になるのを待っていたのか……? そしてやっぱり、俺を殺そうとしてたのか!
シイナは俺の動揺をよそに、やはりじっと、俺の目を見つめている。そしてぽつり、と独り言のように呟いた。
「【ドレイン】のせいだ」
「は? なんだって?」
「これは私のスキルの副作用だ、と言ったんだ」
俺は、シイナが何の話をしているのか全くわからず、硬直した。
シイナは言い訳するみたいに続ける。
「あのとき、私は唇を介してお前の男ポイントを奪った。もう、そんな力しか残ってなかったから、苦肉の策だった。だから、こんな副作用があるなんて、思ってもみなかったんだ」
「さっきからなんの話をしてるんだよ」
シイナは苛立ったように声を荒げた。
「だから! こういうことなんだよ」
シイナはまた、強い力で俺の手を引いた。俺はなすすべもなく、シイナの胸の中に顔を埋めてしまう。
シイナはそのまま、俺を激しく抱きしめた。
温かく柔らかい女の体が、俺の体を包む。
シイナの熱っぽい声が耳元で囁かれた。
「ああ、可愛い……」
俺は何が起こっているのか、皆目理解できず、金縛りにあったかのように動けなくなる。
しかしとりあえずわかっているのは、今、シイナのされるがままになっていることは、非常にまずい、ということだ。
なんというか、一線を超えてしまう気がする。それは、この全年齢対象の作品では非常にまずい。
「あのシイナさん、僕はこういうこと、よくわからないんで……」
俺を熱く抱きしめるシイナの手を外そうと試みる。しかし無駄。余計に力が強まる。
「なら私が教えてやる」
「いやいやその……困りますって……」
「年上の女は嫌か?」
「そういうことを言ってるんじゃなくて」
「言ったはずだ。私の全てをお前にやると」
そう言われて、俺は記憶の片隅に残っていたあのシーンを思い出す。
あの城でのシイナとの戦い。シイナにとどめをさそうとしたその瞬間、意識を取り戻した俺は、確かにその言葉を聞いた。
私の全てをお前にやる。
それは、ただの命乞いの言葉だと思っていたのだが。
「まさか、あれって、そういう意味なのか?」
恐る恐る尋ねる俺。シイナは言葉もなく、静かに頷いた。
ん~……?
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