これから
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呆然とする俺。フィルは、そんな俺を見て、海よりも深いため息をついた。
「こーなるって、わかってなかったんですか? はあ……やっぱりただ、シイナとキスしたかっただけなんだこの人」
「ち、ちがわい! スキルを使えなくなるのを知らなかったのは事実だが、あのときはいきなりあんなことされて……」
フィルはふん、と俺から顔をそむけた。
「美人とキスできてよかったですね! やっぱりサカタさんは男より女の方がいいんですね!」
「ん……? それはそうだが……」
ぎゃーすかと騒ぐ俺とフィルを、リルが一喝した。
「うるさいわよあんたたち! とにかく、こうなったのは仕方がないんだから。まず、サカタ。あんたはこれからどうするの?」
眼前に、真剣な表情のリルが迫った。俺は一瞬、ぎょっとするが、そう考えるまでもない質問だと気づく。
俺の答えは決まっている。
「首都を目指して旅を続けるよ。エンナをぶっ飛ばすっていう、俺の目的は変わってないからな」
俺の隣でフィルが勢いよく手を挙げた。
「私もサカタさんについていきます! ギルドには登録せず、フリーの冒険者としてあちこちの街を行き来する人もいますからね」
リルはそんな俺たちを交互に見て、やがて諦めたようにふっ、と優しく笑った。
「どうせ、止めてもきかないわよね」
「うむ」
「なら、私とはここでお別れね。私はこのエルドで、お父さんと一緒にこのお店を続けていくから」
リルの決断を、俺とフィルは黙ってうなずいて肯定した。
シイナが姿を消してから、仲間の兵士やベルルたちも、この街からいなくなってしまった。シイナが連れて行ったのだろうか? それとも、危険を察知して逃げたのか……。真相は不明だが、この街にはもう理不尽な危険はないようだった。だからリルとラールは、エルドで店を続けていく決断をしたのだろう。
リルとはここでお別れだ。短い間だったが、とても頼もしい仲間だった。
不覚にもちょっぴり目頭が熱くなる。場の空気がなんだか、またも湿っぽくなってしまった。
そんな空気を振り払うかのように、リルはわざとらしい明るい声を出した。
「と、とにかく。私からあなたたちに旅の方針をアドバイスさせてもらうわよ」
「お、おう。是非頼む。優秀なブリスター人の知恵を授けてくれよ!」
「まず、ここからあなたたちは、バンダという街を目指しなさい」
フィルが驚いた声をあげた。
「えっ、それって……魔法使いの街、バンダですか」
「その通り。そこで魔法使いに頼んで、シイナから受けた呪いを解除してもらうのよ」
呪い。いきなり飛び出てきた単語に、俺はびっくりした。話を飲み込めてない様子の俺たちを見て、リルは説明を続けた。
「つまり、シイナから【ドレイン】で男ポイントを奪われて、男ステータスが停止している状態は、呪いを受けている状態なのよ。そういう意味では、【ドレイン】はスキルよりも魔術に近い。魔法使いならその呪いを解くことができる。……もちろん、とびっきり優秀な奴じゃないと駄目だけど。でもバンダなら、シイナの呪いを解けるぐらい、優秀な魔法使いがいてもおかしくない」
「なるほどね。要するに、スキルを使えない状態で旅を続けることはできない、ってことか」
俺の言葉に、リルは重々しく頷いた。リルのアドバイスはつまり、俺にまた【男様】を使えるようになれ、と言っているのだ。逆に、それ以上のアドバイスはない。
「ごめん、はっきり言うね。スキルを使えないまま首都を目指すのは、自殺と同じよ」
「そうか……ありがとうリル」
俺はリルに深い感謝と情愛を抱いた。リルはこんなにも真剣に、俺たちの身を案じてくれている。その上極めて建設的なアドバイスをしてくれた。俺は、リルにそっとキスをしようとして、ものの見事にかわされた。
「無言で顔を近づけてくるな」
「うん……ま、そうと決まれば話は早い! 俺たちは行くぜリル。フィルも、もう準備万端だよな?」
俺の問いかけにフィルはぐっと、力こぶを作るポーズをとった。
「はいもちろんです!」
「よーし、バンダを目指そう!」
俺はいきおいよくベッドから立ち上がった。それを、リルが慌てて止める。
「ちょっとちょっと、いきなり過ぎない?」
「ん、そうか? もともと今日、出発しようと思ってたんだが」
「それならそうと言いなさいよ! お別れの準備もなにもできてないんだけど……」
「そんなもんいらん」
「え……」
リルは表情を曇らせて、俺を見上げた。俺はにかっと笑い、リルの頭を撫でる。
「お別れはしない。また俺たちはこのレストランに飯を食いにくるからな。常連になるぜ!」
リルはぽかん、としてから、それから安心したように、大きく笑った。
「今度はちゃんとお金払いなさいよ?」
「そこは負けてくれ!」
「いや払えって」
そのときだった。
部屋の扉が突然、ゆっくりと開いた。ラールだと思った。しかし、違う。
扉が開いてそこに立っていたのは、ローブを目深に被ったものだった。明らかに異質な人物。部屋は一瞬にして緊迫する。ベルルかと思ったが、やはり違う。あの老人はこんなに背が高くはない。
ローブの奥で、鋭い目が光る。そうして気づいた。
「し、シイナ……」
招かれざる来訪者に、俺は呟くしかなかった。
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