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スキル【男様】で無双!生意気な女盗賊たちをわからせてやる!~やっぱり男様には適わないんだ~  作者: みちまるぎちすけ
【第一章】えーっ! 男が一番偉いんじゃないんですか?〜スキル【男様】の秘密〜
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残酷の王

 ☆


 夜のエルドの街。

 リルはラールを支えながら必死に城門を目指し駆けていた。ラールに怪我はないが、地下牢に閉じ込められて消耗したのだろう、衰弱している。その足取りはおぼつかない。リルは、弱った父親が転んだりしないよう、渾身の力で彼の体を支え走った。

「すまない、リル……。情けない父親だ」

 リルの頭の上で、ラールはか細い声で唸った。上目遣いで窺った彼の表情は、心の底から悔しがっているのがわかった。

「大丈夫。落ち着いて前に進もう。必ず逃げられるから」

「そうじゃない。お前に酷いことを言ってしまった」

 リルの頬に温かいしずくがふった。それは父の目からこぼれた涙だった。


 リルは、自分も泣き出してしまいそうになるのをぐっとこらえた。

「お父さん、私はあなたの娘なのよ? あんなの、私たちを守るための嘘だってわかってる! お願いだからそれ以上、謝らないで」

 リルはラールを抱えながら、ますます強く地面を蹴った。早く城門へ!


 リルはほんの数分前に起きた、奇跡のような出来事を思い出す。

 あのとき、リルはサカタはもう助からないと思った。何故なら心臓の重大な血管が破れていたからだ。ああなってはもう、どんな名医にも救命する術はない。

 しかしその後……信じられないことが起こった。

 サカタはスキルを使って、完全に蘇生したのだ。破れたはずの心臓は、リルの目の前で瞬く間に治癒していき、胸の傷もふさがった。


 リルはその光景を思い出しながら、ごくりと緊張で唾を下した。サカタが生き返った。喜ばしいことのはずなのに、今、リルは……恐怖に襲われていた。

 目の前で見たあの現象は、奇跡……そんな言葉で片づけられるような、生易しいものではない。

 この世の法則を完全に無視した、都合のいい現実改変だ……。


 リルはひとりでに呟く。

「スキル? 違うあれは、まるで魔術だ……」


 サカタが復活した後、ラールを助け出すなんてあまりにも容易いことだった。ラールが閉じ込められているであろう地下牢の場所は、事前に大体の目星がついていた。サカタは、リルから地下牢の場所を聞くと、城の外からそこに向かって真っすぐ、歩き始めた。すると城を構成する石壁たちは、サカタを避けてぐにゃりと曲がっていき、穴が空いたのだ。

 サカタはその穴の中に姿を消した。間もなく、入れ替わるようにラールが出てきたのだった。


 シイナにたてついた以上、もうこのエルドにはいられない。

 追手に追いつかれる前に、早く城門の外へ出なければ。


 やがて、城壁が見えてきた。


「こっちです!」

 夜の閑静な街の中。その向こうで、フィルの声が届いた。リルは心から安堵して、その声に向かって急いだ。

 フィルは城門の前にいた。既に、数人の兵士が地面に倒れている。フィルは先回りして、リルたちの逃走ルートを確保してくれていたのだ。


「良かった、ラールさんも無事ですね」

「うん、あとはサカタが戻ってくるのを待とう」


 城門は既に開かれている。馬も二頭、そばにひかえている。兵士たちのものを奪ったのだろう。逃亡のおぜん立ては完璧に整っていた。

 あとは、サカタが戻ってくるのを待つだけだ。


 しかし……。


 リルはどうしようもない胸騒ぎに襲われていた。

 その不安が顔色に出たのだろう。フィルはリルの背中に手を回して、いたわる様にさすってくれた。

「大丈夫、サカタさんは必ずシイナに勝ちますよ。あんなにすごいスキルを持っているんだから」

「うん、そうね。でも……私が心配しているのは、サカタが負けることじゃなくって」

「え?」

 リルは、フィルの顔をじっと見上げた。

「うまく言えないけど、あの【男様】っていうスキルは、良くない気がするの。すごく邪悪なものを感じる……私の気のせいかもしれないけどさ」

 リルは、今しがた自分たちが逃げてきた道に、視線を投げた。闇夜に飲み込まれたエルドの市街地。

 その闇からは、サカタも、シイナもあらわれない。

 ただ悪魔が一匹、ゆっくりと姿をあらわす……。

 そんな恐怖を覚えるのだった。


 ☆


「ぎゃはははははははああああ!」

 俺は全身を震わせるように哄笑した。

 身をのけ反らせて、夜空にこの俺の笑い声を轟かせる。まるで敵しらずの獣が咆哮するかのように。


 俺とシイナの拳が交わった次の瞬間、とてつもない衝撃が発生した。それは言ってしまえば爆発そのものだった。

 地下牢は吹き飛び、天井は崩れた。その崩落は連鎖となって広がり、瞬く間に城は半壊した。

 崩落する瓦礫に飲み込まれそうになった俺は、それらを吹き飛ばし、瓦礫の上に立った。


 そうして俺は、全能感に支配されていた。こんなにも気分がいいことなんて、今までの人生で生まれて初めてだった。

 この絶大な力を、自由自在に扱える。俺は誰にも負けない。本気でそう思うのだ。


「ぐ……化け物め」


 瓦礫の下から、シイナが這い出てきた。シイナはもう、立っているのもやっとの様子で、満身創痍の状態だった。俺と激突させた右の拳を中心に、酷く負傷している。

 朦朧とした表情で俺を睨むシイナの目には、恐怖がうつっていた。

 俺は背筋がぞくりとするような快感に襲われる。


「ぎゃはははは! いいねぇその表情! 最高の気分だぜ!」

「……参った、私の負けだ。もうお前らには関わらない。必要なら金も渡してやる。だからもう、やめにしよう」

 シイナは言って、両手を上にあげた。服従を示すためか、そのまま瓦礫に膝をつく。誰がどう見ても、降参のポーズだ。

 だが俺はもう、自分を止められなかった。


 自分の意思に反して、口の端が吊り上がっていく。

「何言ってんだよ、まだやろうぜ」

 シイナは愕然とした表情で目を丸くした。

「……は? なんだと?」

「まだ戦おうぜって言ってるんだ。お前さ、すげー強いんだろう? じゃあまだまだ、戦えるよな」

 今の俺にはもう、自分の中の戦いたいという欲求が抑えられない。

 引きこもり時代、これとよく似た状況になったことがある。勝ちゲーでドーパミンが止まらなくなったのだ。勝つのが楽しくて、相手を蹂躙するのが楽しくて、俺は何時間も、ゲームをやめられなかった。

 今の俺はそれと同じだ。

 シイナが首をふるふると横にふる。

「いや……もう無理だ。出血が止まらない。これ以上の戦闘はもう……」

「知らねぇよ。喋れてんじゃねえかベラベラベラベラ。その元気があるなら、まだ戦えるだろう?」


 俺はシイナに向かって歩き出した。

「――だからさ、やろうや」

 絶望した表情のシイナが、俺を見上げる……。

お読みいただき誠にありがとうございます!


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こんな私ですが応援してくださったら励みになります涙

何卒よろしくお願いいたします!

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