拳と拳!
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☆
シイナは城に戻った後、真っすぐ地下牢に向かった。
さっさとあのラールという料理人の男ポイントを【ドレイン】で奪い取らなければ。そう考えたのだ。
城に娘たちが攻め込んでくるとは予想外だった。それどころかあのサカタという男は、兵士を退散させ、ベルルを撃退した。
あの男、男ポイントは低いが妙なスキルを持っていた。他人を催眠状態にかけるスキルか? あんなスキルは見たことがない。だがもう、本人は殺してしまったから、真相は知りようがない。
あとの雑魚たちはベルルに任せたが……何しろベルルは年寄りだ。裏をかかれて倒されないとも限らない。あの小娘たちに万が一、城に侵入されたら面倒だ。
邪魔が入らないうちにラールの男ポイントを全て、奪い取る。
シイナは地下牢に向かいながら、手から血が滴っていることに気づいた。サカタに一撃を食らわせた時、付着したのだろう。
サカタ……少しやぼったいが、若くて良い男だった。
シイナは手の甲にべっとりついたサカタの血を、ぺろりと舐めた。新鮮な鉄の味。
「くくく……」
シイナの不気味な声がひっそりと地下に響く。
地下牢に到着した。
通路の奥に向かって、大股で進んでいく。ここはその昔、以前の拷問好きの城主が趣味で作らせたものだという。ここで何人もの人間が命を落としたらしい。
そのせいか兵士の中でも、ここに立ち入るのを酷く怖がるやつがいる。しかしシイナはむしろ、この地下の鬱屈とした空気が好きだった。
この場所の空気には、古の怨念が漂っている。その恐怖の源泉こそが、己を強くするのだとシイナは思っているのだ。
「ラール!」
通路奥、突き当りの地下牢の前に立ち、シイナは怒号した。
地下牢の真ん中では、ラールが蹲っている。恐怖のせいか、こちらに顔が見えないよう、小動物のように体を丸めている。シイナはそのラールの様に、嗜虐的なものを感じて思わず、口角を吊り上げた。
「出ろ。お前の裁判を始める」
シイナは鉄格子の扉に向かって蹴りを放ち、無理やり施錠を破壊した。鉄扉はそのまま勢いよく開き、乱暴な音を響かせる。
「裁判? 裁判長はどなたで?」
ラールは蹲ったまま、くぐもった声で言う。シイナはそんなラールを見下ろし立った。
「私だ。私こそが裁判長だ。さあ、立て」
「へっ……違うね」
「なにっ」
ラールは突然、立ち上がった。その顔があらわになる。シイナはその男を見て、愕然とした。
ついさっき殺したはずの男、サカタがそこに立っているのだ。
「裁判長は俺だ。俺がお前を裁く!」
瞬間、鋭い一撃がシイナに被弾した。
それは単なるパンチだった。右の拳を振り上げ、思い切り突き出しただけの。武道の達人のシイナからしたら、笑ってしまうほど素人丸出しの一打だ。
不意を突かれたせいで避けられなかったが、なんら怖い一撃ではない。
なのに……。
サカタの拳は深く、シイナの腹部を抉った。まるで雷に打たれたかのような衝撃。シイナの体は後方へ吹っ飛び、地下牢の壁に激突した。
「ぐはあ!」
吐血。シイナは血を吐きその場に膝をついた。たった一発で、内臓が損傷したのだ。あまりにも重たい一撃……。
一瞬、シイナの脳裏に死がよぎった。それはかつて、エンナと激突した時、一度だけ感じたことのある感覚だった。
「どーだい、痛いだろう? ”俺のパンチよ超強くなれ”ってスキルにかけたのさ」
シイナはなんとか立ち上がった。
「……お前のスキルはただの催眠術じゃないのか」
「違う。俺のスキルは【男様】だ。万物が俺の命令に従う」
「万物が……? ありえん、そんなスキルなど」
「信じなくても結構。さあシイナ! ”ラールを返せ”!」
サカタが確信をもって叫んだ。途端、シイナは警戒し、構えの姿勢をとった。明らかに、スキルを発動する間合いだった。
だが、何も起きない。
張本人のサカタは、首を捻っていた。
「あ、あれ?」
☆
――相手との男ポイントの差がありすぎると、命令をきかせられないぜ。
頭の中の声の主は、あっけらかんとそう言った。
「おいおい! そういう大事なことは先に言っといてくれよ!」
恨みがましい俺の言葉に、しかしやつはもう何も答えなかった。戦いに集中しろ、ということだろう。
シイナの男ポイントは確か、2000から3000だとリルは言っていた。対して、俺の男ポイントは1……なるほど確かに大差だ。スキル【男様】を使って、シイナを操ることはできない。
ならば、”超強いパンチ”を繰り出したみたいに、肉体を使ってシイナと戦うしかないということだ。
俺は一人で、にやりと笑った。
「そっちの方が都合がいいや。俺は、お前をぶっ飛ばしたくて仕方がないんだからな!」
「何を一人で喋っている!」
シイナは叫び、俺に向かって突進してきた。また、あの一撃だ。この俺をほうむった、恐ろしい攻撃。
脳裏にあのときの恐怖と激痛がよぎる。一気に、全身が冷や汗で濡れた。
しかし今の俺はもう、その恐怖から逃げない。真っ向から、受け止めてやる。
「シイナあああ!」
俺は叫び、また右の拳を振り上げた。その拳を思い切り、シイナが突き出してきた拳に向かって振り下ろす。
次の瞬間、爆発するような衝撃が地下牢を震わせた。
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