激突!
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☆
ベルルは、うきうきとした足取りで、地下室に急いでいた。
そこでは、今日捕らえたばかりの生きのいい男、ラールという料理人を閉じ込めている。
「けひ……シイナ様に生贄としてささげる前に、ちょっとぐらい味見しても罰はあたらんだろう」
ベルルは、働き盛りの男を拷問にかけるのが何より好きだった。
男ポイントを持ち、健康な肉体と、健全な精神を備えた男は、将来に希望を持っている。その男の表情が絶望と苦痛に歪むのは、何よりの娯楽だ。
「わしのような年寄りにはそのぐらいしか楽しみがないのだ。これぐらい許されてしかるべきだ」
誰に言い訳するでもなく、ベルルは地下室に急ぐ。
ベルルはとうのたった魔法使いだ。もともとは首都で国王に仕えていた。将来を約束された、大魔法使いだったのだ。それが十六年前、エンナの引き起こしたクーデターのせいで、状況は一変した。
命を助けてもらう代わりに、首都から追放された。今では郊外のエルドに追いやられ、エンナの妹、シイナの側近をやらされている。
ベルルは、エンナとよく似たシイナの顔を見るたび、むかむかした。その苛立ちを発散するためにも、男を拷問にかけるという趣味はかかすことができない。
石階段を下りていき、ようやく、地下牢に到着する。
通路の奥の牢屋で、あのラールという男は捕らえられている。ベルルは喉をごくりと鳴らした。
「けひひ……さあてどこを切り刻んでやろうか」
一歩踏み出した、そのとき。
「ベルル様、大変でございます!」
兵士が一人、血相をかえて石階段を駆け下りてきた。ベルルは目を剥いて兵士を怒鳴りつけた。
「一体なんだ、騒々しい! くだらない用事なら許さんぞ」
「侵入者です。今日捕らえたラールの娘たちが、城に攻め込んできました」
兵士の言葉に、ベルルは一瞬ぽかんとした。
それから、腹を抱えて笑い出す。
「これは質の悪い冗談だ! あんな連中が束になってかかってきても、敵ではないだろう。さっさと追い返せ。場合によっては、殺しても構わん」
しかし兵士は顔を曇らせるのだった。
「そ、それが……苦戦しています」
「はあ?」
「あいつらはただものではありません。我々兵士たちは、誰もあいつらに敵わないのです!」
「な、なんだって……」
ベルルは呆然とした。目の前の兵士は到底、冗談を言っている顔色ではない。
嫌な予感がした。ベルルは兵士を押しのけて、問題の現場に急いだ。
☆
俺たちは城に向かう前に、一応、作戦会議らしきことをやった。
城に忍び込み、最上階を目指しシイナを叩く作戦。
誰かを人質にとり、交渉の上でラールを解放させる作戦。
色々と考えた。主にリルが……。
しかし結局俺たちは、堂々と正面から、シイナの城に殴りこむことにした。リルには散々反対されたが……。
しかし冷静に考えてみると、結局それが一番、俺たちに合ったやり方だ。
俺たちには城に忍び込むような隠密のスキルはない。
誰かを人質にとったり、卑怯な真似はしたくない。
ただ俺たちは、真正面から、悪い奴らをぶっ叩きたい。そうして、大切な人を助けたい。
やりたいことはそれだけだ!
「うひゃひゃひゃひゃ! むかつく連中を思い切りぶん殴る。これほど気分のいいものはないぜ~!」
フィルは体をのけぞらせて、哄笑していた。そんなフィルの周りには、気絶した兵士たちが山となっている。スキル【悪魔な小生意気】が発動したフィルは敵なしだ。
俺たちはシイナの城の、城門前にいた。真正面から殴り込みにきた俺たちは、あっという間に兵士たちに囲まれたのだが、フィルが次々と、そんな連中を倒していった。
その様子を見ていたリルが、驚いたように言う。
「フィルって、こんなに強かったんだ……」
「ああそうだ。山でもイノシシのモンスターを一撃でのしたりしてただろ? 単純な腕力ならフィルに敵う奴はいない」
残りの兵士たちは、強すぎるフィルに向かっていくことができず、城門の向こうで手をこまねいている。
あいつらがいくらかかってきても、フィルがいれば問題じゃない。だがちっとばかし、数が多すぎる。連中を全員、相手にしていたらきりがない。
ならば。
「そろそろ俺の出番だな。スキル【男様】!」
俺はスキルを発動させた。
瞬間、マグマを飲み込んでしまったかのように、胸の中心が熱くなる。心臓が激しく鼓動し、熱い血液を全身に巡らせる。
ざわざわと寒気にも似た感覚が背筋を走り、髪の毛が逆立つ感じがした。
「……ふう。慣れないねこのぞわぞわ感は」
ぼやきつつ俺は、無事にスキルが発動したことを確認する。
そして、城門を固める兵士たちに、近づいた。ただてくてくと、普通に歩いて。
「おいお前、近寄るな!」
先頭の兵士が怒鳴る。
「だーれが馬鹿正直に止まるかよ。”邪魔だどけ” ――誰が男だと思ってるんだ?」
ただその一言でよかった。俺の言葉を聞いた瞬間、連中は全員、一斉に城をあとにし、逃げ出していった。彼らは『どけ』という俺の命令を、忠実に遂行しているのだ。
そうしてあっという間に、城門前には誰もいなくなった。
「よしよし、うまくいったな」
スキルをまともに発動したのはこれが二回目だったが、確信した。
普通、スキルというものは生涯をかけて習熟していくものだという。だが、この【男様】というスキルは違う。
これは既に、高いレベルで俺に備わった能力だ。どうしてそうなっているのか、理屈はわからないが……。俺はこのスキルをもう、使いこなせている。
俺はあの幻覚ともしれない闇の中での会話を思い出す。もとから備わっているもの、とあいつは言っていた。それのおかげなのだろうか?
俺は振り返って、フィルと、物陰に隠れていたリルに声をかけた。
「急ごう、ラールを連れ戻すぞ!」
突然背後から、怒号が俺を叩いた。
「調子に乗るなよ小僧!」
ふいに、俺の体が宙に浮いた。
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