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スキル【男様】で無双!生意気な女盗賊たちをわからせてやる!~やっぱり男様には適わないんだ~  作者: みちまるぎちすけ
【第一章】えーっ! 男が一番偉いんじゃないんですか?〜スキル【男様】の秘密〜
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もとからあるもの

 嘘だ。

 リルはすぐに父の思惑に気づいた。

 ラールは嘘をついている。彼がエルドに潜入したスパイだなんて、そんなことはあり得ない。リルは生まれてからずっと、父と一緒にいた。ラールは心の底から、善良な人なのだ。

 ふいにリルは、幼いころのことを思い出した。

 それは、母が病気で亡くなってしまった日の夜のこと。ラールはリルにこう言った。


 ――お前は私の宝物だよ。大切な娘だ。だから、命に代えてでもずっと、お前を守ってあげる……。


 そうだ今、ラールは自分の大切な娘を守ろうとしている。

 俺はスパイだ、と自ら嘘の自白をすることで、もうベルルの邪魔をするな、とリルに伝えているのだ。

 このままベルルの邪魔をし続けたら、こちらの身まで危うくなる。

 ラールの必死の目が、リルにこう訴えている。

 もういい、さっさとここから立ち去れ。そして逃げるんだ!


「けひひ……白状しおったな。自白させる手間が省けたわい」

 ベルルの醜い含み笑いを聞きながら、リルは愕然としてもう、その場から動けなくなった。

 今、もう父を助ける手立てはない。


「そんな、お父さん……」


 気が遠くなるような絶望に襲われる。気を抜けば、ふっと気を失ってしまいそうだった。

「リルさん!」

 フィルが、後ろから駆けてきてリルを支えた。フィルも、ラールの考えていることに気が付いているようだった。小声で、リルに耳打ちする。

「落ち着いて。お父さんの考えていることがわかるでしょう。とにかくここから離れましょう。人が集まってきました……」


 フィルはそのままリルを脇に抱え上げた。そして、倒れたサカタの足を掴むと、ずるずる引きずって、ベルルから離れた。

 リルは離れていく父の姿に向かって、力なく手を伸ばした。


「離してフィル……お父さんを置いていかないで」

「できません。あなただって気づいているはずです。ラールさんは私たちを助けてくれたんですよ。だから、早く……」


 いつの間にか、ラールたちを取り巻くように、人だかりができていた。フィルは、その人だかりを縫うようにして、騒ぎの中心から離れていく。

 集まってきた街の人間たちが、拘束されているラールに向かって、口々に罵倒を投げた。

「この恥知らずめ! シイナ様のお考えを利用して、このエルドに忍び込みやがったのか!」

「男の癖に料理人をやっているなんて、おかしいと思ったんだ」

「シイナ様の顔に泥を塗りやがった、卑怯者め!」

 あまりにも心無い言葉。誰もが、ラールが悪人であることを疑っていない。中には、レストランによく来てくれた常連客もいた。

 これほど悲しいことがあるだろうか。リルは胸を締め付けられるようだった。ラールほど、客のことを考える料理人はいなかった。どんなときでも、大切なお客様から目を離さないで済むようにと、こじんまりとした店を選んだ。希少な野草を使った料理をリクエストされて、そんなの断ってしまえばいいのに、真剣に頭を悩ませていた。


「違う、お父さんはそんな人じゃない……」


 リルの小さな呟きは誰の耳にも届かなかっただろう。

 フィルはリルたちをつれて、どんどん人だかりから離れていき、もう、罵倒の声は聞こえなくなっていた。


 ☆


 ――気が付いたとき俺は、真っ暗闇の中にいた。

 ここには誰もいない。それどころか、何もない。ひょっとしたら時間すら存在しないんじゃないかと思う。

 おまけに愛用のジャージもどこかにいって、俺は裸だった。


「おいおい、どーいうサービスシーンだっつーの」


 ぼやく俺。独り言は闇に消えていく。

 俺は一つ、ため息をこぼして、頭をかいた。


「いい加減でてこいよ。言いたいことがあんだろ?」


 暗闇の向こうから、獣の威嚇にも似た、怒りの滲んだ声が届いた。


 ――てめえ、油断してんじゃねぇよ。あんなじじいにやられやがって。何が男様だ? 笑わせてくれる。


 俺は肩を竦めた。

「男様はスキルの名前だろうが。俺が名乗ってるわけじゃねぇよ」

 くくく、と声の主は暗闇の向こうで嘲笑をこぼす。


 ――スキルの名前なんかじゃねぇ。男様は、存在そのものだ。そう、お前自身だよ。

「わかった、わかった。それで、こんなところに呼び出して俺に何の用だよ」


 暗闇の向こうで、声の主は今度ははっきりと、口角を吊り上げて笑ったようだった。


 ――なに、お前はまだ、このスキルを使いこなせていないようだからな。もしもスキルに熟練していたら、あんなじじいにやられなかった。だからちょっとばかし、強引な手を使わせてもらうぜ。


「な、なんだよ。何をするつもりだ」


 ――お前の中の男様を、開かせてもらうぜ。


 突然。

 暗闇の向こうから、巨大な手が伸びてきた。それは、俺を一握りにしてしまいそうなほど、巨大な手だった。

 それも人間の手じゃない。恐ろしいほど獰猛な爪を生やした、獣の手だ。

 俺は恐怖に襲われて、咄嗟に走り出した。毛むくじゃらの手から、必死に逃げる。


「やめろ!」


 笑い声が俺を追いかけた。


 ――怖がるな。こいつは、元からお前が持ってるものなんだからよ。

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