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スキル【男様】で無双!生意気な女盗賊たちをわからせてやる!~やっぱり男様には適わないんだ~  作者: みちまるぎちすけ
【第一章】えーっ! 男が一番偉いんじゃないんですか?〜スキル【男様】の秘密〜
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油断

 レストランに戻った俺たちは、信じられない光景を目撃した。

 ラールが、数人の兵士たちに手錠をかけられているのだ。

 彼らは今まさに、拘束したラールを連れ去ろうとする瞬間だった。


 俺たちは全く状況が理解できず、呆然とした。これではまるで、ラールは罪人のようではないか。

 だが彼は絶対にそんな人ではない。それは、会ったばかりの俺たちにもよくわかる。

 一体、ラールに何が起こっている?


「お父さん!」


 リルが叫び、駆け出す。俺は咄嗟にそんなリルを後ろから捕まえて、止めた。

 兵士たちのまとう雰囲気に、殺気が混じっている。もしも邪魔立てするなら、子供でも容赦しない。そんな殺意が、兜の向こうの鋭い視線にはっきりと、含まれていた。


 リルは俺の腕の中で暴れた


「離せ、お父さんが!」

「落ち着け! 俺が話す。フィル、リルを捕まえててくれ」


 俺はリルをどうにかフィルに受け渡し、ラールの元に近づいた。動揺した目が俺を見つける。声をかけようとした瞬間、すぐ、兵士が俺の前に立ちふさがった。


「おいお前、近寄るなさがれ!」

「待ってくれないか。事情を聞かせてくれ。どうして彼を捕まえているんだ?」

「お前の相手をしている暇はない」

「理由を離せないならこれは不当な逮捕じゃないか!」


 大声を出した俺に、兵士たちが一斉に、腰の刀に手をかけた。一触即発の空気が場に走る。俺は背後のフィルが戦闘態勢に入った気配を感じた。

 しかし俺は、迷っていた。スキルを発動するのはかえって危険ではないか?

 馬車での一件とは違い、目の前にいる兵士たちは少しも油断していない。怪しい動きをしたら即座に切られるだろう。なら、下手に動けば、それこそ殺し合いが始まってしまう。


 と、兵士の影から、背の低いローブをまとった老人が姿をあらわした。

 やつはぶつぶつと独り言を呟いた。

「さすがブリスター人の娘だ。最も効率が良い最短ルートを辿って、山から戻ってきおったか。まさか父親をさらう場面に間に合うとはな。計算が狂ったわい」

「お前、こいつらの上の人間か?」

 俺はローブの老人の不気味な独り言は無視し、質問を投げた。やつは、何がおかしいのか下品な笑い声をたてる。

「正しく。私はシイナ様の側近、ベルルだ」

「なら事情を話してくれ」

「いいだろう。このラールという男は、シイナ様の男女平等政策を利用し、このエルドに潜入した男スパイだったのだ。だから私たちはこの男を捕らえて、処刑せねばならない」

「な、なんだそりゃ」


 俺は唖然としてしまう。事情を聞いたところで、わからないことが増えるだけだった。ラールがスパイだと? 荒唐無稽にもほどがある。

 また、俺はこのベルルと名乗る醜悪な老人が、全く信用できないのだった。

 頭の悪い俺でもわかる。こいつは嘘をついている。何らかの理由で、ラールを連れ去ろうとしているだけだ。


 背後でリルが猛然と抗議を始めた。


「何よそれ! お父さんはスパイなんかじゃないわ。ただの料理人よ。こんなの何かの間違いよ!」

「黙れ小娘! ですぎた真似をすると親子そろって牢屋にぶち込むぞ!」


 俺は、すっとリルに向かって手のひらを向けた。


「騒がないでいいリル、ここは俺に任せろ」


 俺は覚悟を決めた。今こそ、戦わなければならない。

 俺は小さな声で呟く。

「――今からスキルを発動する。聞いてるか【男様】……。また俺に力を貸してもらうぜ」


 暗い、水面の奥から響くような声が、頭の中で俺に応えた。


 ――ああ、構わないけどよ。


「なんだ? 歯切れが悪いな」


 ――お前、もうこのじじいに一本取られてるぜ。


「あ?」


 それは瞬きにも満たない瞬間だった。

 老人が俺に向かって指を向けた。

 次の瞬間。

 眼前で突如として、閃光が炸裂した。それは凄まじい光の爆発だった。視界の全てが、真っ白になる。

 声を上げる間もない。

 気づけば俺は、意識を失っていた。


 ☆


 リルは、喉の奥から血の味がするほどの悲鳴をあげた。声を抑えることはできなかった。

 サカタが突然、眩い光とともに倒れてしまったのだ。


「サカタ! ねえ、しっかりして!」


 リルは、フィルを振り払って、倒れたサカタに駆け寄る。

 仰向けに倒れたサカタは、目を閉じてぴくりとも動かない。外傷はない。すぐ、瞼をめくって瞳孔の動きを確認する。光には正常に反応した。ただの失神状態だ。ひとまず、ほっと胸を撫でおろす。


 その様子を眺めていたベルルが、下品な声で笑った。


「安心しなお嬢ちゃん、ちょっと驚かして気絶させただけだよ。この男、どうやら何かのスキルを持っているようだったからね」

「酷い……どうしてここまでするの」

「おいおい、悪党扱いはやめておくれ。私たちはただ、お前の父親の犯した罪を裁かなければならないだけさ」

「罪なんて……私のお父さんはただ、レストランを経営していただけよ」

「それこそが仮の姿だったのさ。お前の父親の本性は、狡猾な悪魔さ」


 違う! そう叫びたいのを堪えて、リルは地面に手をついた。ベルルに向かって、懇願する。


「お願い、これはなにかの間違いよ。もう一度調べなおして。お父さんを連れて行くのはやめて」

「けひひ……乙なもんだね幼い少女の哀願する姿は……。ぞくぞくしてしまうよ。だけどねお嬢ちゃん、私らの調査に間違いはない。このラールという男は間違いなく、悪党だ」

「お願い! お父さんは悪い人じゃない!」

「しつこいな……これ以上私らの仕事の邪魔をするなら……」


 そのときだった。

 突然、ラールが怒鳴り声をあげた。


「やめろリル! もう下がっていろ」

「お、お父さん、どうして? お父さんはなにも悪いことをしてない。そんなの、私がよくわかってるよ」

 ラールは、血走った目でリルを睨みつけた。そしてまた、突き刺すような勢いで怒号するのだった。

「馬鹿な娘だ! ベルルの言う通り、私はスパイだったんだよ。私を妄信するお前は、騙しやすくて助かったもんさ! あーははははは!」

 ラールはのけ反って哄笑した。

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