はじまりの男様
――俺は、檻の中で愕然としていた。
なんだよこの状況は。
ついに俺も冴えない人生からおさらばして、異世界転生できたっていうのに。
この展開は、ハードモードすぎやしないかい?
「きゃははははっ!」
甲高い笑い声と共に、投げナイフが飛んでくる。
「うおおっ!」
俺は頭を抱えて、その場に伏せた。ナイフは鉄格子に弾かれて、檻の外に落ちる。
何がおかしいのかそれでまた、どっと笑い声が起きる。
くそっ、連中は完全に酔っぱらってやがる。
さっきから何度ナイフを投げられたかわからない。一度は顔の横を通り過ぎた!
このままじゃ本当に、嬲り殺される。
ここは、夜の森の中。
檻の外で、ほぼ半裸みたいな恰好をした女盗賊たちの首領、ルミールがぐいっと酒瓶を煽った。奴らは焚火を囲んで、宴会の真っただ中だ。
「きゃーはは! おいサカタ! 刃物なんか怖がってんじゃねえよ。情けない男だなお前は」
「むちゃくちゃ言うなアホ! 当たったら死ぬだろうが!」
俺の必死の言葉に、ルミールがまた大声で笑った。それにつられて、奴の仲間たちも俺を笑う。
俺は現在、まるで獣のように檻の中に閉じ込められていた。
どうしてこんなことになったのか。
一言でいえば俺は、ルミール率いる女盗賊たちに誘拐されてしまったのだ。
そうあれは約一日前のこと。
不運な交通事故に巻き込まれた俺は、気が付いたら、この異世界に飛ばされていた。
中世ヨーロッパを彷彿とさせる、雄大な自然が広がる景観に囲まれて、俺は最初こそ大はしゃぎした。
その浮かれた気分が油断を誘ったのだろう。
とにかく町を目指そうと歩き出した俺は、気が付いたらこいつらに囲まれていたのだった。
俺は鉄格子を掴んで叫んだ。
「くっそ、ここから出せよ!」
「そうはいくか。お前は貴重な働き手だ。これから俺たちの支配する村に連れていって、馬車馬のように働いてもらうぜ。おっとその前に」
ルミールはごそごそと胸元のあたりをまさぐった。俺はどきりとしてしまう。ルミールはビキニ姿に甲冑という、防御したいのかしたくないのかよくわからない恰好をしているのだ。その矛盾した露出の高い恰好は、元・引きこもりの俺には刺激が強い。
ルミールは懐からアクセサリを取り出した。小さな石に、チェーンをつけただけの簡素なものだ。
ルミールは手のひらをうえにして、そのアクセサリを指先にぶら下げた。その指先が、俺に向けられる。すると、ぼうっと石が光りだした。
「お前の男ポイントをチェックさせてもらう。もしも男ポイントが高けりゃ、もっと金になる使い道があるからな」
ルミールの手のひらの上に、ステータス画面が現れた。俺はぎょっとする。まるでゲームの世界だ! どうやらあの石で、俺の能力を数値化しているらしい。
序盤で自分のステータスが知られるのはありがたい。さて、俺の初期値はどうなってる?
体力 1
知力 1
腕力 0
男 1
…………。
「ぎゃーはっはっはっ!」
ルミールたちは酒瓶を放り投げて、腹を抱えて笑い出した。
この世界のステータスの平均値など知らない俺でも、わかる。
この俺のステータスはかなり低いということが。
俺は涙目になって怒鳴った。
「そっ、そそそんなに笑うな馬鹿! まだ俺は十七歳だからな。まだ成長段階なんだよこれからの男なんだよ!」
「くくくっ……しかし、男ポイントが1あるやつは久しぶりに見た。ちょっとは役に立ってくれるかな……ん?」
と、ルミールは俺のステータス画面を凝視した。
「なんだ? このスキル【男様】って」
その言葉に俺も目を凝らす。それは、俺のステータス画面の下の方に、ひっそりと書かれていた。
おおっ! 俺は興奮して前のめりになった。
異世界転生のあかつきに、特別なスキルが付与されるのはよくある話だ。
そしてそんな夢のスキルを持ったものは、気に入らない奴らを蹴散らし、胸のすくような俺TUEEE展開を突っ走る。
一瞬、そんなスピード感ある展開を期待した俺だったが……。
――いやいや、なんだよスキル【男様】って。なんだその頭の悪い言葉は。
俺が元いた日本では、男女平等が当たり前だった。お茶の頭におーいをつけるだけで怒られる時代だ。男に様をつけるなど、言語道断。男尊女卑の極み。というか、時代錯誤にもほどがある。
そんな意味不明のスキルが、役に立つとは到底、思えなかった。
「終わった、俺の人生……」
うなだれる俺など知ったことではないらしい。ルミールは「ま、いいや」と興味なさそうにアクセサリをしまった。
「とにかくこいつは村送りだな。今日は遠征で疲れちまったから、そろそろ眠ろうぜ」
ルミールは仲間たちにそう声をかけて、立ち上がった。仲間たちはまだ飲み足りなそうな顔をして、首領を見つめるが、ルミールは無視して、簡易テントの方に行ってしまった。
「あーあ、もうちょっと騒ぎたかったのにさ」
連中はぶつぶつ文句を言っている。それにしても、こいつらはルミールと同じく、揃いもそろって露出の高い恰好をしている。焚火に照らされた女たちの肌が、ぬめぬめと怪しく照っていた。
うーむ、目の毒だ。
とりあえず、これ以上ナイフを投げられる心配はないらしい。俺は焚火を背にして寝転がった。体力を消耗してしまってはいざというとき、逃げられなくなってしまう。
「ふふふ……」
怪しい声が俺の背中をなぞった。嫌な予感がして、ふりかえる。
いつの間にか女盗賊たちが、俺の檻を囲むようにして立っていた。
「な、なんだよお前ら」
俺の言葉を無視して、やつらはこそこそと話す。
「こいつさぁ、村に送る前に味見してやろうぜ」
「うん、いいね。よく見りゃ可愛い顔してるし」
「男ポイント1なんて、町の玉なしどもに比べりゃ、上等だ」
「あ、あのー君たち。一体何を企んでいるのかね……」
やはり俺の言葉には誰も答えず……
がちゃり。
檻の鍵を開けて、一人が中に入ってきた!
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