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強行軍は続く

「私共の仲間が、とんでもない事を言い出したみたいですな……申し訳ない、お詫びにラクダは融通させていただきます」

「た、助かります……あの、何か誤解はあったようですが」


 商人達は僕の話を聞いてくれるようになり、ラクダも三頭貸してもらえる事になり、馬はルーダン城に返しておいて貰える事になった。


「わたくしとレーニャで借りたラクダですわ。わたくし達も参ります、レーニャはクローゼさまと一緒のラクダに乗せて下さい、残る二頭に私とポポロンが」

「シルレイン殿、俺は自分の手足で走るからいい」

「砂漠は広いのよポポロン、御願いだから乗って」

「はっきり言うが俺は動物に乗った事がないし乗り方を知らん、わかるだろ俺の見た目、ほぼ狼なんだから。狼がラクダに乗ってたらヘンだろ」

「ラクダは前のラクダについて行くから、貴方は座っているだけでいいの」


 結局三人はついて来る事になった。僕はレーニャと二人乗りで、シルレインとポポロンはそれぞれ一人でラクダに乗る。


「うおっ、高い!? 大丈夫なのか、突然振り落とされたりしないか!?」

「騒ぐとラクダが怒るから、静かにポポロン」

「わたくしが先導しますわ」

「えへへ、領主さまの背中あったかーい」


 ゴロゴロと喉を鳴らすレーニャを背に、僕は日の落ちた砂漠でラクダを走らせる。月明りは十分に明るく、ラクダはゆっくりと快調に走る。

 ポポロンは最初はうちはプールに入った時と同じくらいビビッていたが、すぐに慣れてくれた。

 やがてまた東の空が明るくなり、朝が来る。行きに遭難者を見掛けた場所も通った。そこにはもう泥水はなかったし、風に吹かれて形を変える砂が、そこにあった窪みまでもかき消してしまっていた。

 昼前には、砂漠の向こうの山並みが見えて来た。僕らは最速で砂漠を越す事に成功した。


   †


「今、元気な乗用馬は居ないよ、最近キャラバンが山賊に襲われて、連れていたいい馬をかっぱらわれちまってね」


 しかし砂漠の向こうの町には、ラクダ市はあったが良い馬が居なかった。


「だめだ、荷役用の小さな馬か年を取った痩せ馬しか居ない、これじゃ急ぎの山越えには連れて行けない」


 この先は山道が続くしラクダには不向きだ。こうなれば徒歩で行くしかない。

 僕は出来るだけ早歩きで山道へと進みだす。シルレイン、ポポロン、レーニャもついて来る。

 峠のこちら側は木々もまばらなサバンナのような山肌が続いている。道はなだらかな斜面に沿って、ほぼ真っすぐに続いている。

 そして峠を越えると、次第に草木が多くなり、道も曲がりくねりだす。彼方には森林も広がっている……

 僕は暗い気持ちになる。王都からルーダン城への旅は、ゆっくり歩いてではあるが20日もかかった。

 一方王都へ帰るこの旅はここまで最速ルートで来てると思う、だけどここからは行きと同じペースで進まなくてはならないのか?

 嫌だ。僕は一刻も早く都に辿り着きたい、そして一人でも多くの人を救いたい。何か手だてはないのか? 馬を手に入れる方法は……

 そこへ。


「こいつ、いつかのガキじゃねーか」

「へへへ、今日は逃がさねえぜ、その女を置いていけ」

「獣人の娘も居るじゃねーか、ついでに可愛がってやるか」


 折よく。いつかの山賊が10人ばかり、馬に乗って、岩陰から現れた。


「な、なんだこのガキ、死にてぇのかグギャッ!」

「その馬を寄越せェェェ!!」


 焦りで少し見境をなくしていた僕は剣を抜き、馬上で油断してふんぞり返っている男に襲い掛かる。下顎を剣先で突き上げられた男は弓なりになって馬から転げ落ち、僕は素早く手綱を掴み馬の背中に飛び乗る。


「野郎、ぶち殺ゲェ!」


 怒って斧を振り上げた男は飛んで来たレーニャに側頭部を蹴り払われて白目を剥いて落馬する、その間にポポロンは二人の男を馬上から叩き落としていた。

 シルレインが鋼鉄の三節箒で山賊を馬から突き落としながら叫ぶ。


「クローゼさまは下がって!」

「シルレインが下がれよ!」


 僕はシルレインの方を向いていた別の山賊に背後から迫る。山賊はそれに気づいて、逃げるか、シルレインを人質に取るかしようとして馬を急かすが、僕の馬が追いつく方が先になった。僕は躊躇なく剣を振りかざす。


「ぐわぁぁ!」


 また一騎、山賊を馬から突き落とした僕は回りを見渡す。


「ひ、ひいいっ!? 退け、退けーっ」

「お前らも馬を置いていけ!!」


 山賊は倒れた仲間を放り出して逃げ出す。僕はすぐに後を追う。


「お戻り下さい、クローゼさま!」

「俺たちも追うしかない、しかし領主どのはあんなに強かったのか」

「王都の屋敷に居た頃は毎日武芸に励んでおられましたわ、お気が優しいので実戦は苦手のはずなのですが」



 結局山賊から残らず馬を取り上げた僕らは、さらに山道を急いだ。

 馬はラクダと違いきちんと乗らないと動かない。そしてポポロンとレーニャにはもちろん乗馬の経験がなく、特に自分で走る方が早いと言い張るポポロンを馬に乗せるのは苦労した。


「乗れないなら置いてくよ! いいから言われた通りやってみろよ!」


 それでもどうにか馬術の基本を叩きこんでやると、歩くよりはずっと早く移動が出来るようになった。

 そして馬を乗り換えながら山岳を抜け、田園地帯を進むと、城壁のある田舎町が見えて来た。しかしその町は門を閉ざしている。


「この町に入りたい者は外のテントで三日ほど過ごしてもらう。その間に病気の兆候をみせた者は追放となる」


 町の衛兵は真顔でそう言った。都人達が言っていた通りだ……人々の間にも疑心暗鬼が広まっている。疫病も怖いけど、そういう分断はもっと怖い。


「僕は町に入りたいんじゃない、四人分の食べ物を買いたいだけなんだ、買い物くらいさせてくれてもいいだろう?」

「だめだ、だめだ。規則は規則だ」


 僕が正門で衛兵の気を引きつけている間に、耳と尻尾を隠せば獣人には見えないレーニャは、城壁を乗り越えて中で四人分の食べ物を買って来てくれた。

 僕らは城壁から離れた林の縁で焚き火を焚く。


「この町には、病気の人とかは居ないみたいだったよ。みんなあまり外に出ないみたいだけど」

「ありがとう……やっぱりレーニャがついて来てくれて良かったみたいだ」


 食事を摂り、二、三時間休んだ後、僕らは出発する。そして進む、夜も、昼も。途中の田舎村では厩舎を見つけて交渉し、疲れて腹を空かせた10頭の馬を引き取ってもらい、5頭のそれなりの馬を貰う。

 そういう交渉をしている間も、他の村人たちは僕らを遠巻きに、友好的ではない視線で見ていた。


「そいつらは獣人を連れているぞ、旅芸人は疫病を広める疫病神だ!」


 しまいにはそんな事を叫ぶ奴まで現れる。僕は自制を促す視線をポポロンやレーニャに向ける。だけど二人は互いに顔を見合わせ、大人しくしているだけだった。


「あの、ごめん……こんな事に付き合わせて」

「俺たちは勝手について来ているのだ、そんな顔をしないでくれ」

「それにあたし達、ああいう目で見られてるの知ってるの」


 獣人達にとって、普通の人間から謂れなき差別を受ける事は日常茶飯事だという。レーニャが僕を初めて見た時に怯えていたのもそういう事だ、獣人嫌いの人間だったらどうしようと思っていたのだ。

 僕は手を伸ばし、二人の首にぎゅっと抱き着く。


「それなのに、どうして二人ともこんなに僕に良くしてくれるんだ。ありがとう、それから、帰れなんて言って本当にごめん」


 僕らはまた出発する。ポポロンが乗る馬が潰れないよう、こまめに乗り手を替えながら。

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