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都からお客さんが来た

 レーニャのお父さんは、レーニャが小さい頃に海を渡って行ったという。僕はそれを最初は額面通りの話として受け取っていたのだが、どうもそれは亡くなったという意味らしい。

 この島の獣人たちは年月を経て、或いは事故や戦争によって肉体から解き放たれると、大海を渡って知らない土地へ行くのだそうだ。

 そんな祖先たちは年に一度この浜に帰って来る。村人達は篝火を焚き、酒とご馳走を出して歓迎するという。そんな祭りの日が、数日後に迫っていた。


 ルーダン城の城下は賑わっていた。

 もちろん祭りの前というのもあるけれど、最近は出来稼ぎ先から戻って来てここで働いている大人も増えたのだ。少ないが大人の男の獣人の姿もある。

 浜には桟橋も出来た。丸太と板で作った海へと突き出す橋だ、ここに船をつける事により、効率よく荷物を積み下ろし出来る……そう、ルーダン城の浜にも、海洋商人が直接取引をしに来るようになったのだ。

 商人は主にこの辺りでは不足している鉄器や繊維製品などを持って来て売り、村の特産品となった干し魚や干し貝などを買って帰る。

 島の他の集落からも、行商人がルーダン城の市場を利用しにやって来る。彼らは取引のために出店税を払ってくれて、それはありがたいのだが。


「こんなに人が増えて取引が多くなって来ると、やっぱり守備兵が必要だよね」


 僕は毎日のように市場を訪れ守備兵を募集していたが、志願者は現れなかった。いや、居る事は居るんだけど……


「だからー、兵隊さんなら私たちがなるってばぁ、ねえ」

「わしらがやるのじゃー、領主さまぁ」


 集まって来るのは犬の女の子にキツネの女の子、うさぎの女の子くらいだ。だけどこればかりは女の子に御願いするわけには行かない。水汲みとは違うもの。


「あたし達見た目より力も強いし足だって速いんだからね! 泥棒が逃げたって、ぴょん、ぴょんのぴょーんで捕まえちゃうんだから!」

「ありがとう、気持ちは嬉しいよ、だけど規則は規則だからさ」


 そんなある日。浜に一隻の、地元では見慣れない船が現れた。小さいけれど、立派な船尾楼を持つ外洋船だ……大陸を遠回りして、ここまで来たのだろうか?


   †


「やっと着きましたのね、ずいぶん長い航海でしたわ」

「ずいぶん寂れた所だが、宿くらいあるんだろうね?」


 船から降りて来たのは都の金持ちのような、着飾った人達だった。なんだか場違いな雰囲気だな……って僕も都の公爵家の六男だけど。

 一行の中の、大きな鞄を持った身なりも恰幅もいいおじさんが僕に目を止める。


「あーそこの君、その格好は貴族の小姓か何かだろう、私の鞄を馬車まで運んでくれないか」


 僕が何か答える前に、シルレインが影のようにスッと現れて僕とおじさんの間に立ちはだかる。


「こちらはミストルティン公爵家の六男にしてルーダン城領主、クローゼ・ミストルティン様にあらせられますわ、紳士殿」

「え……ええっ!? やっ、これはその、とんだご無礼を」


 恰幅のいいおじさんはたちまち片膝をつく。一緒にいたおばさんは両手を握りしめてにんまりと笑う。


「まあ、それではここは公爵様の領地ですのね!? 立派なお城もございますのね?」


 船からはあわせて12人の都会人が降りて来た。一方、この船はもう次の目的地へ向かってしまうのだという。それで都会人たちは、宿を探しているというのだが。


「村には宿は一つしかないし、今は商人たちで一杯ですよ。近々祭りもあるから」

「そんな、何とかなりませんか領主様、我々は都から来たのです」

「うちの城で良かったら寝泊りは出来ますよ、何もおもてなしは出来ませんが」

「まあ素敵! ありがとうございます領主様!」


 仕方ない。実際今この村で空いている建物はルーダン城ぐらいだ。

 手もみをするおじさん、満足げなおばさん……だけどこの人達、ルーダン城を見たらがっかりするだろうなあ。


「ところで領主様、お城の兵士の方はどちらでしょう、私たちはその、たくさんの荷物を運ばなくてはならないのですが」


 都会人の後ろでは外洋船の水夫たちが、次々と鞄や木箱を持って降りて来て、桟橋に積み上げている。旅行というより引っ越しの荷物みたいだな。それで、誰がこれを城まで運んでくれるって?

 僕は慌てて、荷物を運んでいた船長っぽい体格のいい船乗りを捕まえて聞いた。


「あの船長さん、この荷物、山の上の城まで運んでもらうわけに行きませんか」

「俺は船長じゃないよ、荷物はこれで全部だ、じゃ俺達はこれで。抜錨ぉぉー」

「待って下さい、船長さんはどこですか」


 しかし不精ひげを生やした水夫は僕の手を振り切り、舷門を飛び越えて船に戻ってしまった。一本マストのあまり大きくない外洋船はサッと錨を上げ帆を張ると、スタコラサッサと逃げ出して行く。どうするの、このお客さんと荷物は。


「ねっ領主さま! もう私たちに頼るしかないんじゃない?」

「あたしたち領主さまの兵隊になりまーす」

「荷車を借りて来たよ、領主さま」


 そこに得意顔の女の子たちが集まって来る……確かに、この子たちみんな見た目より力持ちなんだよね。


「もう、いいかな……シルレイン」

「仕方ありませんわね」


   †


 案の定都会人はルーダン城を見ると露骨にがっかりした顔をしたが、他に行く当てがないという事も理解していたのだろう。促されるままに敷地に入って行く。


「お客さんには母屋を使ってもらおうかな。僕らは小屋に移ろう」


 靴を脱いで上がるというのも都にはない習慣だ。僕はさる事情で何の戸惑いもなくそれを受け入れていたが、都会人たちは面食らっていた。


「ああ……じゅうたんもないのだな」

「ベッドは? まさかこの床にそのまま寝るの?」


 不満を漏らす都会人たち。僕は思っていた事を聞いてみた。


「それで皆さんは一体なぜこちらに来られたんですか? この辺りに親戚でもあるんですか?」


 都会人たちは顔を見合わせていたが、やがて例の恰幅のよいおじさんが答える。


「ああいえ、観光旅行ですよ。都会暮らしはその、退屈ですから、たまには思い切り遠くへ行ってみたいなと思いまして」


 実際都会人たちは着いて一時間くらいは文句を言っていたが、すぐにルーダン城の畳と縁側の快適さに馴染んで行った。その周りでは臨時の兵士となった女の子たちが、甲斐甲斐しく荷物を運び込んで行く。


「本当に助かります領主様……それにしても、獣人というのは可愛らしいですねえ、私、もっと恐ろしいやつを想像していましたよ、いやあ、いいですねえ獣人」


 そう言って、恰幅のいいおじさんはだらしなく目尻を下げる。


 都会人の一行には僕より少し小さいくらいの子供も三人ほど含まれていた。子供たちは船旅から解放された興奮も手伝ってか、文句より好奇心が勝る様子で、城の敷地の中や外を駆け回っている。

 男の子が二人、女の子が一人か。学校は休みなのかな? 異世界でも裕福な都会の子は大抵学校に通っているんだけど。


「君たちも旅行中なの? 僕たちは都から来たんだ」

「私たちはこのお城の兵士よ! かっこいいでしょ」

「えーっ、ウソだぁ、都の兵士とぜんぜん違うぞ!」


 ああ。さっそく臨時の兵士となった獣人の子たちと仲良くなってる。僕はその様子を見ていたシルレインに囁く。


「純真な子供同士は話が早いね」


 シルレインは振り向いて項垂うなだれる。


「貴方ももう少し年相応に振る舞って下さっても宜しいのですよ、阿漕で助平なクローゼさま」

「どんな怪物なのさ僕……純真だよ僕は十分」


 まあ本当はシルレインの言う通り、年相応ではないんだけど。

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