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どこかの薬師の師弟譚  作者: humiya。
南のむらにて
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11話 約束を交わす

 むらに着き、患者の待つ家へと入り早速調合を始めました。師匠の怪我も気になりますが、師匠がそれよりも患者と聞かず、わたしは師匠に賛同して薬の調合を急いで行います。


「さっき混ぜた薬草、他の無害のだけそのままで毒になる奴だけ省け。採ってきたのはこちらでやっておくからそっちの調合をしておけ。」


 師匠から指示を受け、今度こそ獣人の患者に使える薬を生成していきます。そして師匠が仕上げたものと合わせ、水で薄めつつ患者に飲ませました。

 そうしてやるべき事を終え、患者のご両親にもう大丈夫だと伝えてからやっと一息つきました。


「ありがとう御座いました!」

「あぁ。後数日は薬を飯を食った後に飲ませろ。外に出たい、動きたいなどと言っても絶対に寝かせておけよ。」


 きつく師匠はご両親に言いつけ、こうしてようやく仕事を終えたわたし達は挨拶を交わしむらを後にします。師匠が飛んで行こうとしましたが、わたしが声を掛けると諦めたようにわたしの両腕に収まり、わたしは師匠が落ちぬ様に抱えて歩きました。師匠はまた溜息を吐きました。


「弟子に説得を受けるなど、私はやはりまだまだだな。」


 今まで溜め込んでいたものを吐きだした為か、師匠は今まで吐く事の無かった弱音を私の見ている所で口にしました。

 きっと師匠はわたしが見ていない所でもこんな風に弱音を吐きだしていたのでしょ。あくまでも予想ですが、そうであったなら今、少しだけ嬉しく思います。


「それならわたしだってそうです。あれだけ調合を教えてもらっておきながら、失敗して師匠に叱られました。」

「…そうだな、お前もまだまだだな。」


 お互いに修行が不足していると笑い合い、今までの鬱屈とした空気を徐々に抜けていき、今まで感じた事の無い不思議な空気をわたし達を包んでいる様に感じました。


「そんなお前を放っては置けないな。まだ私が見ていなくては危うい。」

「…はい。これからもどうぞ、ご教授お願いします。」


 雨はすっかり上がり、雨粒の光る草は弱い風に煽られて音を立てて揺れています。きっとこの心地良さは明日も続くでしょう。


 小屋に帰ると、中では片付けられていない本や道具がわたし達を待っておりました。


「あっ、まだ怪我が痛いから掃除の続きは任せた。」

「もうっ師匠!?」


 薬や毒には厳しいのに、私生活となると途端に自分に甘くなる所は師匠の相変わらずな所です。

 結局掃除や片付けはわたし一人でやり終えました。


「それにしても、師匠にお友達がいたのは驚きました。」

「あぁ?どういう意味だオイ。」


 言い方が悪かったせいで師匠がとても切れて掛かって来ました。


「いえ!師匠が他人と関わるのはあくまで薬師と患者として接するところしか見ておりませんので、しかも師匠がヒトに悪戯を仕掛けるなんて見たことありませんので。」


 言葉が足りなかったのを改めて、師匠に聞かせるとやっと師匠は落ち着いたのか納得した様で腰を下ろしました。


「それこそおごっていたのさ。昔から暇さえあれば油断している奴に自慢の魔法を掛けてやって、それで狼狽える姿を見ては楽しむのを生きがいにしていたからな。」

「ソレは…ヒドイですね。」


 正直に感想を述べると、どこ吹く風かといった風に師匠は余裕そうな表情をしていたが、彼女の話題となり表情は一変しました。


「そんな私にアイツは怒るどころか小さな子どもをたしなめる様な言い方で私の悪戯全てをあしらっていった。

 ソレに対して私は意地になってな。どうにか驚かせるか泣かせるかさせてやると毎日彼女の元へと訪れては色々とやったもんだ。」


 とても想像出来ない、当時の師匠の姿を想像しようとわたしは師匠の話にのめり込んいました。


「…だが、いつしか私は彼女にただ相手してほしくてそんな事を続けていた事に気付き、悪戯もしなくなり何時の間にか彼女とただ話をするだけになった。

 彼女の顔を見ただけで帰った日もあったな。」


 まるで恋人との逢瀬をしていたかの様な師匠の話に、わたしはほんの少し頬が熱くなっているのを感じました。


「…彼女の髪は真白い羽と同じ、白く銀色の様に光っていた。きっと彼女の子どもは彼女に似ているんだろうな。」


 件の事があり、出産したというお子さんがどんな子なのか知る事無く師匠は遠く離れたこの地に訪れたのだと言って、話をしめました。


「…きっと会いに行きましょう。」

「あぁ…いつか、絶対にな。」


 小さく強く約束し、その約束が果たされる日はきっと近いです。

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