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苗木

作者: 桂田力太郎

「20歳、30歳になった自分を想像すると、すごく大人になってそうな気がするだろ。でもなぁ、今お前らが友達と話していて楽しいと思う感覚だったり、宿題めんどくせえなって思う感覚って40歳になっても何も変わらないんだぜ」


これは私が中学3年生の時の担任の先生の言葉だ。


今この言葉を覚えている当時のクラスメイトはどれくらいいるだろう。当時は先生がまた何か言ってるとしか思わなかったのではなかろうか。かくいう私も『その言葉を聞いた瞬間に全身に稲妻が走るのを感じた』などという感想は一切なく、いつものように先生の話を何となく聞いていただけだった。


しかし、その言葉は、1ヶ月、半年、1年、、幾年の月日が流れようとも私の頭から離れることはなく、社会人を控えた22歳の自分にも、依然として語りかけてくるのである。


40歳になっても何も変わらない


先生、それって本当ですか。


私はバイト先の社員さんがその日あった嫌なことを1杯299円のチューハイで忘れようとしているのを見た。ギャンブルで3万円負けたことを自慢げに話しているのを聞いた。


彼は15歳の頃からこうだったのだろうか。


きっと違うだろう。


私が思うに、彼の中で変わらないはずだった何かが、自分の身長が伸びるのを自分では気付けないのと同じように、彼自身にも分からない速度で変わっていったのだと思う。つまり、彼は、15歳の頃に持ち合わせていたはずの純粋な感覚、考え方を、これまでのどこかでねじ曲げてしまったのだと思う。


そして、これは彼に限った話ではなく、私たち全員に共通して言えることだ。私たちは、一人一人が内に秘めていた心の苗木に、自身の見栄や、他人の評価といった化学的な肥料を与えることで奇っ怪な形へと成長させてしまいがちである。


しかし、地上に見える奇っ怪な枝も、幹も、地下に広がる根が枯れていなければ、何度でも形を変え、再び真っ直ぐに上を目指すことが出来る。私たちの本質的な部分は純粋な何かであり、その何かが根底にある限り、私たちは何度でもやり直せる。


私たちが子どもの頃に持ち合わせていたあの真っ直ぐな感覚は、人生を鮮やかに彩るための重要な要素だと思う。担任の先生が話してくれた「40歳になっても変わらないんだぜ」という言葉は、彼が自分の苗木を真っ直ぐと成長させてきた証であり、私はそんな彼のことを心から尊敬している。そして、この作品を読んでくれたあなたには、どうかその感覚を取り戻し、忘れず、10年後、20年後の未来でも「俺たち何も変わってねえな」と笑いあっていて欲しいと真に願っている。

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