男女比が狂った世界に転生したのに、TSしちゃったんだよなぁ
「はぁ」
ある高校のある教室、その一角でため息を吐く絶世の超絶美少女が1人。
そう、私のことです。
「おはよー!昨日のドラマ見た?」
「見た見た!ハルト様カッコよすぎて鼻血出かけた!」
「マジそれな。興奮しすぎて夜寝れなかったわ」
「うわぁ、アンタしたんでしょ…」
「さっき、ヒロト君と目があってさ〜!」
「はあ?羨ましすぎる」
「それなら私、昨日フルヤ先輩にカバン開いてるよって教えてもらっちゃった!」
「はあああああ???なんでお前らだけそんな羨まイベント起こってんの???」
ワイワイキャーキャー、女の子の声しかしない。
そう、ここは男女比が狂った世界。男1に対して女が5はいる。
そんな男の夢のような世界に俺は転生した。
女として。
普通に終わってんだろ。
この世界の男の顔面偏差値なんざ、前の世界とそう変わらない。
前世の俺ですら、モテモテになれそうな世界だ。
なのに、何故か女になった。
マジで終わってる。
ワンチャン死んだら、もう1回転生できないかと何度思ったことか。
でも自殺する気にはなれず、気付いたら高校生になっていた。
で、まあ、そんな女だらけな世界で元男の俺が入れるわけもなく、今までも今もボッチだ。
「はぁ」
「美麗ちゃんおはよ!ため息は幸せが逃げるんだよ?」
「あぁ、陽菜さん。おはようございます」
「もう、タメ口で良いって言ってるのに。それで、いつも何に悩んでるの?そろそろ話してくれても良いでしょ?」
ボッチの私にも話してかけてくれるのは、同じクラスの陽菜。
たまたま出席番号が前後だったのもあって、入学式前の登校日からずっと声をかけてくれる。
そんな陽菜は、コミュ力が高くて既にクラスメイトにも馴染んでいるが、ボッチの私の思ってか一緒に行動してくれることが多い。
陽菜のそういうところには感謝してるけど、私の悩みを聞こうとしてくる。
誰が、『元男なんだけど、女ばかりの世界で女になったのが憂鬱だ。男の話ばかりする女の中に入れないし、モテモテにもなれないから悲しい』って相談できるんだよ。
元男っていう時点であたおか認定される。
だからまあ。
「いや、話すほどの事じゃないですよ。心配してくれてありがとうございます」
「いっつもそれじゃん。いつかは話してもらうからね」
となる。
私としては、いつになっても話すつもりはない。
でも、陽菜の気遣いには申し訳なくなるから、またいつかねっとだけ答えておく。
そんな私の日常に、求めてもいなかった変化が起きてしまう。
チャイムが鳴り、朝のホームルームの時間。
「今日からこのクラスに転入生が来ます。入ってきてください」
担任の先生がそんな事を言い、ドアを開けて入ってきたのは男だった。
「皆さんはじめまして。今日から同じクラスになる渡辺 始です。今日からよろしくお願いします」
男が入ってきた瞬間、クラスの空気が凍り、男が自己紹介を終えた瞬間に、キャアアアア!!!と奇声…歓声が教室全体から上がった。
担任の先生と男、そして私は耳を手で封じて声が収まるのを待った。
その間に男…渡辺を観察する。
身長は175cm程度。顔は…前世で言うと、街にたまにいるちょっとしたイケメン。モデルとかほどでは無いけど、彼女はいるよねって顔をしている。
体付きは細め。制服だから分からないが、そんなに筋肉が付いてるわけでもない。
うん、前世だと別に騒ぐほどではないと思う。
でもここは男が少ない世界。
そして、共学校なのに男が少なくて、このクラスだけが学年で男子生徒がいない。
そんなクラスにそこそこの男が入れられたんだから、クラスメイトは騒ぐわな。
男だけのクラスに、そこそこの美少女が入ってきたら盛り上がる。
しかも絶世の美少女ではないから親しみやすいし、自分もワンチャンあるんじゃないかと期待する。
そんな様子が想像できるから、これは仕方ないと理解する。
少し経って騒ぎが落ち着き、担任が話す。
「渡辺さんは、男性がいないこのクラスでも大丈夫だと仰ってくれたので、このクラスに配属されました。くれぐれも問題を起こさないように。
それと、和島。君の後ろに渡辺さんの席を準備するから、机運びを手伝ってくれ。
それでは、渡辺さんはもう少し自己紹介をお願いします。
和島、物置き教室に来てくれ」
担任が教室を出ていくと、クラスメイトからの質問コーナーが始まった。
そんな中、私は席を立ち、教室の外に出る。
あぁ、私が和島なんだよ。
はぁ、めんどくさ。
担任に指示されるまま、机を運び、教室に戻る。
後ろのドアから入ると、丁度教室では渡辺に彼女がいるかの質問がされていた。
「残念ながら、僕には彼女がいないんだよね。高校生活の中で、出来ると嬉しいな」
とか渡辺が言ったせいで、また騒がしくなる。
はいはい、お勤め完了っと。
渡辺の机を起き、私は席に戻る。
あーあ、今まで後ろは誰もいなくてすぐに教室を出られたのに、障害物が出来てしまった。
「はい、質問はまた休み時間にしてくれ。
渡辺さんは席に行って、授業の準備を」
先生がいい感じのタイミングで話を切る。
渡辺が席に向かって歩いてくる。
席は私の後ろだから、必然的に私の隣を通る。
そのまま通り過ぎると思われたが、渡辺は私の席の隣で立ち止まった。
「えっと、和島さんだっけ?僕の机を運んでくれてありがとう。これからよろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
話しかけられると思ってなかったから、そっけなく返事を返すことになった。
いや、急じゃなくても変わらないか。
元男の私が、男に話しかけられてもテンションは上がらないし、今は女だから、変に仲良くしても反感を買うのは分かっている。
こう返すしか無いでしょ。
だがクラスメイトから見るとそうではなかったらしく、既に名前を覚えられていることを羨んでいる。
だって、君たちは自己紹介してないじゃん。
これから覚えてもらえるでしょ、うん。
そうして授業が始まり、何事もなく1限が終わった。この世界、共学校は女にとって、そこそこに学力が高いから、授業中は皆静かだ。
男はその限りではないけど。
で、だ。授業が終わったら、私はすぐに席を離れる。
何故なら。
「渡辺くん!!」
クラスメイトが渡辺に群がる。
うん、私の席も囲まれてるわ。
さすがにね、15年以上この世界で生きてるし、私も馬鹿じゃない。
そんなことを毎時間繰り返し、昼休み。
私は弁当を持ち、教室を出る。
5月の正午は、外が心地よくて良い。
中庭のベンチまで行き、木や花が風に揺れるのを見ながら、昼休みを過ごす。
なんか老人みたいだと思うが、教室は女子ばかり。今日なんか余計に騒がしかった分、こういうのが凄く癒やされる。
「あ、和島さん」
思考を訂正します。癒やされてた。です。
今1番耳にしたくない声が聞こえた。
振り向くと、渡辺が弁当を持って立っていた。
ため息が出そうになるのを堪えて、応対する。
「渡辺さん、どうかしましたか?」
「いや、教室がちょっと居辛くてね。僕も静かな所で昼食を取りたいと思ってここに来たんだ」
「そうですか。ここは私が使っているので、あちらのベンチへどうぞ」
私が10mぐらい離れた場所のベンチを指差す。
私も静かに食べたいんだよ。
そういう気持ちを込めて言ったのにこいつは。
「いや、せっかくだし一緒に食べるよ。他のクラスメイトとは話したけど、和島さんとは朝にお礼だけだったから」
とか言いやがった。
マジでやめてくれ。クラスの女子に嫌われるだろうが。
同性だからモテモテは諦めてるけど、嫌われたくはない。女子の嫉妬が怖いのは、前世の創作物で良く知っている。
「はぁ…別に良いですよ」
断るのも感じ悪いし、こう応えるしか無い。
渡辺がここに来た時点で選択肢が潰れてるんだよクソゲーが。
木や花を愛でながら、特に会話もなく互いに昼食を済ませる。
「ねえ、和島さんはどうして僕と話そうとしないの?」
「いや、別に…話す理由もないので。それに、朝に挨拶もしたので、それで十分かと思って」
「ふーん。別に嫌ってるわけではないでしょ?」
「嫌ってるとかいうより、無関心ですね。私は平穏に生きたいので、渡辺さん…というか男性と必要以上に関わるつもりがありません」
だから教室に戻ってください。
風に揺れる花を見ながら話している時点で、察してくれ。察しが悪い男はモテ…るな、この世界では。
「そっか。…僕、渡辺さんと仲良くなりたいな」
「私は遠慮しておきます。次は移動教室なので、失礼します」
「じゃあ、僕も戻ろうかな」
「私はお手洗いに行くので。それでは」
少し早足気味に渡辺から離れる。
やめてくれ。全身から関わってくれるなオーラを出してるのに、どうして渡辺は関わろうとしてくるのか。
前世の俺だって、ここまで素っ気なくされたら流石に関わらないぞ。
トイレで歯を磨き、用を済ませて教室に戻る。
渡辺は既に教室に戻っており、女子たちにどこに行っていたのか聞かれている。
私は女子の間を縫って席に戻り、教科書とノートを持って、美術室に向かう。
美術室は机が4人で1つだから、私の隣に渡辺が座った。
何なんこれ、世界からのいじめか?
今日の授業は、花瓶に刺さった花の模写だった。
私はさっさっと線を引く。
前世でオタク、今世はボッチな私は、当然のように絵描きを履修しており、素早く模写を進める。
「和島さん、凄く上手だね。どうしたらそんなに上手に描けるの?」
はぁっと内心でため息を吐きつつ、渡辺の模写を見る。
んーと。
「渡辺さんは細かいところまでよく描けてますが、全体のバランスが悪いです。簡単なアドバイスとしては、少し離れた所から花を見る。そして鉛筆の先で全体の比率を見て、初めに円をいくつか描くんです。」
腕を伸ばし、鉛筆の先の方を親指で持つ。
「こうやって鉛筆の先がいくつ分か数えて…今回は3つぐらいだと思ったら、紙に同じ大きさの円を3つ描く。そしてその大きさに合うように、花瓶や花を描くんです」
「なるほど。ありがとう、やってみるよ」
ま、これで上手くなるのはバランスだけだし、あとは個人差があるけどね。
「ねえ、ねえ、美麗ちゃんって男の人と話すの慣れてない?私なんか緊張しちゃって、渡辺くんと話せてないんだけど」
隣の机だった陽菜が、椅子ごと私の隣に来ていた。
私は耳が弱い。頼むから耳元で話すのは止めてほしいと思いつつ、小声で返す。
「別に普通ですよ。緊張するってことはそれだけ渡辺くんの事を意識してるからです。私は何も考えてないだけですから」
「そうかなぁ…?私も別に、意識してはないんだけど…」
「じゃあ、単純に経験不足では?私は何回か話す機会があったので」
「そっか。確かに男性とあんまり話したことが無いかも」
「でしょう?それだけですよ。それより、陽菜さんは模写終わったんですか?」
「いやー、私、絵が下手だから美麗ちゃんに教えてもらおうと思って」
「良いですよ。今はどんな感じですか?」
この後すぐに、陽菜の絵心のなさに頭を抱えることになるが…この時間はこれで終わった。
「和島さん、男用の更衣室ってどこなの?」
「体育館の中ですよ。ここから見えてる大きいのが体育館です。行けば分かります」
「そっか、ありがとね」
渡辺が出ていったあと、私も更衣室に行こうとすると、女子に囲まれた。
「ねえ、和島さん。渡辺くんと仲が良さそうね?」
「あ、北井さん。渡辺さんから話しかけてくるだけですよ。多分、私だけが話しかけに行かなかったので」
「そう。もしかして、わざと?」
クラスメイトの1人。北井さんが凄く探ってくる。
やめて、ドラマで見たよこういうの。この後いじめが始まってたのを、良く覚えている。
「違います。朝、私が机を運んだでしょう?その時に挨拶をしたので、それで十分だと思ったんです。
皆さんに勘違いしてほしくないのは、私から彼に話しかけたことは、今日1日全くありません。多分皆さんは自分から話しかけてるので、十分話したと思って、私とも話そうとしてるだけだと思います。
あくまでも彼の性格ゆえに、です。」
私と北井さんの話を盗み聞きしていたクラスメイトにも向かって話す。にっこり笑顔のおまけ付き。
やめて、私のことを嫌わないでくださいって気持ちを込めて。
「そ、そう…なんかごめんね?」
「いえ、誰も悪くないですよ。ただ、私としては彼を狙ってるとかそういう事は全く無いので、次からは皆さんにも話を振ったりしますね」
「う、うん…やっぱりごめんなさい」
なんか北井さんに謝られた。いや、気にしてないので大丈夫ですよっという気持ちを込めて、さらにニコッと笑っておく。
何故かクラスメイトの目が優しくなった。
そんなことから1週間が経ち、ちょっとクラスが落ち着いてきた。
渡辺と話した女子たちは、渡辺を狙う者、脈がなさそうだと諦める者など、様々だった。
私はもちろん、逃げてた。
だってさ、事あるごとに渡辺が話しかけようとしてくるんだよ。
流石に3日ぐらい経てば落ち着いたけど、今でもチャンスがあれば話しかけようとしてくる。
私はそれを、他の女子を盾にしつつ、逃げ延びるというわけだった。
まあ、そんな日常なんだけど、また変わったことがある。
「美麗ちゃん、おーはよっ!」
「うおっと…陽菜さん、急に抱きつくのは危ないのでやめてくださいって、何回言いました?」
「今日はいつもより控えめだったもーん!ぎゅーーーー!!!」
陽菜が私にめっちゃくっついてくるようになった。
やめて、陽菜は私のことを同性だって思ってるだろうけど、私からしたら異性なんだ。
変なことがしたくなる。
今だって、サラサラの髪を撫でたいなとか、抱きしめたら柔らかくて幸せだろうなとか思ってるから。
いい匂いしやがってって、ちょっとムラ…イライラするから。
「陽菜さん、どうしてここ数日は抱きついてくるんですか?」
「えー、だって、美麗ちゃんは私の物だってアピールしないとだから!」
「誰にですか…私は私の物ですし、そんなことしなくても大丈夫ですよ」
「だーめでーす!」
陽菜がより強く抱きついてくる。
なんなんこの娘。私のこと好きなの?
確かに、女が多い世界だから、同性愛もある。
でも、私達にそこまで急に仲が深まるイベントなんか無かったじゃん。
あと、陽菜の独占欲が強そうで、ちょっと引いてる。トイレに行くときもドアの前で待ってたときは、恥ずかしさで死にそうだったし、やめてって言ったら
『じゃあ中に入れて』
って言うもんだから、10秒ぐらい思考停止したよね。
とか思ってると。
「おはよう、和島さん」
「あぁ、おはようございます」
渡辺が教室に入ってきた。
「陽菜さんもおはようございます」
「…おはようございます」
陽菜はこんな感じで、渡辺に冷たい。
女性にそんな冷たい声で挨拶されたら、私なら泣いちゃうね。
「そういえば、わじ「美麗ちゃん!トイレ行こっ!」ま…はは、二人は仲良しだね」
陽菜が渡辺の話を遮って、私を教室の外へ連れ出す。
いやまあ、助かったけど、トイレ行ったらドアの前で門番するじゃん…。
この間までの平穏な日常が帰ってきて欲しい。
もう永遠にモテなくていいから、誰か平穏をください…。
普段は丁寧語で話すけど何か秘密がありそうな自分になびかないおもしれー超絶美少女は男にも女にもモテるのは当然ですよね。
作者の好みで、陽菜にドン引きするほど愛されるエンドは確定です。
「いっぱい可愛いところを見せてね❤」