第5話 適正属性の検証と誕生日
さて、昨日読んだ『魔法の基礎』に載っている魔法を試してみよう。
さすがに昨日の魔力爆発で危ないと実感したので、お母さんに許可をちゃんと得ました。
まずは全属性の初歩となる魔法を発動してみよう。
昨日のおさらいで、最初は水球。
魔力爆発が起きないように、魔力を絞ってイメージするんだ…
すると、手のひらの上に昨日と同様、小さな水球が生成された。
そして、水球がなくなるイメージを…
やった!水球が空中で霧散した。
水球の霧散は本には書いてなかったけど、実行できた。
本当に魔法はなんでもできるのか?
次は土球。
土の塊をつくるイメージをして…
これまた小さな土の塊が。
成功したはしたんだけど小さいな。
つまり土属性の適正も低いってことなのか?
た、たまたま低い適正の属性を選んじゃっただけだから。
大丈夫大丈夫。
次は高適性の属性なはず!
じゃあやるぞ!
風球。
風の塊をイメージ。イメージ……
目に見えない上、威力が弱いからわかりづらいけど、微風が手のひらの上で渦巻いている…
風属性も適正ないの!?
こ、今度こそ!
火球に挑戦。
火は危ないから注意してイメージをする。
やはりそこには爪ほどの大きさの火球が。
光球も闇球も同上。
う、嘘だ……
「お、お母さん。ぼく、魔法の適正ないかも…」
「そ、そんなことないわよ!きっとミナが得意とする魔法があるはずだから!ほ、ほら!無属性がまだしゃない!試してみよう?ね?」
「う、うん。試してみる。」
無属性魔法は他の6属性の魔法とは違い、魔力を変換せず魔力そのものを操作する魔法だ。
身体能力を向上させる、身体強化魔法も無属性に分類されるようで、まずはこれを試してみようと思う。
やり方は、体の中の魔力を循環させ強化したい部位の細胞に魔力を浸透させ強化させるイメージをするらしい。
じゃあやってみよう。
体内の魔力を循環させて…
細胞に浸透…
うまくできたかな?
試しに動き回ってみよう。
「…………!!」
体が羽根のように軽い!
た、試しにバク宙できないかな?
ぐるんっ!
で、できた!!!
「お、お母さん!これ、この無属性が適正あるのかな!?」
「すごいわ!子どもでこんなに動けるなんて、適正は無属性で決まりかしら!」
お母さんと手を繋ぎはしゃいで喜ぶ。
自分の適正がわかったんだ!
これからは無属性の魔法の練習をしよう!!
次は魔力を外に出して形にする無属性魔法「念力」の練習をしよう。
無属性魔法の「念力」は例えるなら、サイコキネシスと言えばわかりやすいだろうか?
それに近いものと思って欲しい。
魔力を体外に放出し、その魔力を腕の形に変形させることで体を動かさずとも近くのものを取ったり、剣の形にすることで果物を切ったり、盾の形にすることで敵の攻撃を防いだりと言ったふうな魔法だ。
なかなか便利そうだけど高精度の魔力操作とそれを維持する集中力が必要みたい。
けどその前に、魔力視を習得しようと思う。
魔力視とは、魔力を目に集めて外にある魔力の位置や大きさ、形をみる無属性魔法で、これがないと魔力をいくら体外で形にしたところで目に見えないから成功してるのかわからないからね。
さっそく、始めてみよう。
これは特に慎重にならないと。
もし目で魔力爆発してしまったら失明どころの騒ぎじゃないだろうからね。
瞼を閉じ、そーっと、そーっと、魔力を込める。
少しずつ魔力の輪郭?のようなものが見えてくる…
近くに小さいのが1つ、これはお母さんのかな。
少し離れたところにこれまた小さめのが5つ…そして、自分の魔力は……!!
こ、これが自分の魔力?お母さんのがピンポン玉くらいとすると、大玉転がしの大玉くらいの大きさだ。
ほ、本当にこれが自分の魔力!?
あまりにびっくりして集中力が途切れ、魔力視がきれてしまった。
「お、お母さん。お母さんの言う通りぼくの魔力はかなり多そう。」
「本当!それは良かったわ!やっぱり私の娘は天才だったのね…!」
そう言い涙目になる。
そ、そんなに喜んでくれるなんて照れるなぁ。
よし!気を取り直して無属性魔法「念力」をやってみよう。
食事の際に使うスプーンを魔力を固めて作り出した手で持ってみる…
…………ああっ!
持ち上げたはいいものの、力を込め過ぎてしまったみたいでスプーンが曲がってしまった。
力加減が難しいし、なにより魔力視も併用するしかなり集中力を必要とするな…
難しい!
念力の練習も毎日の日課リストに追加だな!
さいごに、身体強化魔法は元の肉体が強ければ強いほど強化量も大きく増加されるらしいから、体を鍛えます。
でも外には出られないんだよね…
全く、黒髪差別面倒くさいなぁ…
室内でできる筋トレも日課リストに追加だね。
ひとまず、魔力の操作に慣れるよう意識して循環するようにしなくては。
この日は筋トレしたら疲れて寝ちゃった。
――――――――――
魔法の検証をしてから約10日後
「ミナ!朝よ〜。」
肩を揺らされ起こされる。
「んん〜、おはよう、お母さん。」
ゆっくりと伸びをし、寝ぼけ眼をこする。
「お誕生日おめでとう!でも、プレゼントもご馳走も用意できなかったの。ごめんなさい。」
そっか、そういえば今日は誕生日だ。
「いいよ、気にしなくて。」
「いつも通りじゃ味気ないわ。それじゃ今日はいつも以上にくっついちゃおっと!」
お母さんはまるで恋人にするように後ろから抱きつき顔を擦り付ける。
「もう、お母さんったら。」
そう言いながらもぼくは満更でもない。
それにしても今日はお母さんのテンション高いな。
そういえば、ぼくはお母さんのことあまり知らないな。
誕生日プレゼント代わりに答えてくれないかな?
「お母さん、聞きたいことがあるんだけど。」
「ん?ミナ、どうしたの?」
「お母さんについて教えて欲しいんだ。どこで生まれ、どこでどんなふうに育ったのか!」
お母さんは数瞬、困った顔をして、
「いいわよ、でもあまり面白い話じゃないかも。」
「わかった。」
ぼくもお母さんにつられ、真剣な顔になった。
「まず、お母さんはね、このヴァロン王国の端っこにある小さな小さな領地、シュトヴァール領に長女として生まれたの。生まれた時から体が弱くてね。ずっと家の中で過ごしてたのよ。最初はお母さんのお母さんとお父さん、あなたのおばあちゃんとおじいちゃんも心配してくれたんだけど、私が3歳の頃、私に弟ができると同時に、私に対してあまり会ってくれなくなったのよ。それでも勉強や礼儀作法を教えてくれる教師を私につけてくれたわ。それは本当に感謝してる。その教師は当時、少し落ち目のお貴族様でね、ほぼ全ての科目に精通していたのよ。すごいわよね。それでも、私が7歳の時、ある日事件が起きたの。その教師が家にある金目のものを沢山盗んでどこかに行方をくらましちゃったのね。もう、家中大騒ぎだったわ。そこでこんな話になってね。「誰が金目のもののある場所を教えたんだ」って。私はやっていないのに、その教師に教えられてて一番交流があった私に白羽の矢が立ったの。それからと言うもの、使用人は私を避け、親は弟に対して私と会っちゃダメと言い聞かせるようになり、私は1人で過ごすようになったの。それから私は何もすることがなかったから書庫でただひたすらに勉強し続けたわ。8年が経ち、私が15歳の頃、数年ぶりに親に呼び出されたと思ったら、こんな話をされたの。「お前は見目だけは麗しい。その容姿で上位の貴族と結婚してこい」って。ここから私は様々なお茶会に出席したわ。その中で出会ったのが女遊びが激しいとされたグリゴリオ様。ミナ、あなたのお父さんよ。女遊びが激しいとはいえ、そこは公爵様。家族は諸手を挙げて喜んだわ。そこで初めて両親に褒められたの。不思議と全然嬉しくなかったわ。それからはこの屋敷に住むようになり、この本棚の本を読む毎日を送ってたの。あなたが産まれるまではずっと辛い人生だったわ。でもあなたに会えて本当に良かった。ありがとうミナ。ありがとう。」
そう、涙を流しながらぼくを強く抱きしめる。
まさか、お母さんの過去がこんな重たかったなんて…
ぼくに前世の記憶がある、本当の家族じゃないんだってわかったらどんな反応をするんだろう…
「ごめんなさい…」
「もう、どうしてミナが謝るの?変な子ね、ふふふ。」
心が苦しくなった。