表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日は、アネモネ  作者: 八代
2/2

二日目午前

お疲れ様です。

(ジリリリ)

目覚ましが鳴っているのは、なんとなくわかっていた。

わかっているというのが、正しい表現なのかはわからなかったが、

それでどうこうしようという気が全く起きないのが不思議である。

ただ、うるさいので止めたい。

そういった衝動的な思いに突き動かされ、上にあるはずの目覚ましを探す。

だが、目覚ましはベッドの上にはなかった。

布団から顔を出し、音の先を探すとどうやら俺の机の上に置いているようだった。

俺は、そこに置いていた記憶はないのでおそらく真凛の仕業だろう。


「ぐぅぅ」

体を布団の中で伸ばし大きなあくびをした後に、仕方なく体を起こし机の上の目覚ましを止めに行く。

「さて」

そう言って、踵を返しまだ体温の残った布団の中へ…。

「こら」

声の方向に振り替えると、外出する準備を整えた真凛が部屋の入り口からこちらをにらんでいた。

中学2年生になったあたりから真凛はうっすうらと化粧をするようになっていた。

前は、俺たちと一緒に泥んこになっていた女の子が、だんだんとめかしこむようになっていく姿に、

なんとなく違和感めいたものを感じていた。


「おはよう。」

「おそよう。」

時間は、9時。集合まで1時間もある。駅まで自転車で15ほどだから、45分間の余った時間があることになる。


「お願い」

「はぁ。」

そう言って、下の階に真凛は降りていった。だが、ため息の感じからして二度寝を許してくれたわけではないことは確かだった。

仕方なく寝間着を脱ぎオーバーサイズの白Tシャツにダメージ加工が施されているジーンズをはく。

顔を洗いに行くと髪が重力に逆らうかのように主張していた。

俺は、その見事な自然の摂理に挑戦するかのような反骨精神を自分の都合で直してしまう気にはならなかったので、そのままにしておくことにした。


リビングに向かうと、俺の分の朝食が準備されており、真凛は食べ終えてコーヒーを飲んでいた。もちろん、ミルクは多めである。

朝食をもそもそと食べる。

ちょうど食べ終わるころに、父さんが起きてきた。

「ん、おはよう真凛ちゃん」

「おはよう」

息子もここにいるよお父さん。

「今日はどこか、おでかけかい?」

食器棚から取り出したマグカップにコーヒーを注ぎ、俺の横に座る。

最近、仕事が遅くまで続いているせいで、無精ひげが生えっぱなしになっている。

当人も気になっているのであろう、手で伸びてきたひげをいじっている。

「そ、弥彦君と理沙ちゃんと町に行くの。」

「そうか、でもいつも言ってるけど遅くても6時までには帰ってくるんだよ。」

そう言って、コーヒーを一口飲む。こういった時、親にいわゆるうざいという感情を抱くのだろうが、

真凛に限っては例外で、素直にゆうことを聞くいい子である。

「うん、わかった。お兄ちゃんも行くから平気だよ」

「む、そうか。朝日、真凛のこと頼んだぞ。」

真凛としゃべるゆるんだ顔とは、打って変わって厳しい表情になる。この、差である。

「ま、二人とも危険がないようにたのしんでおいで。」

疲れが取れていない顔で、こちらに笑顔を向ける。

朝食を食べ終わるころには、9時半を回っていた。そろそろ、家を出た方がいいころだ。

「じゃあ、そろそろ行くか。」

「うん。」

真凛が席をたち、朝食の準備を始めた父に手を振る。父は、手に持っていた食パンを口にくわえ手を振り返す。

家の外に置いてある、自転車にまたがり駅へと向かう。外は、快晴、空には入道雲が流れている。

住宅街を抜け、少し栄えている(といっても、本当に少しだが)ほうへ向かう。

昔ながらの商店街などが並ぶ通りを抜けると、その先に駅がある。

商店街の入り口には商店街に入ることを知らせるアーチ状の看板が立っており、

その錆びている感じからしてだいぶ前に建てられたであろうその看板から、町の衰えを感じる。

個人経営のクリーニング屋や、カラオケ屋とは名ばかりのスナックが並ぶ。今でも生き残っているの飲み屋が多い。

商店街を抜けると、駅が目の前に出てくる。駅にはヤシの木が植えられており、駅の高さよりも優位に高い。

ここら辺は、多くの利用者がいるためだいぶ新しくなっている。

いつもの駐輪場に向かう。ちゃんとした駐輪場というよりは、駐車場の奥川にカラーコーンがおいてあり、

そこに、利用者は自転車を止めていく。

駅構内に入ると、弥彦たちがベンチに座って俺たちを待っていた。

「よ、おはよ。」

「おう、はやかったな」

といっても、5分前なのだが、いつも遅刻してくるから信用はない。

「おはよう真凛ちゃん」

と、弥彦の横に座っていた、理沙が声をかける。

「りさちゃーん」

理沙に抱き着きに行く。真凛は、理沙と小さいころから、よく一緒に過ごしておりまるで姉妹のようだ。

ショートボブの真凛に代わって、理沙の髪は肩甲骨あたりまで長く、薄い顔なのだが笑顔が良く似合う美人だ。

これでピアノを弾くのだから、とても様になっている。

久々の再開に、胸を躍らせて町で行きたい場所や、買いたい場所などの話で盛り上がっている。

「眠そうだな。寝ぐせもついてるぞ」

「まあな。」

弥彦は神経質とは真反対に位置するような奴だが、身だしなみは結構ちゃんとするやつだ。

今日も、きっちりとよそ行きの格好をしている。姉がいる影響だろうか。


「それじゃあ、ホームに行こうか」

ここの電車はだいたい、一時間おきに電車がやってくる。

切符売り場で1020円を入れて町への切符を手に入れる。

町に行くだけで、往復2000円ほどかかるのだ、学生にとっては大きな支出だ。

月に何回も行けるものではないので行ける機会があると、ついつい多くものを買ってしまうことも少なくない。


階段を上がり、ホームへとつく。都会の駅とは違い、侵入防止の柵などはない。

電車が来る方向には、線路の両脇にまっすぐ続く緑の絨毯が奥まで続いている。

五分も待つと電車が駅ホームへと到着する。

「ねぇ、理沙ちゃんおそろいのスカート買おうよ」

「いいよ。でも、お金あるの?」

「うん。お兄ちゃんがなんでも買ってくれるって」

「うぉい」

思わず声を出す。

その言い方だとお兄ちゃんがなんでも買ってくれるみたいじゃないですか?

あれ?まんまですかね?まんまですね。

「まて、お兄ちゃん昨日なるべく安くっていいませんでしたかね。」

「お兄ちゃん、男は甲斐性だよ…。」

「妹に対する、甲斐性なんてねぇよ。」

お兄ちゃん…。そんな捨て台詞を残す。

そんな、あきれた感じを出されてもお兄ちゃん何も悪くないよね…。

「あはは」

理沙は、止めることもなくただ笑う。

「真凛ちゃん。俺が買ってあげるよ!」

俺の出番だといわんばかりに弥彦が出てくるが、女物の服は大体高いのだ。

そう軽はずみなことをいうと、自分の首を絞めることになるのは言うまでもない。まあ、止めないが。



ふと、外を見ると、海に反射してきらめきが電車の中に入ってくる。

俺は、この光景が好きだし、真凛は都会に行きたいというがこの田舎町を俺は案外気に入っている。

ここら辺では、運がよければイルカが跳ねるのを見ることができる。


一時間もすると、町が見えてきた。大型ショッピングモールで観覧車が最上階にあるのが特徴的だ。

両サイドの駅に、まばらに人が座っており、降りる準備を始めるものもいる。

弥彦の方を見ると、顔を上に向けながら眠っている。

お嬢さん側は、おしゃべりに夢中のようだ。あんなに話していて飽きないのだろうか。

見ていると、鳥のひなに見えてくる。

「おーい、弥彦つくぞー」

弥彦をゆすると。「んがっ」といいこちらを見る。だが、焦点は定まっていない。

そうこうしていると、駅の構内に電車が入った。


[ご乗車ありがとうございます。鹿児島駅、鹿児島駅、お降りの際は足元にご注意ください。]

さあ、降りるか。そう思った時に、斜め前に座っていた女の子が立ちあがったのが目についた。

女の子が座っていた席には、コンビニでもらうようなビニール袋がおかれている。


きっと、忘れ物なのだろうと俺は袋をとり、降りて行った女の子を追いかける。


「すみません、電車に忘れ物しませんでしたか?」

そう言って、忘れ物を差し出す。

袋にうっすらと紙袋の表紙が移る。これは、おそらく病院でもらった薬の袋だろう。

袋のサイズに収まりきらない筒状の何かも一緒に入っている。

彼女はおずおずといった様子で、袋を受け取る。


「ありがとう」

彼女は、あまりありがたくなさそうに袋を受け取った。

お礼を求めてしたわけではないが気分はよくない。


彼女は、でかいヘッドホンを首にかけて夏なのに長袖を着ている。

短めのスカートに重たい印象を与える黒のトレーナーからは、どこか近寄りがたい印象を与える。

こういった子は、地元ではあまり見ない。


「じゃあ。」

彼女はそう言って、エスカレーターを登って行った。


「なにあれ?」

ふと気か付くと、後ろに真凛がいた。一部始終を見ていたのだろうか。

「感じ悪いね。」

「まあ…そうだな。」

遅れてついてきた、弥彦姉弟はこちらの不思議な雰囲気にどうしたと声をかけるが、特にいう必要性を感じなかったので、

別にと声をかけてエスカレーターへと促した。


大型ショッピングセンター内は、開けたデザインとなっており解放感を演出するためにガラスを多く使っている。

4K画質の広告用掲示板や、人の多さから田舎とは打って変わって都会な印象を与える。

「ねぇねぇ、あれ友達が言っていた店!行ってみよう!」

そう言って、真凛は理沙の手を引いて行ってしまう。

お嬢様方のテンションは、まさに爆上がりといっても過言ではない。

「さて、ついていきますか。」

「そうですなー」

俺たちはしぶしぶとついていく。


「おにいちゃんこれこれ、このスカート欲しい!」

そう言って手渡されるスカート、タグを正直見たくはないが見ない事には始まらない。

申し訳程度に太字で書いてあるが、値段は”9900円”ほぼ10000円。学生にはでかすぎる。

「まりん、アフリカにな。今日のご飯で困っている人たちがいるんだ。

だが、このお金があればアフリカだと一か月くらい生きられるのではないだろうか。言いたいことがわかるかな?」

「あー、でも私、アフリカ住んだことないし」

まあ、ですよね。といっても、このスカートになぜ10000円の値段が付くのだろうか。

男物のTシャツで6000円のものが存在しているのを知った時には驚愕したものだ。

理沙の方を見ると、色違いの同じスカートを手にしている。

申し訳ないような表情をこちらに向け、口パクでごめんと伝えてきた。

「わかった。だけど、勉強頑張れよ。」

「やったー」

まあ、かわいい妹の頼みだ。

「理沙ちゃんも、お兄ちゃんに買ってもらえば」

「い、いや私はいいよ。あはは」

「おい」


その後、目についた楽器店に弥彦が入っていき入門用のギターを触った後に、バンドやらないかと俺に

青春漫画よろしくのセリフを浴びせてきたので低調にお断りした。(どうせ、部屋のオブジェクトになるに決まっている。)


ひとしきり、店を回った後は、昼食で食べたいものがあると、少し歩いた、アーケード街へと向かう。

そう、女は、服だけでなく食にも貪欲なのだ。

俺と、弥彦は吉野家で十分なのだが…。


どうやら、行きたかったのは白熊アイスのお店だったらしい。それなら、昼食はマクドナルドでどうかと提案した。

余り、高い店にはいきたくない。

昼食を終えて、白熊アイスをテイクアウトしてあたりをぶらつく。

ちょうど中央公園があったので、みんなはそこの木陰で一休みすることにしたようだ。

あなたの、生活の刺激になりますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ