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世界新党――秩序を変える者

「出ろ」

 翌日、リーンはやって来た男達によって牢屋から連れ出された。



 時間は夕刻。黒ずくめの男が二人だ。自分を攫ったのが彼らかどうかはリーンには分からなかった。




 ――どこへ連れて行かれるの?

 どちらにせよ従うしかない。猿轡(さるぐつわ)を咬まされているためリーンのとっておき、相手を気絶させる『音の攻撃』も出せない。




 ――ほんとならこんな奴ら全員、気絶させてやれるのに。

 彼女は相手の耳めがけて気絶音波を飛ばすことが出来る。今の所は能力を発揮する術はないが。




 薄暗い牢屋の回廊を抜け、階段を上がった。

 次のフロアの廊下を抜け、また階段、今度は下りだ。

 幾つもの回廊を階段を挟んで行ったり来たり。

 いい加減現在位置が分からなくなったところで一つの巨大で重厚な、両開きの扉の前に辿り着いていた。





 男達が両端に立って扉を押し開ける。

 広い部屋だった。

 部屋の奥には一段上がった場所があり、そこに置かれたびっしりと金細工が施された豪奢(ごうしゃ)な椅子に、男が座していた。







 ――玉座のつもりなのかな。


「ようこそ、リーン」彼もまた黒ずくめだった。黒い襟付きのシャツ、黒いズボンに黒いブーツ。おまけに彼は黒いマントも羽織っていた。更に髪は黒髪オールバックという念の入れようだ。意外に年若い。リーンの目には三十代に見えた。







「手荒な真似をして済まなかった」

 彼は部下に指示を出し、リーンの腕の拘束を解かせた。猿轡も外される。





「言っておくが」男は音の攻撃をするべく大きく息を吸い込んだリーンを睨む。



攻撃(それ)は止めておくことだ。君は、見えていない敵は狙えないだろう?」

 はっとして気配を読む。




 ――いる。

 正確には探知できなかったが、例えば天井裏などに人のいる気配があった。





「そう言うことだ。死にたくなければ止めておけ」

 男はこちらの手の内を知っているのだ。仕方なく攻撃を中断する。





「さてリーン。君は『世界新党(われわれ)』に興味はないかな?」

「あるわけないでしょ。それに、気安く名前を呼ばないで」

 だいたいあなたの名前をまだ聞いてない――リーンは怯まず壇上で座す男を睨みつけた。





「これば失礼した。私はグロフ、世界新党の党首である」

 グロフはリーンを見下ろし、難なく彼女の視線を押し返す。






「では、君はこの世界の秩序をどう考える」

「秩序? 必要なの? それ」リーンは憮然と答えた。




「当然に必要である。秩序(それ)なくしては世界は成立せぬ」

 グロフの言葉が部屋に響く。





「別にどっちでもいいよ。秩序でも何でもそっちでいいようにやってよ。それより私を帰して」




 ファンテのことが気がかりだった。


 微笑するグロフ。

「入党すれば良い。さすれば(ここ)からは出られよう」





 ――冗談言わないで。

 世界新党に加われば、麓の村に住むしかなくなる。




「それ、結局出られない奴でしょ? 私はね、街に帰してって言ってるの」

「叶わぬ。お前を放っておけばこの世界を歌で変えてしまうやもしれぬ。我々の望まぬ秩序だ」




 ――そう言うことか。

 どこかで見たか、噂で知ったか。どうやら自分がかなり前から目を付けられていたと今、リーンは知った。







「何故、今なの? 私を捕まえるならもっと早く――」

「今、と言うことに意味はない。お前はいずれ、ここに来る運命だった」





 ――いつかは必ず捕まえるつもりだったのだ。

 グロフは暗に言ったことになる。彼らを侮っていたと反省する。世界新党の本拠地に、こんなにも近付くべきではなかった。





「私をどうするつもり? ――殺すの?」気持ちを奮って、リーンは顔を上げる。




「従わぬならいずれ。そうさせてくれるなよ」

 グロフはにやりとする。いま殺さないのは、利用価値があるからなのか、単なる気紛れなのかリーンには分からなかった。




 ――いずれ、だと?

 腹が立った。突然こんな所に連れて来られ、気がつけば生殺与奪を相手に握られている。




 ――いっそもう、やってしまうか。

 危ないことを考え、すぐに否定した。私が死ねば多分、悲しむ人間が一人、いる。





 ――私、どうすればいいの? ファンテ。









「グロフ様!」

 駆け込んでくる者があった。肩で息を切らせ、切羽詰まった表情で党首の前に跪いた。





「何事か」見下ろすグロフの目はかなりの低温だった。

「畏れながら申し上げます」

 グロフが恐ろしいのかもしれない、顔は上げなかった。






 部下はその姿勢のまま、殊更はっきりと言った。









「敵襲です」

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