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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】習作・アイデア切り抜き

魔に潜る者ども

作者: 結崎 梟

あらすじ・タグのご確認をお願いします。

 とあるところにざわざわと活気を感じさせ、コップを打ち鳴らす音や酔って大きくなった声が響き渡る酒場がある。

 そこでは今日もまだ昼だというのに杯を乾している酒飲みたちがいた。


「やっぱ昼間っから飲む酒はうめーな!」


 そう叫ぶのは赤茶色の髪の毛を一部編み込んだりしている犬の獣人。


「声がでけーんだよ」


 そうぺたりと耳を伏せ抗議するのは灰色の中にどこか艶を感じさせる毛並みの狼の獣人。


 その掛け合いを苦笑しながら静かに、だがややハイペースにのどを潤す黒毛の熊獣人が席を共にしていた。


 この三人は魔物と呼ばれる異形に近しくなった動物たちを狩ったり、ダンジョンと呼ばれる異形の者たちが住みかとする場所に潜る者たちだ。

 こういった者たちは危険を冒し、命を賭しながら金を稼ぐので冒険者と呼ばれている。

 特にダンジョンに潜るものがそう呼ばれやすく、ダンジョンに潜ると(・・・・・・・・・)魔に変質しやすくなる(・・・・・・・・・・)と言われている事から、必要な存在であれどやや忌避される傾向にあった。


 ダンジョンに住まう異形たちは昏き者どもと呼ばれる存在の尖兵であるとされ、ダンジョンでそれらを狩る事は昏き者の力を削ぐこと、また力がたまった結果のスタンピード(異形どもの侵攻)を防ぐために必須であるとされている。

 噂される「変質しやすくなる」というのは、ダンジョンに潜ると昏き者どもの(ひずみ)と呼ばれるにさらされ、長期間潜れば異形の仲間入りをしてしまうという違いはあるものの、事実だった。

 勿論対策がないわけではなく、神職にあたる者たちの奇跡と呼ばれる力によって浄化するなり歪を防ぐなり、ダンジョンに潜る間隔を空ける事で自然と歪んだ力は抜けていく。

 だが神に仕える者の中でもそういった奇跡が行えるものはそう多くなく、冒険者たちの得る金は大金であれど命を安く売ってることに違いはなかった。


 だからこそ一緒に潜る仲間だけでなく、冒険者全体での結束も固い傾向にある。

 忌避されるがゆえに冒険者内のみであったり神職も含めた中でしか知られないことも…………。


「大変だ!」


 そう叫びながら転がり込むように一人の男が冒険者を引退した者が営む酒場に入ってきた。


「ミスっちまった!助けてくれ!俺らの仲間の一人が殿を務めてる(・・・・・・)!誰か行けるやつぁいねぇか!」


 その場にいた全員が酔いを醒ましたように鋭い目でその男を見た。


「場所はどこだ」


 唸るように近場の奴が状況を尋ねると、少し頭が冷えたのか状況を伝え始めた。


 潜っていたチームはなかなかに優秀だったようで、深度はそれなりに深く、危険度も高かった。

 それを聞いた者たちは前回潜ってからの日数を計算したり、奇跡ほどではないまでも歪を防げるアイテムの在庫に思いを巡らせた。

 その結果それぞれが苦々しい顔をしながら首を横に振るばかりだった。

 その状況に顔色を暗くさせ他の当てを探そうと駆けださんばかりの冒険者をぴたりと呼び止める声が上がった。


「俺たちが行こう」


 期間は多少ぎりぎりだが、一緒に潜ってくれる奇特な神職の当てもある。アイテムも足りるだろう。俺たちが帰ってきたとき分の神職の手配だけしといてくれればいい。

 そう言い放ったのは調子よく騒ぎながら飲んでたとも思えない鋭く、高貴さも感じさせる意志の強い目をした赤茶色の犬獣人だった。

 ともに飲んでいた二人も反対する様子を見せず粛々と準備を進めていた。


 五体投地といわんばかりに床に伏せて泣きながら感謝する冒険者を立たせ、案内するよう促すと急いで酒場から出て行った。



「あいつら『炎紗』『銀狼』『黒盾』じゃねぇか……?」


 そして酒場に残ったメンツの一人がそうこぼすと、いまだピリピリしていた空気が僅かばかりに緩み、それぞれが今できる事の確認と手配をし始めた。



 急いで準備を済ませ、仲間を頼みます!と深々頭を下げ入り口で見送られた四人は、周囲の警戒は怠らないまでもかなりのハイペースで殿を務めているという場所に急いだ。


「まったく……。これだから常々潜るのは国政として軍を使った方がいいというんだ」


 そう苛立ちをこぼすのは奇特な神職と酒場で犬獣人に言われ、説明もそこそこに連れてこられた人物で、学者でもあり国政にも嘴を挟むような高位の神官だった。

 白い神官服兼戦闘服がかすむほど白い毛をした猫獣人は、ダンジョン用の試作アイテムだなんだと言いながら薬を飲んだりアイテムを配布したりしつつ意見を述べた。


「私も金銭だけでないバックアップをより分厚くしたいと考えてますが、老人たちは乗り気になってくれませんね」


「くそったれの老害どもが!」


 自身の意見を赤茶色の犬獣人―――炎紗と呼ばれる腕利き―――に肯定されたことに喜びつつも、老人たちと呼ばれる存在へ頭を掻きむしらんばかりの怒りを見せた。

 炎紗は、怒りをなだめつつ、今回のようなことの対策としてそれぞれの感覚に任せず法律でダンジョンに潜る際の期間を定めるのはどうかなどの施策について意見を交わし始めた。


 灰色の狼獣人―――銀狼―――と黒色の熊獣人―――黒盾―――は意見を出さず、それぞれ先行しての偵察や警戒、途中偶発的に出会う異形どもの排除に専念した。


((これだから地位の高い奴は大変だなぁ))


 との内心を隠しつつ。


「それで?私を呼んだという事は相手はそれなり多数なのだろう?」


 目的地まで半分といったところで意見交換をやめ、その揮う奇跡は歪を防ぐことに特化し、ソロでダンジョンに潜っても多少の深度・期間ならば生還も容易いと言われる人物は詳細の確認を始めた。


「ええ、どうやら数の暴力で罠に追い込まれ、一人が生成(なまなり)に堕とされたようでして」


 一緒に潜っていた者も、堕とされたものも、異形の数は減らしたものもまだ数は多いだろうとのことで。と返答された神官は生成相手は命がいくらあっても足らんのだと呟きながら防御障壁展開の慣らしを始めた。


 そう、「殿を務めている」とは生成―――完全に異形と化す前の段階に堕とされた事の隠語。

 完全に異形の仲間入りしてしまえば元に戻すことは不可能だが、生成であれば戻すことができる。

 これは生成という状態も含めて一般には伏せられてる事柄だった。


 冒険者への忌避感を必要以上に高めない(・・・・・・・・・)ための方針である。


「二つ名持ちが三人もいれば生成を連れ戻すのは容易い。しかも一人が炎紗ともなれば」


 そう期待しているぞ。と言いつつ集中力を高める神官に、


「ええ、四人の二つ名持ち、しかも『不侵』もいれば十分に可能でしょう」


 そう返答されるとそういえば私もそうだったか。興味もないから忘れていた。とあっけらかんと返しつつ目的地に近づいてきたことを気配と事前知識から察知すると、全員殺気を高めつつ、最終確認を始めた。


 先導していた銀狼も今は分断されないようにあまり離れず全員ひと塊で周囲の警戒を密にした。


「いますね……」


 そう銀狼がつぶやく先には特に何かがいるようにも見えない開けた空間があったが、全員そこに生成と異形の者どもがいるところだと認識していた。


 陣形を変更し黒盾が一歩踏み込んだ途端高密度の攻撃が降り注いだ。

 その強襲にも全員動じず、不侵の減衰用障壁で遠距離攻撃の威力を弱め、大きな獣と化した生成の爪による斬撃は盾で弾き飛ばした。


「流石にこの数この深度での分断と防御の展開はそう長くは続かんぞ!」


「進度が獣化ぐらいならばすぐに済ませて見せますとも!」


 不侵の叫びにそれぞれが答えながら銀狼は周囲の異形、黒盾は不侵の護衛、不侵は全員の体表に歪への防御と生成と炎紗の隔離、炎紗は生成との一騎打ち、それぞれの行動を一斉に進めた。


 異形どもも分断されたことに気付いて障壁の破壊を試みるもの、近くの者に襲い掛かるものと別れて行動し始めた。


「お前のためにも俺たちのためにも急がせてもらうぞ」


 炎紗がそう言い放つと生成も目の前の相手に集中することにしたのか、猛烈な勢いで襲い掛かってきた。


 その勢いにやや驚きながらも焦らず迎撃を重ねていく炎紗。


「破魔の鋼を混ぜた剣でもこの押されようか」


 さすがにここまでの深さに潜る連中は優秀なようだ。そう笑いながらガキリと鈍い音を立てながら相手の攻撃を打ち落としていく。

 攻撃されるだけでなく相手に手傷を負わせ自分は怪我一つ負わない様子でそう言われることに苛立ったのか生成の攻撃はより荒々しく強くなっていく。


 その苛立ちで生まれた隙に差し込むように炎紗は相手の片目を切り裂いた。

 さすがに顔面への痛打は嫌がったのか相手は跳ねるように後ろに下がった。


 それもまた隙。

 いつの間にか隔離障壁内に入り込んだ銀狼が風のようにその前足の一本を刈り取った。

 それで体勢を崩すという隙の連鎖を見逃さず、炎紗は大技を繰り出した。


「剣一本使い捨てにするのだがな!」


 そう惜しむように叫びながら神官でもあった(・・・・・・・)炎紗がアイテムも併用して揮った奇跡は、その二つ名のように炎を用いた攻撃だった。


 その見て取れる絶大な威力は生成に回避を選択させようとしたが、そんな余裕を与えず、遅い。と呟きながら投擲された。


 衝撃と相手の歪をわずかに浄化する力を込められた炎によって生まれた蒸気を不侵の障壁で隔離しつつ、異形の者どもを倒し切った全員で固まりつつ様子を見た。

 蒸気が晴れると直撃させずに凌いだ様子をみせつつもボロボロの相手が見えた。


「回避できぬと見るや切り落とされた腕にぶつけて減衰するとは……進度がそこまででなくてよかったな」


 相手の行動を見逃していなかった炎紗は、冷や汗ものだ。と呟きながら不意を突くように距離を詰め破魔の銀製の儀式用の剣を突き立て、人型に戻るまで浄化の炎を叩き込んだ。



 あまり人が集まりすぎて他の緊急事態があった時に対応できないようなことがあったり、一般人の注意をひいたりしないように気を付けながらダンジョンの入り口に浄化専門の神職とともに待機していた冒険者たちが迎えたのは、無事に連れ帰られた殿を務めて気絶した仲間と連れ戻した強者たちだった。


 抑えめながら我慢できず響く歓声と酒を飲もうという陽気な声、浄化するのに邪魔だから静かにしろと怒る神職の声が聞こえる、平和へとまた一歩歩みを進めた日常の風景がそこにあったとさ。

お読みいただきありがとうございました。

習作ですので様々なご意見ご感想のほどよろしくお願いします。

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