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53/53

新たな刻(4)

53、あの夕陽に向かって


 大国の王の朝は早い。


 俺の一日は日の出と同時に始まる。

 爽やかな目覚めと共に服を着替ると朝食も取らずにまずは日課のランニングへ。まだ冷たい朝の空気を肺に取り込み、召使達に見送られながら王城を発つ。

 ただし、魔術師として身体能力が超人的な俺にとって一般人が健康のために走るような距離に意味は無い。日々の向上と更なる成長のために毎朝王城の周囲を10週(約40キロ程度)というオリンピックのマラソン選手並みの超ハードメニューをこなすのが王のたしなみなのだ。


 ランニングを終え朝食を取るとと次はアンキシェッタとの馬術の訓練が待っている。

 日課の中では体力的に一番楽な訓練なのだが、馬――特に軍馬――という奴は車やバイクと違って地形や速度によって姿勢を変えなければならなかったり、武器を扱う場合、足だけで馬を操作しなければならない等とにかく覚えるべき事柄が多い大変な科目だ。

 ここ数日でようやく基本の動きはできるようになってきたけど仮に自分がこれら全てを身につけられたとしても、肝心の馬が合図や挙動を覚えていなければ意味が無いがない。馬と乗り手との相性の問題もあるし、子供が数日でマスターできる自転車の運転と違って何年もかけて身につけるスキルなのだ。

 ……なにせもう5回も落馬しているからな。さすがに乗馬が難しいってことぐらいはわかるさ。


 馬術の訓練を終えアンキシェッタと別れてシャワーを浴びた後は昼食を挟んで政務の時間となる。

 これは比較的短いが間違いなく一日の中で最悪の時間だ。なぜならこの時間、俺の教師兼朗読係としてナポリが常に隣に立ち続けているから。

 いや、俺もここ数週間でなんとか文章を読むことはできるようになったけれど、トルゴレオ文字のアリかクモの轢死体みたい字体や音を伴わない独特の記号を使う習慣など読解の障害はまだまだ多い。処理しなければならない案件だって何枚もあるので一枚一枚に時間をかけていられない。そんなわけで仕事として俺に上がってきた書類は全てナポリが朗読する、だがこれがとにかく辛いのだ。

 書類仕事を円滑に進め、また政治や外交についての仕事を覚えていくためにはこの憎い爺の声にひたすら集中しなければならないのだが、このじじいといえば口をひらけば皮肉か説教しか出てこないのである。

 政務の時間は大体二時間しかないのに一日の精神力の半分以上を持っていかれると言えばこの時間が俺にとってどれほど嫌か分かるだろうか。

 ナポリはとにかく俺の精神力を削ることに苦心しているらしく大抵説教が長引いてしまい、ティアが剣術の訓練に俺を迎えに来るはめになる。


 ティアに連れられて服を道着に着替え木剣を手に取ると今度は剣術の時間だ。

 まともに剣術についての知識を与えられた(ティアが収めている剣術の型をいくつか教えてもらった)のは本当に最初だけで、以降はティアとひたすら打ち合って悪い所を治すといった実戦形式の形に終始している。

 確かに強くなるには実戦に近い方法で訓練するのが一番なのだろうけど、毎度毎度気絶するまで木剣で殴られるのは勘弁して欲しいなぁ。


 剣術の訓練の次は(大抵の場合気絶から目覚めたら)最後の科目であるリグレッタとの魔法訓練が待っている。

 リグレッタの魔法講習は恐ろしい程スパルタであったが馬術や剣術、政治経済と違いこちらは僅か一週間にして目に見える成果を出すことができた。


――新魔法"空間跳躍ジャンプ"。


 今まで俺が使ってきたド派手、高破壊力、消耗過多の扱いにくい大魔法と違い、こちらは短い鍵呪文と少々の"意志の力"で発動するエコ燃費で俺の周囲の空間を目的の空間まで圧縮し繋げることで呼び動作なしで瞬間移動ができるという超便利魔法だ。一応『距離に応じて意志の力を消費する』『視界内の見える範囲しか移動できない』『目的地との間に障害物があると空間を繋げない』といった欠点があるが戦闘において任意で間合いを詰めたり、一瞬で逃走できるメリットに比べればそんな弱点は全く気にならない。むしろ会得した当初はこれは最強の魔法で俺もついに反則チート系主人公の道を進み始めてしまったと次の日まで一人でニヨニヨしていたのだ。

……いや、結局ティアには全然歯が立たなかったけどね。瞬間移動の直後に反応してカウンターを決めるとか、あの娘は絶対SFの世界の住人でしょ。


 リグレッタの訓練を終えると俺は風呂と夕食もそこそこにすぐにベッドに飛び込む。まだ電灯やランプが普及しきっていない標準的なトルゴレオ人から見ても寝るには早い時間だが、次の日も訓練が続くことを考えれば早すぎるということは無い。

 体を重たい疲労感と筋肉痛に任せて目を閉じると俺は次の日の出まで夢も見ずにぐっすりと眠るのだ。


 以上が昨日までの(・・・・・)俺の標準的な一日だ。

 早起き、厳しい訓練、嫌な教師との勉強という三重苦に加えて自分の時間など一秒も無い。日本にいた頃の自分であれば間違いなく半日で逃げ出していたようなスケジュールだが、この生活も確実に自分が成長しているという充実感と魔法、剣、馬術とファンタジーの世界にどっぷりと漬かれるという満足感があるおかげで決して嫌ではない。

 俺の成長だけでなく壊滅状態だった西部の震災支援と復興は完璧、新軍隊の編成も目処が立ち次のステップに進んでいるし、経営している国家の経済も順調に成長中と全く文句のつけようのない時間を過ごしているのである。

 このままこんな日が続けばなぁ、なんて老成した事を思うのも無理は無い。


 いや思っていた。


 うん。昨日まではね。


***宰相ナポリ・ルノー***


 宰相専用の執務室に立ち、トントンと羊皮紙を叩き今日の政務で陛下に提出する書類を確認する。今日は政府から上がってきた報告書が10件、青獅子騎士団から齎された外国の情報が3件、赤獅子騎士団への命令書が2件、それに貴族同士で起こした裁判の訴訟が11件。

 政務を始めさせた当初こそ一日に2,3件、それも名前の書き方から教えなければならなかった陛下だったが、最近になってようやくこれだけの書類を処理できるようになった。まだまだ一人前と呼ぶには程遠いが十分に努力は認められる。


「ククッ……まあどちらにせよ儂は死ぬまで一人前と認める気はないがな」


 自分が意地の悪いことをしているのは分かっているがこれはこの国の将来のためにどうしても必要なことなのだ。

 南部のトップだったエンローム・エイブラムスは破れ、国家始まって以来の危機であったのキスレヴ軍の侵攻は退けられた。西部は震災のせいで支援に頼らざる終えず、北部は新しい経済政策に付いていくのに必死だ。

 そう、今やあの少年にはどこにも対等な敵がいない。それは一臣下であれば喜ばしいことなのだろうが、政治家を半世紀もやっていればこの状態がいかに危険なのかがわかる。

 なぜならあの子供にはまだ国を経営するために必要な経験が圧倒的に足りていない。幸せになった国民がどんなにわがままなのかも知らないし、敵対する政治家がどう策謀を巡らすのかも、有能だが私腹ばかり肥やす官僚をどう利用するのかも知らない。そもそもトルゴレオの地理や風俗すら把握していないのにそんな複雑なことを覚えろというのも無理があるだろう。だができないからといって後回しにはできない。

 なぜなら彼自身がある程度優秀な上に周囲にあれだけでの人材が揃ってしまっているせいで、このままでは政治家として当然得られるべき教訓を一切持たないまま成長を終えてしまうかもしれないのだ。

 経験を積ませるには手強い敵が必要、しかし国内の反体制の目ぼしい貴族は倒れるか戦意を喪失してしまっている。外敵すらアテにならない現状、ならば自分が中心になって保守派を纏めて王の敵となるしかない。そう考えての保守派への転身だった。

 再び書類を確認すると昼食を食べ終えた頃を見計らって陛下の元へ向かった。 


「陛下、政務の時間でございます。失礼します……陛下?」


 私が執務室に入るとそこにはベッドの上に寝込む少年と彼の額に濡れた布を当て団扇うちわで風を送る給仕の使用人の姿があった。

 最初はいつもの仮病か、でなければ新しいボイコットかと思ったが少年の体から出る湯気と荒い呼吸が何か尋常ではない様子を感じさせる。


「ああっ、ルノー侯爵閣下! どうか御慈悲を。このままでは陛下が死んでしまいます!」


「……何事だ?」


 あまりに奇天烈な事態に思わず眉間を抑えながら訪ねた。


「それが…リグレッタ様が訓練を増強をするとおっしゃられて…」


「それは知っておる。だがいくら厳しくなったとはいえ昨日まではどうにかこなしていたではないか」


「昨日までとは桁違いなのでございます! リグレッタ様はいつもよりずっと早くにに陛下を叩き起こして倒れるまで走らせたのみならず、アンキシェッタ殿の講習にまで口を出される有り様!」


「……具体的に何をさせられたのだ?」


「なんでも、たまには上に乗られる馬の気持ちを理解するべきだと仰ってポニーを背負わせて腕立て伏せをさせてみたり、軍馬と競走させて勝てるまで何度も外を走らせたとか。アンキシェッタ殿も反対なされたのですが、元来気の弱い所がある方ですから……」


「抑えきれなかった、と」


 頭が痛くなりそうだ。

 ベッドを見れば陛下は昼間だというのに湯気を立てながらうなされている。魔術師という人種がどの程度の身体能力を持っているのかは知らないがこれは明らかにやり過ぎている。まあ確かに死ぬまで酷使される馬の気持ちは分かっただろうが……。


「リグレッタ様も一体どんな恨みがあって陛下にこのような仕打ちを……」


 ヨヨヨといい年をした男の給仕が女のようにハンカチを噛んで涙を流した。


「………………」


 ゴシップ好きの使用人達もまさかこの行動の原因が嫉妬とヒステリーだとはわかるまい。

 私はもう一度陛下の様子を見、嘆息しながら給仕に告げた。


「よかろう。本日の授業はこの後の物も含めて休みにさせよう、リグレッタ嬢には私からも注意しておく。お前は他の使用人たちと陛下について世話しておくように」


「かしこまりました。ありがとうございます、閣下」


「何、その様子では陛下もまともな判断などできそうに無いからな。書類は置いておくから陛下が目覚めたらお前が読んで聞かせるように。授業を休むのはいいがたとえ死んでも政務を滞らせることは許さんと伝えて置け」


「そんなっ!」 


 給仕が青い顔をして叫んだがそれを無視して扉を閉めた。

 執務室に戻る道すがら機を抜いたせいで先程まで押さえていた頭痛がぶり返してきたのを感じて眉間を押さえた。


「ふぅ…………しかしあのリグレッタがそんなに不器用な娘だったとは」


 自分にとってリグレッタ・チハルトはトスカナ卿の元に養子に来た頃から面倒を見てきた自分にとって娘か孫同然の存在だ。

 見目麗しく、幼い頃から様々な分野に才を発揮したリグレッタはトスカナ卿の身内では勿論の事、国中の貴族から常に注目を浴びていた。さすがに市井出身の養子なので王家や格式高い名家の元に嫁ぐのは少し難しかったが、それでも経済界のトップであるチハルト家の養子となればパーティの度に婚約を求める者が長い行列を成していたほどだ。

 あれほどの人数、社交界慣れした貴族であっても挨拶するだけで疲れてしまうはずだが、リグレッタは幼いにも関わらず自分の役割を良くわきまえていて時には笑顔、時には涙を見せて男達から義父の望む通りのプレゼントや人脈などを貢がせていたのだ。

 他人の恋心であればいとも簡単に手玉に取ってしまっていたのに……それがいざ自分の番となると目を覆わんばかりの様はなんだ。

 

「――いや、ままならんものなのだろうな。女の恋心という奴は」


 しかしリグレッタの奇行はいいとして陛下はなんなのだろうか? 普通ならとっくに怒るか愛想を尽かしてもおかしくない。惚れた弱みか……いや、ひょっとしたら困った趣味でも持っているのかもしれない。


「ナポリ、ナポリよ。おお、丁度よい所に!」


「トスカナ卿?」


 廊下で出会い頭に話しかけてきたのはデップリと太った商人風の貴族――長年の友人にして改革の同志だったトスカナ内務卿である。

 思いがけない接触に急いで周囲の人影を窺う。

 内実はともかく、いまやトスカナ卿と私は国を二分して敵対する派閥のライバルなのだ。せっかく何ヶ月もかけて敵対を偽装し、保守派からの信頼を得たというのに、仮にここで5分でも立ち話をしているのを誰かに見られたら周囲から自分の心変わりを疑われてしまうかもしれない。


「この辺りの無人は確認してある。危急に話し合いたいことがあるのだ。ささ、こっちへ」


 トスカナ卿に連れられるままに廊下を進むとこじんまりとした使用人の部屋に通された。確かにここなら聞き耳を立てるような輩はいるまい。


「さて、相談というのはリグレッタに関してのことですな、トスカナ卿?」


「ここには我々しかいないのだ。昔のように呼び合わないか、ナポリよ」


「………………わかった。お言葉に甘えさせてもらおう、トスカナ。それで話し合いたいのはリグレッタが陛下を殺しかけている事についてか?」


「そう、まさしくその件だ! ああ、儂は一体どうすれば良いのだ!? このままでは我が国はまたしても国主不在になってしまうぞ!」


 トスカナは随分と興奮した様子で語った。どうやら見た目以上に陛下の件について責任を感じているようだった。


「落ち着け、トスカナ。それで今日はリグレッタとは話したのか? この件はおもにお前の義娘の心の問題だとわかっているのだろう?」


「お、おお。もちろんだ。喚いてばかりだったが、話を聞くにどうもあの娘は自分には見向きもしない陛下が他所で他の女を抱いてくるというのが我慢ならんらしい」


「ほうほう。しかし、儂にはあの少年は十分にリグレッタに魅力を感じているように見えるがな」


「儂もそう思う。だがまあ、劣等感という奴は誰にでもあるからな。そこで抜本的解決案を義娘に授けたのだが、あの娘は全く聞く耳を持ってくれなかったのだ」


「……どんな案だ?」


 自信満々なトスカナの表情に嫌なものを感じて思わず生唾を飲み込みながら問うた。

 この目の前の中年は金や政治に関しては天才的な嗅覚を発揮するが、こと軍事と女心に関しては絶望的とも言える能力しかないのだ。そのせいでこの年になっても独身であるのだが。


「何、そんなに余所の女が嫌ならお前を寝所に呼んで貰えるよう儂から陛下に頼んでやろうと言ってやったのだ。大した事じゃない。養父としてそれくらいはわけない事よ。ところがだ、それを聞いた途端あの娘はこの世の物とは思えん金切り声をあげて暴れ始めてな。仕舞いには刃物まで振り回し始めたので儂は命からがら逃げだす羽目になった」


「なんと……!」


 トスカナの想像の斜め上を行くお節介ぶりに開いた口がふさがらなかった。

 なんと悩ましい、一体この中年にどうすれば思春期の少女の感情を理解させることができるのか。そして何が悲しくて七十近くにもなって四十をとっくに過ぎた中年に今から女心を説かねばならないのかと少し憂鬱になった。


「トスカナよ、それではリグレッタが怒るのも当然だ。お前の提案は些か性急過ぎる。男と違い年頃の少女というのはベッドの上で行うことよりもベッドに上がるまでの過程の方に興味があってそちらの方が大切だと考えているのだ」


「どういうことだ? 結局好き合いたいのだろう? 同じ事ではないか」


 心底わからないといった顔でトスカナが訪ねてきたのを見てまたしても頭痛がぶり返してきた。

 今の自分の立場では直接、国王派であるリグレッタと談に乗ったり、ましてや国王本人の恋路の問題を解決してしまうわけには行かない。なんとしてもこの問題はトスカナか可愛いリグレッタ本人のどちらかが解決する必要があるのだ。

 一体どうすればこの朴念仁に義理の娘の心情を理解させられるのだろうか。

 そうだ、こやつの得意な商売に例えてみよう。


「トスカナよ、こう言えばわかるか? 彼女は陛下と駆け引きがしたいのだ。例えるなら店主と商品と客がいる。店主はリグレッタで商品はリグレッタ自身、そして陛下は彼女の店に入った客だ。店主は店に客が来たからにはなるべく商品に興味をひいてできるだけ高く売りつけたい。客としては商品の質を見て適正な価格を見極めたい。お前が怒られたのはお前がそこに割って入って他の店の商品を勧めたり、リグレッタの商品の値段を教えようとしたからだ」


 トスカナの目にみるみる理解の色が広がった。


「ほほぅ……それならわかる気がする。ちなみに二人は何で取引しておるのだ?」


自尊心プライドだな。リグレッタは自分にかなり高い値段をつけているようだ。陛下もそこそこの金額を提示しているがその割に態度が悠々としているのでまだ財布に余裕があるのでは、とリグレッタは疑っているのだ」


「おお、なるほど、なるほど! そうだったのか! いや、ナポリよ。ようやくお前の言いたいことがわかったぞ!」


 トスカナは巨体を揺らして子供のように喜んだ。


「だがしかし……問題は解決策だな。お前の話では結局、我々はリグレッタを止めることができんではないか」


「それについては儂に少し考えがある。例の水力機織機すいりょくはたおりき工場の建設の件はどうなっている?」


 水力機織機工場とは陛下が提案した経済政策の一つで、川の流れを用いて水車を動かすことでそれを動力に今までの数倍の速さで布を織ることができる“機械”を用いた工場のことだ。今までの手作業での機織と違い動力を用いることで通常よりもずっと人手を減らし、早く安い値段で布を作る事でトルゴレオの繊維業を爆発的に成長させる一大計画となっている。


「何を突然……あれならば西部のゴーダ川近辺のパフィカの町で来月から稼動するそうだ。ちょうど二年以上前にどこぞの技師が考案した設計図が使えたのでな。技師は奇人から一気に世紀の大発明家に早変わりよ」


「ゴーダ川近辺……ますます好都合な事だ。丁度中部の西寄りの集落と難民に用があったのだ。陛下には視察がてらしばらく西部へ行幸に出てもらおう。一ヶ月も陛下と引き離せばリグレッタも頭が冷えよう」


「無理矢理ついて行きはしないだろうか?」


「仕事がある。あのは責任感が強いからな。私情で仕事を放棄したりはしないさ。それと私はアルポース男爵を連れて行くぞ」


「アルポース男爵だと……? ナポリよ、お前の考えていることはさっぱりわからん。あのような悪人を陛下と合わせてどうする気だ?」


 アルポース男爵とは現在の私の直属の部下であり、横領・強姦・脅迫を常習している悪徳貴族のかがみのような人物だ。前王が戦死するまではその権力と財力を使って思う存分違法行為を働いていたのだが、此度の改革でトスカナが行った調査によってその悪逆ぶりが明らかになった。

 捜査は順調に進み本人の知らない所でこのままだとあと数日の内に逮捕されるだろうという時にで私がトスカナに願い出て身柄を預かったのだ。

 体面上は私の腰巾着という形だが、実際には犯罪の証拠を揃えていつでも切れるようにした陛下のための“教材”に他ならない。


「遊牧民のマ族の集落に連れて行く」


「なっ!! 早すぎるのではないか!? あそこはトルゴレオであってトルゴレオではない場所だぞ」


「儂はな、トスカナよ。陛下にはできるだけ早く、そして少しでも多くこの国の闇を知っておいて貰いたいのだ。この国を愛し同時にこの国を嫌悪する。そうすることで初めてあの異邦人は真のトルゴレオの王になれるのだから」




読者の皆様、いつもお待たせして申し訳ありません。

今月は更新もっと頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 10年近く前の作品ながら、今読んでも全く古臭差を感じさせない点。 久々に読み直させていただきましたが、昔と同じようにキャラクター達のやり取りを楽しむことが出来ました。 [気になる点] 更新…
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