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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第五章 嵐の予感
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第二十話「何もかも受け入れてくれたから」

(ちょ、ちょっと待って!? これからジギタリスと交渉しようってタイミングで佐渡山くん、政宗の場所が分かったって――どういうことなのよ!?)


 変身を解除した瑠璃はスマホを握りしめ、目を振るわせて画面を見つめていた。


 もしかすると結人達が政宗の捕まっている場所に辿り着いているかも知れず、そうなれば交渉が無駄になる。そう思い、ジギタリスにタイムを言い渡してスマホをチェックした瑠璃だったのだが……、


(本当に特定できてるとは思わなかったわ……まだあっちはそんなに工場を回れてないはずよね?)


 結人が何らかの方法で政宗の居場所を特定し、その住所をメッセージで送信してきていたのだ。そして、彼らはその現場へと向かっているらしい。


(あの二人、まだ現場には到着してないのね。場所は最後に立ち寄るはずの工場……なら、何らかの推理で弾き出したのかしら?)


 難しい表情を浮かべてスマホと睨めっこする瑠璃。ジギタリスは咳払いして注意を引く。


「瑠璃、交渉するんじゃなかったのぉ? 別に忙しい身じゃないからいいけれど、交渉相手をほったらかしにしてスマホいじりは褒められたことじゃないわぁ」


「ちょ、ちょっと待って! 事情が変わってて……何というか、思考が追いつかないのよ」


 瑠璃は頭を抱え、混乱する脳内を整理していく。


(とりあえずジギタリスにクラブとカルネの居場所を捜索してもらう必要はなくなった。なら、交渉は必要ないのかしら……それとも、別のことを?)


 頭の中でちまちまと思考を重ねていくのが面倒になった瑠璃。直接ジギタリスに事情を話しながら交渉を進めていくことにした。


「クラブとカルネの居場所は分かったみたい。あんたに捜索を依頼する必要はなくなった」


「そうなのぉ? なら、交渉というのはなかったことになるのかしらぁ?」


「いや、そうじゃないわ。ジギタリスには居場所を特定してからのことを依頼したいんだけど……とりあえず、今起きてることを説明させてもらうわ」


 瑠璃はそこからクラブとカルネが今日起こした事件について説明し始めた。


 クラブとカルネがメリッサの魔法少女を拉致したこと。

 隠した居場所を探させ、ヒントを出して遊んでいること。

 ガラの悪い男を従え、暴力で脅しをかけていること。


 それを一通り聞き終え、情報を共有したジギタリスは呆れたように深く息を吐き出す。


「なるほど……カルネらしいわねぇ。手口がまさにあの子の趣味趣向そのものじゃない。正直、私には理解できない領域だけれど――あの子らしいことだけは分かるわぁ」


「あんたは損得でしか考えないものね。そりゃ理解できないわよね」


「……それで、瑠璃の要求は何になるのかしらぁ? 居場所が分かったのなら今度はクラブとカルネを止めて欲しい――そんな感じぃ?」


「ざっくりとしてるけど、そうなるのかしらね。居場所がこうもあっさり分かるとは思ってなかったから、ちょっと思考がまとまってないけど」


 ジギタリスは瑠璃の言葉に「ふむ」と呟き、キセルを口に含んで思案顔。ローズはしばらくそんな彼女の様子を見守り、やがて口を開く。


「……ねぇ、もしもあの二人を止めて欲しいって言ったら、それは可能なの?」


「できるでしょうねぇ。私は魔女。不可能の方が少ない存在だものぉ」


「なら、私が提示する対価の方が問題ってことよね? あんたを動かすほどの対価を用意できるかどうか」


「まぁ、そうなるわねぇ。だけど、言っておくわぁ――クラブとカルネは私にとっては稼ぎ頭。あの二人に害成す行動を私が取るのは相当の不利益よぉ?」


 瑠璃は上がったハードルにぐぬぬと押し黙ってしまう。


(ジギタリスが完全に得する条件を満たさないと交渉は成立しないわね……。安易に私が唯一持ってるカードを切ったとしても、一ミリだって動かせないかも)


 ジギタリスはおそらく見抜いているであろう、瑠璃が提示するつもりの伏せられたカード。



 それは――瑠璃が魔法少女をやってきたことに対する対価、願いの成就だ。



 本来ならば「クラブとカルネを止めてくれ」と素直に言えばいいはずだが、このジギタリスという魔女は違う。欲に目が眩んで魔法少女の願いをまともに叶えようとはしない。


 瑠璃の願いも魔法を行使せずマナ回収で済ませようとしていた辺り、かなり欲の皮が張った魔女であり――おそらくはそういう手段が効く人間を選んで魔法少女にしている。……もしかすると、クラブやカルネも。


 そんな相手に望むまま願いを口にしても、きちんと叶えてもらえる保証はないのだ。


 魔法少女は契約において立場が弱い。その気になれば魔女はマナ回収だけさせて願いの成就を踏み倒すことだって可能なのだ。


 しかし、可能だからといって合法ではない。ジギタリスが一応は踏み倒していない時点である程度魔法少女の願い事に関して契約を順守させる取り決めがあるはずなのだ。


 そのグレーゾーンで魔法少女を操るのがジギタリス。彼女との交渉で対等に立ち回るため慎重になり過ぎた瑠璃は何も言えなくなっていた。


 そして二人の間に横たわる静寂――破ったのはジギタリスだった。


「ただね、あの二人とはそろそろ手を切る時期なのも事実。クラブとカルネはすでに自分の願いを叶えられるほどにマナを回収しているのに、まだ魔法少女を続けているのよねぇ」


「……あの二人、そんなに回収してるの!? なのになんでまだ魔法少女やってんのよ?」


「魔法少女になった時点で最初に抱いていた願いが叶っているとも言えるから、わざわざやめる必要がないんじゃないかしらぁ? でも――それが私にとっては不都合なのよねぇ」


「どう不都合だって言うのよ?」


「膨大なマナを貯め込んでるおかげで、何かとんでもない願いに変更するなんて言い出して、マナのかかる魔法を使わされそうだからよぉ。カルネなんかは若返らせてくれとか言いそうだわぁ」


 予想がつく未来に憂鬱そうなジギタリスはけだるそうに細く煙を吐く。そんな彼女を見つめ、瑠璃は考える。


(つまり、クラブとカルネも私と同じく何らかの方法で願いを「叶えたことにできる」魔法少女なのかしら。きっと叶えた形になっていれば魔法の国のルールとかにも違反しないんだわ)


 だが、カルネがもし「若返らせてくれ」と言ったら、それは魔法を使って叶えなければどう言い繕っても叶えたことにはできないはず。瑠璃のケースみたくはできない。


(……っていうか、カルネってそんな歳なの? 魔法少女になってると分からないわね)


 カルネが願うであろうことは、政宗と同じく体を作り替えるために膨大な魔力を要求される。それを避けたくてジギタリスはクラブとカルネの契約を切ってもいいと考えているのだとすれば――、


「それってクラブとカルネが願いを変更する前に叶えてしまって、ジギタリスから契約を終えればいいんだけじゃないの?」


 それこそ、手っ取り早い解決方法だった。しかし――、


「それはできないのよねぇ」


「どうしてよ?」


「自分からマナ回収をしてくれる稼ぎ頭の首を切るような真似はしたくないからぁ」


「――はぁ!? それって、ただのワガママじゃないの!?」


「そうとも言うでしょうねぇ。でも、ワガママを言ってこその強欲というものだと思わないかしらぁ?」


 悪びれる様子も――そして、恥ずかしげもなく淡々と語ったジギタリスに瑠璃は何だか馬鹿馬鹿しくなって体の力が抜ける気がした。


 いずれ倒れてくるとしても金のなる木を切る気はないと語るジギタリス。ならば、それは二律背反のように思えるのだが――瑠璃は何となく読めていた。


 そして、分かり始めていた。これは瑠璃ではなく、ジギタリスからの交渉だったのだと。水面下で知らず知らずのうちに条件を提示され、ローズは要求されていた。


 ――そのカードを切れ、と。


(ジギタリスに私が要求すること――私が魔法少女をやってきたことに対する願い事、分かっちゃった。今から何て言えばいいのか、理解できたわ)


 瑠璃は自分の願い事がそんなことになるとは思わず苦笑し、次には寂しそうな表情を浮かべる。


(私、これで魔法少女じゃなくなるのね。ちょっと寂しいかも。だって、嫌なこともあったけど――私に友達をくれたのはマジカル☆ローズだったんだもの)


 瑠璃は目を閉じ、瞼の裏へ鮮やかに焼き付く思い出に触れる。


 自分を変えるため魔法少女になり、クラブとカルネに迫害されて管轄する街を追われた。身の危険を感じて、親に頼み込んで強引に転校した。そして、流れ着いた場所でリリィと出会い――親友と巡り合えた。


 そして今、自分は変われているだろうか――?


 自問自答し、あの日不可能だと言った願い事がいつの間にか叶っていたことに瑠璃は笑みが零れる。ならば――。


(そんな友達のためにこそ――このカードは切るべきよね!)


 やがて固めた決心を表情に浮かべ、そしてジギタリスもまた彼女の決意を読み取って不敵に笑む。


 そして、もう一人の自分――青薔薇の魔法少女に背中を押されて、瑠璃はとっておきのカードを切る。


「じゃあ、ジギタリス。私は魔法少女として活動してきた対価、願い事を代償にしてあんたに依頼するわ。私があんたに望むことは――」


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