表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第五章 嵐の予感
93/135

第十八話「君の姿を求めて」

「学校サボる子に車は出さないですって!? 緊急事態だって言ってんでしょ! パパの分からずや、もういいわよ!」


 通話中のスマホへ叫んだ瑠璃は苛立った手つきで電話を切った。


 そして、結人達と歩んでいた道から一人折れて、人気のない路地でローズに変身。住宅街の密集した屋根を蹴り、ジギタリスの住む街へと向かった。


 その去り行く姿を見つめ、三人は言葉を失っていた。


 あれから――修司のリストアップした工場跡を回るべく行動開始し、メリッサの家から出た結人達。移動手段が徒歩しかない彼らを思って瑠璃は自宅から運転手ごと車を用意しようとした――のだが、学校から連絡なく休んでいることが家に伝わっており、叱られたようだった。


 そんなわけで、結人達三人は移動手段としてバスを利用することに。結人と修司の手持ちではタクシーで走り回ることは難しかったのだ。


 そんなわけでバス停を目指していたのだが――、


「ま、待っておくれ……君達若者と違って私はそんなに体力がないんだ。ちょっと歩くのが早過ぎないか?」


 真っ黒なローブと魔女帽の格好となったメリッサが結人と修司に少し遅れてふらふらとついてくる。二、三キロマラソンした後のように疲れ果てていた。


「さっきの高嶺さんを見るに魔法少女はかなり身体能力が高いはず。なのに、魔女であるメリッサさんはどうしてもう息が切れてるんですか?」


「魔法少女達はマジカロッドによって身体能力を向上させる魔法がかかっているからね」


「つまり修司の疑問に答えるなら、メリッサさんはその魔法がかかってないから一般人と変わらないってことだ」


「いや、これでも少し魔法を使ってるんだけどね。……使ってなかったら、もう倒れてるかも知れん」


「え、使ってるんですか……?」


 結人は言葉を失い憐れむ目でメリッサを見る。


(……まぁ、政宗のためにマナを瓶に移せば無気力になるって言ってたし、引きこもり気味に――そして運動不足にもなるか)


 結人はそんなことを考え、そのまま思考はあの瓶へ跳ぶ。


(そういえばメリッサ、あの瓶を家から持ち出してた。いざとなったら俺の決断に答えるため……そういうことだよな)


 全てを一気に解決する究極の一手は結人の中にある。


 もしかすると政宗の自己犠牲を聞かされた直後ならばメリッサにマナの使用を懇願していたかも知れない。しかし今、結人の中にはマナを使う誘惑に抗う想いが灯っていた。


(政宗を助けるし――マナも使わない。どっちもできなきゃ綺麗に終われない。無茶かも知れないけど、そんな理想をギリギリまでがむしゃらに追ってみよう)


 それが政宗を守ることなのだと確信し、結人はメリッサのことはすっぽりと忘れて感情のままに歩みを進めていく。


         ○


「ここもハズレ、か……しかし、思ったより廃工場の中を確認するってのも楽じゃないな」


 塀に囲まれ、入り口は柵で閉ざされた使われていない工場を端から見つめ、結人は嘆息交じりに言った。


 まずは最寄りにある工場へバスで移動。そこから近い順にピックアップした場所を確認していき――現在、二軒目を終えて敷地から出てきたところだった。


「確かに。放置されているからこそだと思うけど、塀を無理矢理にでも越えなきゃ中には入れないね」


「これってもし誰かに見つかったらかなりマズイやつだよなぁ?」


「不法侵入で警察を呼ばれるかもね。ただでさえ、こっちは怪しい見た目のメリッサさんを抱えてて、他人の視線を奪いやすいから気をつけないと」


「……ん? もしかして私、邪魔になってるのかな?」


 きょとんとした表情で結人と修司の顔を交互に見つめるメリッサ。


 正直、スウェット姿の方がまだマシだったのではないかと思うメリッサの格好。だが、彼女曰く流石に外行きの服じゃないと恥ずかしいらしい。彼女からすればこちらが正装。魔女の価値観である。


 ちなみにメリッサは工場前までやってくると身体能力的に塀を乗り越えられないので入り口付近で立ち尽くし待っているだけとなる。


 見張りの役目を自認しているが、目立つ格好の人間がする役割ではないだろう。


 さて、二件目の確認を終えたため三人はバス停へ戻るべく、来た道を引き返していく。


「正直、写真の工場よりもさっきの建物の方が綺麗な感じだったね。もしかすると老朽化している建物に絞っていくつかを候補から外したほうがいいのかな?」


「それで本命を除外してしまう可能性ってないのか? これも急がば回れってことのような気もする」


「数をこなすのも構わないが、結人くん。ヒントとやらは役に立たない感じなのかな?」


 結人と修司の早い歩調に追いつくべく、メリッサは息を切らせて小走りしながら問いかけた。


「そういえば工場に侵入してる間にまた一件届いてました。これで俺のところに届けられた画像は三枚ですけど、毎回同じアングルですから背景から読み取れることは何もないです。それに、きっと政宗もヒントを出さまいとしてるんだと思います」


「毎度送られてくる画像をカルネがヒントだと言ってるのは、政宗くんに居場所の意思表示が許可されているから……そう考えてるんだね?」


「カルネの考えはそういうことだと思う。正直、縛られた状態じゃ難しいと思うけど、それでも何らかのサインを俺達に写真を通して送ることは許可されてる」


「だけど、電話の時のように政宗は情報を自らセーブしている、か……。まぁ、あの子らしいとは思うが……バカなことを」


 メリッサは「はっ、はっ」と辛そうな呼吸をしながら結人と修司についていきながら語った。


 ちなみに、そんな彼女の苦しみはもうすぐ終わりを迎えるようで、つい先ほど下車で利用したバス亭が見えてきた。


 ふらふらとバス停の椅子へと歩み寄り、ドカッと体を預けて休息するメリッサ。結人はそんな彼女を見つめ、政宗のために必死で行動してくれていることを嬉しく思った。


 さて、先ほど送られてきた画像を確認する結人。


 画面に表示されたのは完全に上着を取り払われて上半身の素肌が露わになった政宗の姿。以前の画像のように浅黒い男達の手が白く穢れを知らない政宗の体を欲望のままに這い回る――のだが、そんな腕の一組は彼女の腰回りを抱き、そしてズボンのベルトに触れていた。


 毎度、確認する度に息を飲み、心臓が止まりそうになる結人。


 そして、写真撮影を行っているせいで政宗の瞳に映りこむ撮影係の男は拳を握り、立てた親指を下に向けていた。


 ――明らかな挑発を込めたそのポーズ。


 最初に送られてきた写真ではピースをしており、次の画像では指でオッケーサインを作っており、今回は――地獄に落ちろというハンドサイン。


(毎回、政宗の瞳に映ってることを理解して何かしらのポーズを取ってるのかな? 色んなアプローチで挑発してるってことか?)


 カルネの一挙手一投足で感情が揺さぶられる。

 苛立ちが何度沸き上がったか分からない。


 結人はバスの時刻を確認し、椅子に腰を下ろした。隣に修司が座るのを感じながら結人は工場のリストを確認する。


 工場名と住所の羅列。


 本来ならば修司と瑠璃、それぞれで手分けして捜索活動をするために送られたリスト。だが、結人の精神状態を思ってか、彼は別行動をしようとは言わず今に至っている。


 結人からしてみれば暴走気味な自分にとってのブレーキがいてくれて助かっていた。


(自分のために怒ってくれた瑠璃といい、良い仲間に恵まれてるんだって思う。……俺が何もできなくたって、補ってもらえばいいんだ。一人で解決しなくちゃならないわけじゃない)


 そんなことを思いながら次に向かう工場の住所を確認していた――その時だった。


(――あれ? これって、もしかして?)


 結人は突如として自分の中で生まれた予感。突き動かされるように俊敏な手つきでスマホを操作。政宗とのメッセージ履歴を呼び出す。


 そこには当然、送られてきた画像が表示される。しかし、それを目にして苦しむ心も他所に結人はその気付きと画像の中の情報を照らし合わせる。


 そして――、


「……間違いない。俺、政宗がいる場所……分かっちまったかも知れない」


「佐渡山くん、本当かい?」


「あぁ。……そういうことだったんだ。カルネはやっぱり――ヒントを出していたんだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ