第八話「魔法少女の世界」
「ロ○ソ・ファン○ズマだとかトップス○ードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
「変なポーズで何言ってるの? 結人くん」
夕陽は地平線へと沈み最後の一滴を絞り、夜の帳が下ろされる時間。
マナ回収を何件かこなし、休憩のため雑居ビルの屋上へ降り立った二人。
すると、結人は突然迫真の演技で語り出したのだ。
リリィのマナ回収を目の当たりにして――いや、その一切を目撃できなかったことに感動したようだった。
「凄まじいよ、魔法少女の力ってのは! 時間停止のせいで何をやってるのかまったく分からない。マナ回収が始まったと思ったらもう終わってるんだから」
「あはは、結人くんの視点からはそう見えるかもね」
「だから聞きたいんだが、今日最初にマナを回収した万引き犯とかはどうなってたんだ?」
今日最初の現場はスーパーマーケットで起きた万引き。
そして、犯人は結人達の通う学校の上級生だった。
しかし、その詳細を結人が知ったのはリリィが一瞬で事件を解決して戻ってからだった。
結人はスーパーの前で待機し、マナ回収のため中へ入ったリリィを見送った。
だが数秒後、突然結人の隣にリリィが現れて「終わったよ」と告げたのだ。
時間停止のせいで結人の体感時間はその数秒しかなかった。
「あれは犯人からマナを回収した後、口の開いてるカバンから盗んだものを取り出してこっそり棚に戻してたんだよ」
「その格好で商品棚に盗品を戻したのか……。ちょっとシュールだな」
ちなみに時間停止中は止まっている物体を動かせない。
つまり結人が感じられた数秒は、リリィが時間停止を解除して商品を戻している時間なのだ。
「犯人は店から出てないし、万引きを未然に防いだってことか。だとしたら犯人は痛い目を見てないし、再犯とか大丈夫なのか?」
「そこはマナ回収してるからね。ストレスによる犯行とかだと思うし、それを取り除かれたからしばらくは大丈夫じゃないかな?」
長年魔法少女として犯罪を防ぎ、そして街を見守ってきた者の言葉。
結人はほっと一安心――そして、すでに興味が別のことへ移っていた。
「話はちょっと変わるんだけどさ……――なんだ、マナ回収の時に出してたあのベリーキュートな魔法少女アイテムは! ステッキか? ステッキなのか!?」
「あ、やっぱり。ステッキ見たら興奮すると思ったよ。……うん、そう。魔法少女に与えられるアイテム――リリィ☆マジカロッドだよ」
結人の興奮に応えるべく、リリィは胸元を飾るハートマークの宝石に手をかざす。
すると光りを放った宝石からステッキが伸びるように現れ、リリィはそれを掴んで取り出す。
リリィ☆マジカロッド――それは変身アイテムであり、魔法少女となった後は対象にかざしてマナを回収するステッキなのだ。
ちなみに変身に使用したアイテムと同じデザインだが、変身後は長さが傘くらいに伸びている。そして、使わない時は胸元の宝石に収納される。
「☆で無理矢理に魔法少女感出したネーミングいいなぁ! 本物のステッキが見られるなんて感動だよ!」
「まぁ、いざ回収する時はこのステッキに悪意で黒く染まったマナが粒子みたいになって吸い込まれていくから、あんまりファンシーな絵面じゃないんだけどね」
キラキラと目を輝かせる結人に苦笑いを浮かべ、真正面から夢を破壊していくリリィ。
――さて、話は戻って結人とリリィのマナ回収。
リリィは二件目に自転車泥棒と対峙。マナを回収された犯人は自分のやっていることに伴うリスクを冷静に認識し、すぐさま自転車を元の場所に戻した。
続いて三件目は不良学生達が喧嘩を行っており、リリィは時間停止して全員からマナを回収。時間停止を解除すると罪悪感が各々にドッと圧し掛かり、振るった暴力を謝り合う平和な光景に。
そして、ついさっきリリィが解決したのが――マンション四階で起きた火災だった。
まだ消防車が到着しておらず、燃え盛る炎を背に子供が窓から助けを求めている危機的状況。リリィは時間停止でその部屋までベランダを足場に上っていき、火の手が上がる室内へ。
子供を抱きかかえると人目を憚ることなく地上へ降り、子供を助けようと駆け出すのを周囲の人間に止められていた親へ送り届けた。
ちなみに原因は自然発火であったため、マナ回収の対象は存在しなかった。
「しかし本当に時止めは凄いよなぁ。リリィさんの能力って魔法少女の中でもかなり強力な部類じゃないか?」
結人はアニメで見た「時止め魔法少女」のアレやコレを思い浮かべながらしみじみ語った。
しかし――、
「この時間停止はボクの固有能力じゃないはずだよ? ――っていうか、たぶん魔法少女に個々の能力は与えられてないと思う。みんな時間停止ができるはずだよ」
「えぇ!? そうなのか? なんでそんなつまらないシステムになってるんだよ?」
予想を裏切る回答に結人は驚き、リリィに迫る。
「時間停止が一番安全だからじゃないかな。これ一つあればマナ回収を安全にこなせるでしょ?」
「そうか……そうなのか。理には適ってるけど固有能力はないのか」
肩を落としてガッカリする結人。魔法少女の能力にバリエーションがないことにも落胆していたが、それ以上に――、
(つまり、時間停止っていうのは魔法少女の世界なんだ。俺達一般人には一切触れられない、魔法少女だけの絶対的領域。俺はその世界を――見られないんだ)
時間停止のせいで一瞬で終わるマナ回収を前にし、結人は自分――というか普通の人間と、魔法少女の差を強く感じていた。
だから結人に手伝えることはなく、こうして見学に来ることにも危険はない。
マナ回収に物語はなく、淡々とした作業でしかないのだ。
――とはいえ、魔法少女のマナ回収業務。
その一切が時間の止まった世界で行われたわけでもない。
「そういえばリリィさん、結構沢山の人に見られてたけど……アレって大丈夫なのか?」
火災から子供を救出した時、堂々と一般人に姿を見せていたリリィ。
心配そうに表情を曇らせる結人だが、当然その部分を魔法少女のシステムはカバーしてるようで、リリィは少し得意げな表情で「それはね」と語り始める。
「魔法少女には記憶を阻害する魔法がかかってて、見た人の忘却を促すようになってるんだよ。最初は珍しくて意識するから覚えてられるけど、少しでも考えなくなったらどんどん魔法少女に関する記憶を忘れていくんだ」
「へぇ! なるほど、そこは対策済みってわけか。でも、スマホでめっちゃ写真撮られてなかったか?」
「記憶阻害の魔法は写真に写らなくなるおまけ付き。だから、あのスーパーで歩き回ったのも防犯カメラには写ってないんだよ」
「ネットに晒されることまで対策されてるのか! ……まぁ、今の時代はそれくらいしとかないと魔法少女もやってられないのかな」
現代向けにきちんと対策された魔法少女のシステム。
結人は疑問が氷解してスッキリするが、同時に同情めいた気持ちになる。
(その記憶阻害ってのがあると魔法少女の功績は誰にも覚えてもらえないのか。ちょっと寂しいな。……………………って、あれ?)
結人は記憶阻害のシステムと矛盾する存在に心当たりがあり、表情をしかめる。
「ちょっと待ってくれよ。じゃあ俺はどうして何年も前に助けてくれたリリィさんをずっと覚えていられたんだ? 記憶阻害はどうなったんだよ?」
順当に行き着いた疑問を口にした結人。
すると、リリィはカーッと顔を紅潮させて視線を逸らす。
「そ、それは……自分で考えたら分かるんじゃないかな!」
「……ん? 考えたら分かるのか?」
「し、知らないよ……! ほら、次のマナ回収に向かうから!」
結人の腑に落ちていない表情を無視して――リリィは結人の体をあっさりとお姫様抱っこで持ち上げ、マナ回収対象を探すべくこの場所を去った。
明日の18時に更新する第九話で第一章完結です!
第九話では第二章に繋がるあれやこれやが出てきますので、是非読んでいただきたいですね!
よろしくお願いしますっ!