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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第五章 嵐の予感
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第十三話「決断を迫られて」

「……なるほど。大体の事情は把握した。しかし、ヒントを出すだとか……まるでこちらの気持ちを揺さぶって遊んでいるようだな」


 散らかる部屋は片付けず、メリッサはベッドの上に座って三人からの報告を深刻に受け止めた。


 結人達三人はあれからバスでメリッサの自宅へ移動。結人と瑠璃はカギがかかっていないドアを開いて中へ入るとメリッサを叩き起こし、床のゴミを払って座れる場所を作った。


 修司は一人暮らしの女性宅へ勝手に乱入していく二人に少し引いた表情をしていた。


 そして、結人と瑠璃は政宗が捕えられた件の説明を行い、メリッサはおおまかにここまでの事情を把握。


 当然と言えるがメリッサは状況が状況なので缶ビールを飲みたがらなかった。


「メリッサさん、クラブとカルネは明らかな敵対行動に出ました。この状況でもその……魔女の立場からできることはないんでしょうか? 以前、あの二人が襲ってきた時にはメリッサさんが追い払ったと聞きましたけど」


 瑠璃は縋るような声で問いかけ、メリッサは期待から逃れるように視線を逸らす。


「あの時、私にはマナの貯蓄があったが、それは結人くんの治癒使った。その魔法を目の当たりにして二人は敵わないと勝手に撤退しただけで、あの時すでにマナは残っていなかったんだ」


「なるほど……。じゃあ、今はマナの貯蓄もないんですか?」


「使えるマナはないな。……すまない。普通の魔女なら他所からの襲撃に対抗策を打てるんだが、私は色々事情を抱えていてね。何もできないのが現状だ」


 本来、魔法少女が他所の縄張りを侵すような事態には魔女が対処し、好き勝手されるがままなどあり得ないのが普通なのだろう。


 しかし、メリッサは自身のマナを政宗のために貯蓄しているため、防御の一切を捨てた状況になっていた。


(俺が握らされた選択肢。それを今一度思い出せって……メリッサさんは暗に言ってるんだ)


 あの時とは違い、窮地は目の前に突きつけられていた。


 テレビ台の上に置かれたマナを封じ込めた小瓶を見つめ、結人の気持ちが揺らぐ。何もできないと語ってはいるが、こうしてメリッサと合流したことには大きな意味があった。


 結人は――いつでも魔法の行使をメリッサに依頼できる状況に身を置いたのだ。


「部外者が口を挟んで申し訳ないが、政宗くんが捕えられている場所を絞るための情報は何もないんだろうか?」


「おや、君は……いつだったか見た顔だね?」


「そうですか? 僕は初対面のつもりですが……とりあえず、申し遅れました。智田修司です」


 軽く頭を下げる修司を見つめ、メリッサは自分の既視感に不思議そうな表情を浮かべていた。


「確かに場所を絞るだけの情報をまとめた方がいいな。行動を起こす指針も見えない状況だし。修司、どういう部分から割り出せばいいと思う?」


「うーん、とりあえず写真の背景。どこかの廃工場とかそういう感じに見えた。これだけでもかなり絞れるよね?」


「廃工場か。よし、じゃあ廃工場を片っ端から当たってみるか」


 重要なヒントを受けて衝動的に立ち上がる結人。


 修司でなくとも背景を見ればすぐに分かる情報だが、送られてきた画像があまりにショッキングだったため結人はしっかり見ていなかったのだ。


「ちょっと待ちなさいって。この街の廃工場とも限らないんだし、そんな少ない情報で動いたって何にもならないわよ」


「……そうか。まだ考えた方がいいか」


 瑠璃は結人の手を引いて無理矢理に座らせる。


 随分と冷静さを取り戻したように見えて、しかし内心ではやはり焦燥感が心を炙っているらしい。結人は不服そうに腰を下ろした。


「しかし、瑠璃ちゃん。結人くんは弾丸のように飛び出していくだろうに……よくここまで連れてこられたね」


「勿論、無鉄砲に飛び出していきましたよ。それを必死に捕まえてここまで連れてきたんですから」


 嘆息混じりに語った瑠璃に、メリッサは苦労を想像して苦笑い。


「というか他所の魔法少女って言ってたけど、そのクラブとカルネはこの街の人間じゃないのかい? だとしたら行動範囲もかなり広いと見るべきなのかな?」


「あの二人はこの街を担当する魔法少女じゃないわ。活動拠点はここから結構離れた街だもの。そう考えるとあいつらの縄張りまで連れて行かれてるのかしら?」


「可能性としては十分あるよね。ただ、ヒントを与えて辿り着かせようとしてる感じがあるし、遠くないんじゃないかな。わざわざ夜じゃなくこんな時間に動いてるし、見つけさせたい意図は間違いなくありそうだよ」


 瑠璃と修司は揃って腕組みをして「うーん」と唸り声を漏らし、そんな二人の目を盗んで結人は小瓶へ視線を滑らせる。


 小瓶に封じられたマナを使用すれば政宗の居場所を弾き出すことなど容易である。命あっての物種、政宗の安全が確保されるならば成長を抑える魔法を捨ててでもマナを使うべき――なのだが、結人はその決断をしようとはしなかった。


(マナを使ったら政宗の居場所を割り出して、さらにはあいつらを撃退だってできるんだろうか? ……でも、それで助け出した政宗の体は望まない成長で汚されるかも知れない。そしたら、あいつは苦しむよな)


 とはいえ、マナを使わずに政宗の救出が遅れれば四人の男達が何をするか分からない。どちらを選んだって政宗は不幸になる予感しかない選択肢。


(それが分かっているからメリッサさんはマナを使う判断をせず、俺に委ねてる。政宗の次にあいつ自身のことを判断していいのは……俺だって認識だから)


 必死に政宗の居場所を特定しようと思考を巡らせる瑠璃と修司を見つめ、結人は自己嫌悪に陥る。


(こういう肝心な時に俺は取り乱して、衝動的な行動ばかりしようとして何をやってるんだろう……?)


 結人の気持ちはぐちゃぐちゃだった。


 究極の選択を迫られ、そして刻一刻と流れる時間に追われ。焦りと恐怖で落ち着かない気持ちが常に心臓を意識させる。


 鼓動を聞かせ、不安を煽る。

 決断しろ、決断しろ――と。


 それでもメリッサに魔法を行使するよう頼まないのはきっと欲張りな願望があるから。マナを使わず政宗を助け出す理想的な未来こそを渇望しているからだ。


(……まだだ。マナを使うかどうか選び取る時は今じゃない。あいつらも愉快犯的にやってるんなら……そう簡単に幕は下ろさない)


 まるでチキンレースのようにギリギリまで引き寄せ、選択の時に猶予を取る結人。


 しかし――奇妙なバランスで選択を踏みとどまっている結人の背中を押すような着信音が鳴り響く。


 ――最初の連絡から三十分、カルネからヒントが届いたのだ。

 届いたヒントは、一枚の写真。


 スマホに表示されたその画像が視界に入った瞬間――結人は絶望に目を見開き、そしてすぐに耐え難く瞼を閉じる。


 見ていられるものでは、なかった。


 スマホに表示された画像、それは――最初に送られてきた写真からさらに服を引き裂かれ、上半身はボロ布が蔦のように絡まっているだけで素肌が露わになっていて。そして、白い肌を汚すみたいに泥できたような色をした男達の腕が幾重も交差して体を這い回り、浸食される。


 それらに伴う不快感を堪えながら――頬に涙を滑らせる政宗が撮影されていた。


 恐怖に震えているであろう政宗の瞳――その中にはやはりカメラを向ける男達の一人が映っていて、手をオーケーサインにして滞りない撮影を愉快そうに示していた。

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