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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第五章 嵐の予感
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第十話「カルネのシナリオ」

「あれ? リリィさん、どこ行ったんだろう?」


 二人分のペットボトルを手にコンビニから出てきた結人はリリィの姿を探して周囲を見回していた。


 時間にして数分だったはずだが、待っているよう言ったはずのリリィがその場におらず不安感になる結人。


(もしかしてパレードの流れに飲まれてどこかへ行っちゃったのかな? でも、リリィさんなら流れから出て、跳んで戻ってきたりもできそうだけど……)


 探しに行きたいと感じる結人だが、アテもなく歩き回るのは愚策。リリィが戻ってくる可能性のあるこの場所から動くわけにはいかなかった。


 結人は買ってきた飲み物を喉に流し込み、深く息を吐く。


(せっかく面白いかと思って買ってきたのに……飲み干しちゃいそうだな)


 選んだのはトマトジュース。吸血鬼の恰好に合わせて選んだのだが、内容量が少なくあっという間に空になりそうだった。


 結人はスマホを取り出し、連絡がないか確認する。


(そりゃ連絡はないよな。確か魔法少女って変身前の持ち物は消えるから、リリィさんはスマホを扱えない。……まぁ、変身を解除すれば連絡できるんだろうけど)


 最近は無闇な変身と解除を避けているので政宗はスマホをチェックしない可能性が高かった。


 とはいえ一応、状況を伺うメッセージを送った結人。そのままスマホを眺めていると、表示されている今日の日付が目に飛び込んでくる。


 ――十月三十一日、月末。

 クラブとカルネが魔法少女の活動を再開する日。


(……まさか、クラブとカルネに何かされたとか、そんなんじゃないよな?)


 焦燥感に心をじりじりと炙られ、嫌な汗が滲む。


 無論、結人も今日が活動再開日だと意識していなかったわけではない。だが、メリッサと相談したとおり人気のある場所――それも、半端ではない数がいるこの場所で遊んでいたのだ。


(そ、そんなわけないだろ……違う、違うって! クラブとカルネがリリィさんの前に現れたとして……何かできるはずがないんだ!)


 いざクラブとカルネに追われれば人の群れへと入り込んで変身解除し、一般人のフリだってできる状況。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――クラブとカルネが思うままにできる状況にはならないはず。


 そう思うも、結人の中で妄想が次々と浮かび上がる――その時、鳴り響く着信音。


 政宗から「体調が悪いから今日は帰る」と短いメッセージが届いていた。


(パレードで人の群れに酔っちゃったのか? ……とりあえず、連絡ができるなら無事なんだよな)


 不安感は払拭しきれない――が、納得するしかない状況に置かれた結人は「気にするな。ゆっくり休めよ」とメッセージを返す。


 しかし――、


(政宗ってこんな事後報告みたいなことをするやつだったかな……?)


 モヤモヤした気持ちは残ったまま。結人は違和感を胸に帰宅した。


        ☆


「あなたの彼氏さん、心配してましたからちゃーんと連絡しておいてあげましたよ? 優しいですね、私って」


 政宗のスマホを片手に嫌味な笑みを浮かべるカルネ。


 場所は使われなくなってかなり経過したであろう廃工場。老朽化であちこちから日差しが差し込む建物の中は光を浴びて輝く埃が舞っていた。


 そんな場所で、脅しによって政宗は変身を解除させられていた。


 マジカロッドは政宗から数メートル離れた床に置かれていた。その気になれば回収できそうな……しかし、カルネとクラブに阻まれる距離。


「それにしてもあっさりと変身解除してくれましたね。……まぁ、彼氏さんで脅されたら当然ですか。さて、こうして正体を看破できたわけですが……本当に男の子だったとは」


「お前、男のくせに魔法少女やってるとかオカマかぁ? 気持ち悪ぃーなぁ」


 床に正座させられた政宗を見下ろし、害虫でも前にしたように表情を歪めるクラブ。身を刺すような言葉を受け、堪えるように政宗は目を閉じる。


 リリィは結人に危害を加えると脅され、変身の解除、そしてスマホとマジカロッドまで差し出していた。


 結人を守るため、言いなりになるしかなかったのだ。


 ここに来るまでは政宗は結人に危害を加えると語る二人の言葉をどこかハッタリだと思っていた。あくまで脅しだと受け止めていながら、「もし事実だったら」と思いここまでやってきた。


 しかし、この場所でクラブとカルネの脅しがただのハッタリではなかったと知り、政宗は彼女らの傀儡となるしかなくなったのだ。


 クラブとカルネの傍には明らかに柄の悪い――息をするように暴力を振るいそうな頭のネジが飛んだ男達が四人いた。


 汚い言葉遣いで語り、そして欲望を秘めた目で政宗を見つめ、しかしクラブの「待て」で大人しくしている番犬のような男達。


(もし……もしボクが二人に従わなかったら、結人くんはこの人達に?)


 魔法少女に対しては自分達が戦い、そして一般人にはこの四人をけしかける。


 それがクラブとカルネのやり口だったのだ――。


「あいつが彼氏ってことはお前ら男同士で付き合ってるってことだよなぁ? 引くわぁ。どっちもやべーやつじゃん。普通じゃねぇよ」


「……放っておいてよ。君なんかには……関係ないから!」


「あぁん!? 何だよ、その態度は。お前、自分の立場分かってんのかぁ?」


 理不尽に感情が高ぶるクラブに髪を引っ張られ、政宗は苦痛に表情を歪める。


「クラブ、やめておきなさい。それ以上やると魔法の国のルールに引っかかりますよ」


「…………分かったよ、カル姉ぇ。ったく、救われたな。オカマ野郎」


 母親に叱られた子供のように渋々従い、クラブは掴んでいた政宗の髪を離した。


 すると今度はカルネが政宗の方へ寄り、しゃがむと慈しむように彼女の顎に手を触れて自分の方へ視線を向けさせる。


「さて、私達はあなたと佐渡山くんへ謹慎に関しての復讐を敢行します。きっと逆恨みだと思うでしょう。しかし、関係ありません。ただ楽しみを行う理由になれば――私はそれでいいので」


 目を細め、愉悦に口元を彩り醜悪に語った。そして、カルネは立ち上がると探偵が悩むポーズを取って工場の隙間から差し込む光を見上げる。


「……今日はもう陽が暮れますね。ちょっと私のシナリオとは時間が合いませんし、一旦帰してあげましょう」


「え? 帰していいのか、カル姉ぇ?」


「今日は教育するのが目的です。それは完了したので大丈夫でしょう。ですから――」


 カルネは政宗を見下し、上品な笑みを浮かべる。


「明日の朝、一人でここへ来なさい。あなたが犠牲になれば誰も傷付きませんから。……分かりましたね?」


 選択肢のない質問に政宗は少し抗い――しかし、渋々首肯した。

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