第七話「リリィとのデート計画」
「結人くんが買い物って珍しくない? 出掛けた先で何か買ったりはあったけど、買い物を目的に誘われたのは初めてかも」
「そうかもな。俺、趣味もそんなにないから買い物にはあんま出掛けない……って、なんか言ってて虚しくなってきたぞ」
「あぁ! ごめん、ごめん!」
うなだれて落ち込む結人と、両手をせわしなく動かして狼狽する政宗。
十月十六日、土曜日――買い物の用事があったため政宗を呼び出し、結人はショッピングモールへとやってきた。
店内は秋の紅葉を意識した飾りつけでオータムフェアと題しているが、服屋は揃って季節を先取り。冬に備えて落ち着いた色合いのコートが並び、秋と冬の入り混じった店内は季節の変わり目を強く感じさせた。
「もしかして服を買いに来たの? もう冬物が並んでるもんね」
「服を見るのもいいんだが、今日はそのつもりでは来てないんだよな」
「そうなの? じゃあ何だろ……アニメのグッズとかはここじゃ買えないよね?」
「買えないな。ちなみに、そういったグッズを扱う店で買い物する勇気も俺にはないぞ」
「そ、そうなんだ。結人くん、何でそんなところで勇気が出ないの……?」
臆することなく「好き」と言ったり、自分の盾になってくれた彼氏の臆病さに困惑する政宗。
「ちなみに否定したけど、もしかしたら今から買うものは衣服に分類されるかも知れない」
「え? じゃあどうして一回否定したの?」
「買うものによっては服じゃないからかな。ほら、あそこに並んでるのが目的だよ」
結人が指差した先――そこは雑貨屋であり、店頭には十月末にこの街でもイベントが行われるハロウィンの仮装グッズが陳列されていた。
「ハロウィンの衣装を買いに来たんだ! 結人くん、ハロウィンのイベントに参加するの?」
「もちろん。そのための買い物だからな」
「そうなんだ、楽しそうだね! 僕も何か仮装して参加してみようかな?」
人差し指で下唇に触れ、斜め上を見る政宗。一方、その言葉を待ってましたとばかりに結人はしたり顔。
「いや、政宗は仮装する必要はないんだ。これは――この前言ってたリリィさんとのデートになるんだから」
「え、リリィとのデートって……あ、なるほど! ハロウィンなら魔法少女の格好でも目立たず歩けるんだ!」
「そうだ。リリィさんと街を歩ける絶好の機会だろ?」
「確かに! そんな方法があったなんてビックリだよ!」
ギュッと目を閉じて笑う政宗を見て、結人は密かにガッツポーズ。
結人がずっと憧れてきたリリィとのデートができるだけでなく、政宗としても女の子の恰好で一日を楽しめる。二人が得をするアイデアだった。
「それにしてもよく思いついたね。木を隠すなら森の中って感じ」
「実はきっかけがあったんだよ。夏休みにこのショッピングモールでヒーローショーがあってさ」
「ん? ……う、うん。続けて」
「怪人が司会のお姉さんを襲ってるところに一人の魔法少女が乱入してきたんだけど、ショーに馴染んでてさ。あれを見て周囲の人間も非現実的な恰好をしてたら紛れるのかなって」
「へぇ、そうなんだぁ…………――って、それボクじゃない!」
政宗はムッとした表情で結人を見る。
「なんと! あの魔法少女はリリィさんだったのか!」
「分かってて言ってるでしょ! もう、結人くんのイジワル! あれ、結構気にしてるんだからねっ!」
涙目になってポカポカと両手で結人の体を叩く政宗。
(……おお! なんだこのクソ雑魚パンチ。めっちゃ可愛い!)
政宗の気が済むまで攻撃を受け続け、その間ずっと結人は嬉しそうにしていた。
さて、黒歴史に触れられて怒り爆発な政宗も少しずつ落ち着きを取り戻し、二人は雑貨屋で商品を吟味していく。
「結人くんは何の仮装をするつもりなの?」
「考えてるのは吸血鬼かなぁ。ゾンビって選択肢もあるけど、あの腐った感じのメイクをするのは俺の技術じゃ無理だ」
「ゾンビの仮装は結構見るイメージだけど、確かに難しそうだよね。吸血鬼ならマントとか牙を用意する感じでいいのかな?」
「だろうな。しかし、吸血鬼ってパッと見た感じは普通の人間だから特徴を出すのは難しそうだな」
結人はスマホで『吸血鬼 ハロウィン』で検索して表示された画像を見ながら、必要なものを探していく。
商品を手にとっては見せ合い、意見を交わしていく二人。時には関係ない品を持ってきてボケるなどの冗談も交えながら、少しずつ結人が仮装する吸血鬼像が浮かび上がってきた。
そして選んだ商品レジへ持っていき、結人は清算を済ませた。
「安く済んだのか、高かったのか……こういうのやったことないから相場が分からないな」
「でも楽しみだよね! ハロウィンなんて参加するの初めてだよ!」
「それは俺もなんだよなぁ。何せ……いや、この先は言わないでおくか」
だって友達がいなかったからと続くのだし――と、心の中で続け、結人は政宗と顔を見合わせて笑う。
こういったやり取りもどこかお約束と化し、一人なら未経験のままだったことに二人で思い出のスタンプを押していく。その感覚が楽しくて、二人は今から気分が高揚していた。
「それにしても結人くんが吸血鬼かぁ……イベント中、他の女の子を襲っちゃ駄目だからね!」
「襲うわけないよ。もし俺が血を吸うなら政宗に噛みつくだろうし」
「え、えぇー!? ぼ、ボクの血を!? そんな……美味しくないよぉ」
「いやいや、政宗のだったら俺はいくらでも飲めると思うけどなぁ」
ちょっと気持ち悪いバカップルトークを交わしつつ、買い物を終えた結人と政宗はショッピングモールを歩き、目的もなく二人の時間を過ごしていく。
二人の気持ちはハロウィンへと向けられてた。
来るべき十月三十一日に――。