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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第五章 嵐の予感
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第三話「月の下、未来に想いを馳せて」

「今日も結局、政宗がメイドやってる時間はずっと喫茶店にいたわね。あんまり粘着質だと嫌われるんじゃない?」


「ね、ね、粘着質ちゃうわ! ……あれだ、敵察調査のため入り浸っていたに過ぎない」


「私達のクラスは掲示物の展示よ? 隣のクラスを調査する意味なんてないじゃない」


「むぅ……。でもまぁ、ウチのクラスがやる気なかったおかげでメイド喫茶に入り浸れたのは感謝だな」


 十月十日――文化祭最終日、政宗のメイド業務開始から終了まで粘った結人……と、瑠璃。そこに自由行動が可能となった政宗と修司が加わり、四人で文化祭を回っていた。


「正直、滞在時間を制限してるわけじゃないから何も言わなかったけど、アレはマナー違反だよ。店の回転率が悪くなるし」


「修司の言い分は確かに正しい。だがな、政宗メイドは今日で最後。余すことなく見届けたい心理は分かってほしい」


「あらぁ? そんな心配はいらないんじゃない~? もしどうしてもメイド服姿が見たくなったら可愛い可愛い彼女さんに着てもらえばいいじゃない。プライベートで~?」


「る、瑠璃ちゃん、何言ってるの! まぁ、結人くんがどうしてもって言うなら……着てもいいけど」


 修司は呆れ、結人は必死に弁解、瑠璃はニヤニヤと笑み、政宗は体をもじらせる。四人がそれぞれの反応を見せながら文化祭を歩き、最終日を楽しむべく模擬店を眺めていた。


「さっきずっとメイド喫茶で飲み食いしてたから、飲食系はちょっと要らないなぁ」


「確かに佐渡山くん、すごい枚数のパンケーキを食べてたしね。そりゃあお腹には何も入らないでしょう」


「僕も特別お腹が空いている感じはないね。何か体験型の模擬店に絞って考えてみるべきなのかな?」


「体験型……? 修司くんの言葉じゃあ漠然としてるけど、それって結局アレだよね?」


 気まずそうな表情を浮かべ、ある教室を指差す政宗。そのクラスが出展しているのは――お化け屋敷だった。


 お化け屋敷の前で立ち止まる四人。入り口から望むのはひたすらな暗闇。そして、中からはかなり景気よい悲鳴が聞こえていた。


「政宗、その反応だとこういうの苦手なのか?」


「う、うん……怖いのはあんまり得意じゃないかなぁ」


「あんた、夜の街を跳び回ってるのに何で怖いのよ」


「政宗くん、夜遊びしてるのかい? ちょっと関心しないね」


 さらりと魔法少女のことを口にし「あっ」と呟く瑠璃、そして懐疑的な表情の修司。そんな二人を他所に、結人は政宗の耳元で手を添えて囁く。


「怖いかも知れないけど、暗いってのはなかなか好都合じゃないか?」


「……あ、確かにね! それに結人くんと一緒なら怖くないかも」


 暗かった表情をパァっと明るくし、穏やかに笑む政宗。


 その表情で同意を確認した結人は入り口に立っている受付の生徒に話しかけ、お化け屋敷の中へ。暗闇に包まれた瞬間を見計らって結人は政宗の手を握り、


「それじゃあ、俺達ちょっと探検してくるから」


 そそくさとお化け屋敷の中へ。瑠璃の「あ、待ちなさいよ」という言葉を背で受けながら暗闇を進んでいく。


 暗闇に仄かな恐怖心を抱く政宗が握る手の力を強め、結人は狙い通りの展開に軽い興奮状態となる。


(そうそう、これこれ! 女の子とお化け屋敷……俺の夢がまた一つ叶った!)


 暗闇に紛れ、公の場にて手を繋ぐことに成功した二人。秘匿としているため、どこか背徳的なものを伴い感情が燃え上がっていた。


 ベタなシチュエーションをわざと演じるみたい政宗が怖がって結人に寄りかかる。決して大っぴらには付き合えないが――だからこその楽しみだとも言えた。


 ちなみに二人を追って修司と瑠璃もお化け屋敷へと身を投じた。


 四人の中で一番怖がって悲鳴を上げたのは、瑠璃だった。


        ○


「すごいね、キャンプファイヤー。みんながこうして輪になってるのを傍から見られるのはボク達だけって、ちょっと特別感あっていいかも」


 学校の屋上、フェンス越しにキャンプファイヤーの炎を見つめてリリィが言った。


 後夜祭――文化祭を終えて日が暮れたこの時間帯になると屋上は閉鎖され、生徒は皆グラウンドにてフォークダンスに興じる。


 そんな輪から外れ、政宗はリリィに変身して結人を抱えて屋上まで上がっていた。


「……やっぱり、みんなとあっちで踊れた方がよかったよな?」


「そうだね、ちょっとそういう気持ちはあるかも。……でもね、踊るにしても結人くんと一緒じゃなきゃ嫌だし、それが難しいならここでひっそりと二人っきりなのも悪くないよね」


 リリィはギュッと目を閉じた笑みを向け、結人の表情もつられて穏やかになる。


「そう言ってもらえたら助かるよ。……でも、来年の今頃はどうしてるんだろうな」


「ボクが願いを叶えたらって話をしてる?」


「うん。……その、制服とか色々どうなるのかなって」


「それね……正直、ボクもどうしたらいいのか分からないんだ。もしかしたら、卒業までは男子の制服で過ごさなきゃいけないかも知れないね」


 えへへ、と後ろ頭を掻いて笑みでごまかすリリィに、結人は反応に困った表情。


(願いが叶って女の子になったら、男子の制服を数年耐えるくらいわけないのか? そうじゃないよな。それに――)


 結人はリリィへ問いかけようとして――しかし、心の中に留める。


(女の子の体になったこと、そして今日まで悩んできたこと――親には言わないのかな?)


 一番告白しなければならず、しかし最も秘密を明かすリスクを感じる相手。願いが叶えば尚更、隠すのは難しくなるかも知れない。


 もし、そんな時が来たとしたら自分が支えに――結人は心の中でひっそりと決心するのだった。


「願いが叶ったらリリィさんとはお別れになるんだよな。その日もそれほど遠くないのかな?」


「うん。そしたら魔法少女じゃなくなる……。この姿は写真にも写らないから、記憶にしか残せないね」


「なら、何とか印象的な思い出に残せないのかな……?」


 結人は腕組みをして考え込む。


(そういえば毎晩のようにリリィさんと一緒にいるから気付かないけど、デートもできないんだよな。服装のせいで難しいし……)


 ならば毎晩のマナ回収が思い出、と納得しかけるのだが――ふと、結人は夏休みのある光景を思い出して閃く。


 古典的に手をポンと叩き、そしてリリィの両肩を掴み、向かい合って語る。


「ちゃんと思い出を作ろう。俺と政宗が付き合ったのはリリィさんがきっかけだ。リリィさんとも、ちゃんと!」


「え! あ、うん……でも、どうやって?」


 真正面から見つめられ、恥ずかしそうに目線を泳がせて問うリリィ。その反応を待っていた結人はしたり顔を浮かべて語る。


「ピッタリなイベントがあるんだよ。そこでリリィさんとデートしたい」


「ボクがこの姿で!? できるのかな……?」


「あぁ、可能なんだよ。とりあえず、色々と調べてまた詳細は伝える」


「そっか……この恰好でも結人くんとデートできるんだ。よく分からないけど……楽しみだねっ!」


 嬉しそうに笑むリリィに、結人は釣られて同じ表情になる。


 付き合い始めてから――いや、お互いを意識し始めてからだろうか。二人はもう一方が浮かべる表情によく釣られる。


 喜怒哀楽を共有し、似た者同士となった二人。付き合って一か月と少し――恋人という関係も板についてきた感じだった。


 互いに微笑み合い、そしてグラウンドのキャンプファイヤーへと視線を落とす。


「文化祭も終わったね。このまま冬になっちゃうのかな?」


「そうかもな。でも、文化祭は終わったけど――後夜祭はまだ続くぞ?」


 結人はそう語るとリリィに体ごと向け、そして手を差し出す。そして、不思議そうに見つめ返すリリィに申し出る。


「せっかくだし、こんな場所で悪いけど――よかったら俺と踊らないか?」


「お、踊るの……!?」


 不意打ちな申し出に目を見開くリリィ。しかし、やがて表情は穏やかな笑みに変わり、


「そうだね、踊ろっか。でも慣れてないから……しっかりエスコートしてよね、結人くん」


 嬉しそうに目を細めてリリィは結人の手を取った。


 ぎこちなく、しかし楽しげな笑みを湛えて、遠くから聞こえる音楽に合わせて踊り始める。


 相手の動きに合わせてバランスを取り、まるで互いが二つの体を動かすようにして……月明かりの下、誰もいない薄暗い屋上で軽やかにステップを踏む。


 文化祭が終わる――ささやかな思い出をピリオドに、ゆっくりと幕を降ろして。

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