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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第二十二話「魔法少女たちの夏休み」

「なるほどね……政宗くんへ告白した子に秘密を明かした。そして拒絶された、か……。私だけにリリィの正体を明かせなかった理由は分かったわ。佐渡山くん達と違って、私はその子と同じく同性の友達だものね」


 砂浜の上、二人は砂粒がくっつくのも厭わず大の字で並んで横になっていた。


 ひたすらに殴り合って、疲れた二人。魔法少女の防御能力もあって体には怪我一つないが、受けた痛みに体が疲労を感じて動けなくなっていた。


「結局、私が好きになった藤堂政宗って男の子はこの世にはいなかったわけね」


「ごめんね。もっと早く言えたらよかったんだけど……」


「その続きはもう分かってるからいいわよ。それにね、私は身を焦がすほど政宗くんに恋をしてたわけじゃないから、案外すんなりと納得できるってものよ」


 星空へ視線を預けるローズの瞳は揺れていた。瞳の中で流星が一閃を描いて消える。空に浮かんでいるのは、閉じた瞳のような月だった。


「……でも、初めて好意を向けられたと思ったから嬉しかったわ。まるで宝物みたいでね。好きになりそうだった。そして、気持ちが通い合うんじゃないかって想像したら……すっごく幸せだった」


「その気持ちは分かるかな。……ボクも結人くんから告白された時、そんな風に思った。今でも大事な宝物なんだよね」


「そういえばあんた、佐渡山くんに告白の返事をしてないのよね? どうするつもりなのよ?」


 ドキッとして強張った表情でリリィが視線を滑らせると、ローズは意地悪な笑みで返しを待っていた。


 リリィはゆっくりと長く息を吐き出し、自分の気持ちを考えてみる。


(ボクがどれだけ結人くんを好きになったとして、素直になっちゃいけないと思ってた。ボクは……誰かを好きになっちゃいけない人間だから)


 ずっと誰かを好きにならないよう人との関わりを断っていた彼女は、自分を受け入れてくれる結人に対する気持ちにも無意識でブレーキをかけていた。


 今の自分は男の体だから、結人が望むものじゃない。

 いつか魔法で女の子になれたら――その時、素直になればいいと。


 でも、その思考から政宗は少しずつ歩き出し、価値観は今日大きく形を変わった。


(結人くんは今のボク――藤堂政宗を好きになれそうだって言ってくれた。以前のボクなら躊躇ったと思うけど、今だったら――彼を信じて委ねられる気がする)


 そう考えると抑圧していた気持ちが溢れてくるようで。今日まで何度も心奪われた結人という存在への想いがこみ上げる。


 だからこそ、今のリリィは素直に言えた。


「ローズちゃんに秘密を明かしたみたいに、ボクの気持ちだって結人くんに伝えるべきなのかもね」


 穏やかな笑みを浮かべて、そっと語ったリリィ。先ほどからニヤニヤとしていたローズはさらに笑みを深める。


「あらあら~、つまり、佐渡山くんが好きだって認めるのね?」


「え、えぇ――!? 何でそうなるの? ボク、一言も言ってないよ!?」


「言ってるようなもんじゃない。告白するとしたらこの夏休みの間かしら? 何か最高のシチュエーションがあるといいわね」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 勝手に話を進めないでってばぁ!」


 慌てた口調で遮ってくるリリィの言葉に、楽しげな表情を浮かべるローズ。彼女は一しきり笑い、そして深く息を吐くと「それにしてもすごいわね」と言った。


「佐渡山くんってきっと、リリィと政宗くんの両方を好きなんでしょ? 政宗くんが女の子だってのは分かったけど、事実として体はまだ男の子。でも――佐渡山くんは今の政宗くんがいいんだ?」


「そういう風に言ってくれた。最初は魔法少女のボクしか知らない結人くんが、リリィと同じくらいボクを好きになれそうって……そう言ってくれたんだ」


「そうなの? 二人分好きになってもらえて二倍美味しいわね?」


「そ、そんな解釈でいいのかなー!?」


「いいに決まってるわよ。何だか凄い話よ……普通に誰かから想いを寄せられるよりロマンチックだと私は思うわ。そりゃあ、宝物よね」


「そんな風には考えもしなかったよ……」


 政宗にとって一時期、リリィが結人に好かれているのは嫉妬すべきことで。マジカル☆リリィを自分と切り離して考えていた。


 そこから結人は男の子の肉体、その檻の中で閉じ込められた政宗をも愛し始めた。


 それはまるで自分の秘密を守るべく重ねてきた外殻、その全てを――数多の障害を越えて自分へ手を差し伸べてくれているようで。


 政宗はその事実を思うだけで胸がいっぱいになる。


「実際のところ、どうなのよ? あんたにとって佐渡山くんは?」


「ボクにとっての結人くんは……檻に捕えられた自分を救い出してくれるヒーローって感じ。結人くんの前なら――ボクもヒロインになれる気がするんだ。だから――」


 その続きはまだ言葉にしなかった。心地のよい胸の高鳴りを聞きながら、リリィは瞬きも忘れて星空に視線を預ける。


 恋する乙女の表情を浮かべるリリィ。ローズは呆れて笑み、そして語る。


「まぁ、いざ告白するとなれば私は応援するわよ」


「……いいの? ボク、結果としてはローズちゃんの気持ちを」


「そんなのどうだっていいの。自分が恋に破れようと、笑って友達の恋路は応援する。親友って――そういうものだと私は思ってるのよ」


 リリィは目を見開いてローズの方を見る。


 流石に恥ずかしかったのかローズは顔を赤くして、リリィから視線を逸らし――しかし、何かと戦って打ち勝ったのか、照れた笑みで顔を見合わせる。


 リリィとローズ、政宗と瑠璃。


 ぶつけ合い、壊し、傷付け合って――ぎこちなくバカとしか言いようがない方法で分かり合い、それでも切れなかった縁は以前より固く結ばれていた。


       ☆★


 朝日が昇るまで語り合った二人。しばらく二人きりになるシーンがなかったため、反動なのか話題は尽きなかった。


 瑠璃にとっては初めてできた同性の友達となり、ガールズトークに花が咲いたのだ。


 そして、水面をキラキラと宝石のように輝かせる日の出を眺めた後、二人は変身を解き、政宗と瑠璃の姿で徹夜の疲れに体をふらつかせながら電車に乗った。


 まだ乗客のいない電車の中、長椅子の中央を陣取って互いに身を寄せ合い眠る二人。


 電車は眩い朝日を浴びながら、目覚めかけの景色を駆け抜ける。


 ガタン、ゴトンと緩やかに揺れながら――。

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