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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第二十話「夏の夜に旅へ出よう」

「何か話があるんだっけ? ……丁度いいわ。私もあんたと話したいと思ってたし」


 夜八時――待ち合わせ場所として指定した駅の屋根でリリィはローズと一週間ぶりの再会を果たしていた。


 ローズはリリィへ顔を向けることはなく駅のホームを見下ろしたまま。リリィはそんなローズの横顔を見つめ、浮かびそうになる不安を掻き消して口を開く。


「一週間前、ローズちゃんに話せなかったこと……答えられなかったことを伝えたいと思ってる」


 少し震えたリリィの言葉を受け、ローズは視線だけを彼女へ滑らせる。


「どういう心境の変化なのかしら? あの時は何度問いかけても答えられないとしか言わなかったのに」


「あの時は本当に答えられなかった。……でも今は違う。どうして心境の変化が起きたのか。それもまとめて話すよ」


「そう。でも、今この場所であんたの話を聞くつもりはないのよ」


「――え? それってどういう」


 疑問を口にしかけたリリィの言葉を遮るように――駅のホームからアナウンスが鳴り響く。


 そして、暗闇に閉ざされた遠くの景色から駅のホームへ至る線路を辿り、電車がライトで夜の闇を切り裂きながらこちらへやってきた。


 ホームへと入ってきた電車はゆっくりと停車、大きく息を吐き出して到着。電車を待っていた人々の喧騒が大きくなる。乗り込む者と降りる人間が譲り合いながらすれ違う光景が、高い場所からはよく見えた。


 電車が乗客を車内に収め、扉を閉める瞬間――、


「移動するわよ――乗りなさい」


 その言葉を置き去りにし、ローズは屋根の上から飛び降りた。


「え、えぇ!? あの電車に乗ればいいの――!?」


 戸惑うリリィ。仕方なくローズに遅れて飛び降り、二人は電車の上に着地。足だけを空に放り出す形で少しの間を開けて座り、二人を屋根に乗せた電車はゆっくりと走り出した。


 揺れる電車はあっという間に加速し、街を抜け出す。そんな最中に会話はなかった。


(何だか気まずいよ……。仕方ないのかも知れないけど、この電車の辿り着く先まで一言も会話はないのかな?)


 緊張した空気に高鳴る鼓動みたく――ガタン、ゴトンと音を立てて電車は走る。今見た景色は過去のものとなり、風景は瞬く間に流れていく。


 ローズは何も語らず空に散らばる星屑に視線を預けており、その横顔をリリィは見つめていた。


(どこまで行くんだろう……? そして、どこに連れて行かれるんだろう?)


 月明かりが青白く二人の姿を照らし、線路に沿って張られたケーブルの影がゆらゆらと揺れる。電車は景色を追い越し、街は遠く向こう。灯りが風景から失われていき、増えてきた木々は影を纏って闇に潜む。


 不気味な風景の中を走る中でリリィは不安を胸に抱いた。何の言葉もない静寂を、車輪の転がる重厚な音が埋める。


 ガタン、ゴトン、と。電車は揺れながら遠く――遠くへと走っていき、リリィはふと気付く。


(そういえばこの夏休み……一度も遠出してないんだっけ)


 そう考えれば不思議なもので、リリィの気持ちは少し高揚する。


 どこまでも続く線路。

 走り行く電車は二人を乗せて、夜を行く。


 ――ガタン、ゴトンと走っていく。


        ☆


「夏といえば海、なんて佐渡山くんは言ったけど……まさかこんな形で来るとは思わなかったわ」


「……ここに来るつもりであの電車に乗ったの?」


「ええ、そうよ。電車って随分とややこしくてどれがどこに行くのか分からなかったけど、ちゃんと着いたみたいね」


 静かに波が寄せては返し、沖では穏やかに揺れる水面が月明かりを湛える。到着した駅からすぐの場所に広がる砂浜にて、リリィとローズは夜の海を見つめ淡々と言葉を交わしていた。


(ちゃんと着いたみたいって……辿り着ける確証はなかったのかな?)


 訳の分からない場所に連れて行かれる可能性もあったと知り、背筋が凍る思いのリリィ。


「それで……どうしてこの場所にボクを連れてきたの? 何か理由があるはずだよね?」


「ええ、そうよ。ちょっとベタだけど……お約束に従った感じなのかしら」


 ローズはそう言ってリリィの方へ体を向ける。リリィも呼応して同じようにしたため、二人は夜の海をバックに向き合う形となった。


 月明かりに暴かれたローズの表情は真剣なもので、リリィは緊張を覚える。


「私ね、ずっと素直になれず生きてきたから……やっぱり自分の想いを言葉だけじゃ語れないの。だから、もっとダイレクトにぶつかるしかないって決心して……ここにあんたを連れてきたの」


「そうなんだ……――って、え!? 言葉だけじゃ語れないって、何をするつもりなの?」


「決まってるじゃない、この砂浜で殴り合うのよ」


 両手を腰に当て、あっけらかんと語ってフッと息を吐いたローズ。突然、予想だにしないことを言われたリリィは、


「え、えぇ――――!? ろ、ローズちゃん、本気なの!?」


 思わず大声を出して驚く。だが、ローズは真面目な表情を崩さなかった。


「分かり合うには拳を交えるのが一番だと本から学んだわ」


「ローズちゃん、どんな本から勉強してるのさ!?」


「何だっていいわよ。魔法少女は殴られたって痛いだけで傷つかない。お互いの想いを口先だけでぶつけて分かり合おうなんて生ぬるいのよ。響かないわ。だから私にぶつけてきなさいよ。こっちも容赦しないから」


 ローズは一切の冗談を感じさせないトーンで語り、そして――リリィを前にファイティングポーズをとった。


 一連の滅茶苦茶な流れにリリィは今までローズと仲違いしていたのが、テレビ番組のドッキリ企画ではないのかとさえ思ってしまう。しかし――、


(何だろう……? ボク、今自分の中にあるものを解決する形……これが正しいんだって思ってる。ずっと抱えてきた秘密や苦しみ、そういうものをもっと子供みたいに喚いて、暴れて、ぶつけたいって思ってた)


 リリィは――藤堂政宗は、怒りに任せて暴力に訴えるようなタイプではない。


 どちらかといえば自分の気持ちを仕舞い込み、半開きのトランクに座って無理矢理閉じるような子だ。しかし――いや、だからこそ。


 リリィは抑圧してきた感情の放流に素直な欲求を示した。暗にそうしたいと願っていた自分と向き合って。


 リリィはローズの提案にゆっくりと……しかし、確かな納得を抱いて首肯した。



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