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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第十九話「恐怖心の特効薬」

「ボクね、瑠璃ちゃんに自分の秘密を伝えてみようと思うんだ」


 意を決して語った政宗の言葉はタイミングが悪く、結人はフォームを崩して暴投する結果となってしまった。意図しない方向へ進んだボールはレーンから外れてガーター。


「こらこら、今まさに投球するタイミングで何を言うんだ」


「あ、ごめん。言わなきゃと思ってて、ついさっき気持ちが整ったから」


 肩を落として嘆息する結人。政宗は申し訳なさそうに舌をペロッと出した。


 八月四日――結人を誘ってボウリング場へやってきた政宗の目的は自分の決心を聞いてもらうことだった。


 普段ボウリングなどしない政宗だったが、無性に体を動かしたい気持ちになりこの場所を選んだ。


「それにしてもよく決心したもんだな。何かきっかけでもあったのか?」


「昨日ファミレスに行った時、修司くんにちょっと後押しされちゃってさ」


「修司に? なんて後押しされたんだよ?」


「バカになったらいいんじゃない、みたいなこと言われた。要は当たって砕けろだよね」


 結人はどこかで聞いた考え方が政宗の口から出てきて頭を抱える。


「回り回ってそれが政宗の背中を押すとはな……。まぁ、お前の力になったのならいいと思うけどさ」


 呆れた口調で語った結人。政宗は自分の番を迎えてボールを持ち上げた。


 重さが本人に合っていないのか両手でぶら下げるように運び、レーンに向き合うとぎこちなく放り投げる。ミミズが這ったような軌道を描いてレーンから脱落、ガーターとなった。


「おいおい、政宗。大丈夫か? さっきからずっとガーター連続してるじゃん」


「結人くんもさっきはガーターだったじゃない」


「あ、あれは政宗が突然大事な話をするからだろ! ……っていうか、俺にもタイミングを計らなきゃ言えないんだとしたら、ちょっと不安だぞ?」


「決心したとはいえ楽観的に捉えているわけじゃないからね」


 困ったように笑い、頬を掻きながら政宗は第二投へと向かう。その背を見つめながら――、


(……まぁ、どれだけ決心しようと不安を抱くのは当然だよな。でも、過去の失敗を踏まえてそれでも打ち明ける気になったんなら頑張って欲しい)


 一歩踏み出すことを決意した背中を見つめ、結人は穏やかに笑む。


 政宗はボールを投じる。やはりボールの重さが合っていないようでふらつきながらレーン上へこぼすように投じたため、当然のごとくガーター。


 しかし、何一つ得点の入らない結果を受けて、投球から戻ってきた政宗は楽しそうに笑っていた。


        ○


「結人くん、ちょっと時間見てくれない? この姿だとスマホ見られないからさ」


「時間? えーっと……七時四十五分だな。もう一件くらい回収して終わるか?」


「ううん。今日はもう終わろうかな。実は八時からローズちゃんと会う約束になってるんだよね」


 とあるビルの屋上、瞬く星のような夜景が望める場所にてマナ回収の小休止を行っていた二人はそのまま解散の流れとなっていた。


 ボウリング場でロクにスコアも出ないながらも楽しんだ二人は夕暮れからこの時間までマナ回収を行っていたのだ。


「早速、ローズに打ち明けるってわけか。どこで待ち合わせしてるんだ?」


「駅だよ。……って言っても、駅前とかじゃなくて屋根の上だけどね」


「はは、魔法少女らしい集合場所だな。ってことは俺は駅から電車で帰ったほうがいいのかな?」


「……申し訳ないけど、それでお願いしていいかな? 本当なら家まで送り届けたいんだけど」


「別に構わないよ。それより――」


 結人はそこで言葉を切り、スマホで瑠璃とのメッセージ履歴を確認する。


「リリィさんには返事して、俺の方は全スルーかよ。……まぁ、仕方ないんだろうけど」


 一週間前、リリィの正体が瑠璃に露見した時に送ったメッセージや電話に返事をもらっておらず、結人は少し拗ねた口調で言った。


「まぁまぁ、結人くん。ボクだって会いたいって連絡したら駅の屋根と時間だけを返されて、和気藹々と会話したわけじゃないから」


「そうなのか。……まぁ、無事に仲直りできた後は既読スルーをそれなりにいじってこの件を片付けるとするか」


「駄目だよ、そんな風にいじったりしたら。瑠璃ちゃん、きっと怒るよ?」


「大丈夫だよ、アイツの怒りは芸風みたいなもんだから。どうせ『うるさいわねぇ! 返事なかったくらいでうだうだ言ってんじゃないわよ!』とか言ってくるぞ」


「あはは、そうだね。……そうなったら、嬉しいな」


 リリィは寂しそうに笑み、結人はその胸中を自分の知る感覚と重ねた。


 時間が少しずつ瑠璃との再会へと近づく中で――自分に何度も言い聞かせた言葉が効かない薬であったことに気付き、疼き始めているのだろうと。


 リリィの手がわずかに震える。


(きっと砂嵐のテレビが断続的に映像を映すみたいに、過去のあの光景がフラッシュバックしてるんだろうな)


 どれだけ確信があったって、確かめるまで真実は分からない。そして、分からないからこそ怖いのだと結人も知っている。


 だから――結人は震えるリリィの手を引き、その体をギュッと抱き寄せた。


 柔らかい体、ふわりと鼻腔をくすぐる女の子の匂い、彼女の中にある不安ごと一切を抱きしめて――結人は耳元で囁く。


「大丈夫だ、高嶺なら受け入れてくれる。それにもし何かあったら電話してくればいい。また迎えに来る。話も聞いてやる。だから――頑張れよ」


 突然のことで目を見開き、現状についていけないリリィ。


 だが、身をギュッと締め付ける結人の力強さに安心して目を閉じ、彼女もまた彼の身を抱きしめて耳元で「ありがとう」と言った。


        ○


(俺はまたなんて大胆なことを……衝動的に動いてしまうクセ、直したほうがいいんじゃなかろうか)


 夜八時を少し過ぎた頃。結人は電車内で席に腰を下ろし、顔を手で押さえていた。自分の行動を思い返して爆発しそうになっていたのだ。


 恥ずかしいセリフを口にすることは躊躇いがなくなってきた結人だが、体が接することに耐性はない。


(ああいう大胆なことをして拒否されたらどうするつもりだったんだろう。俺達、付き合ってもないのに……)


 踏み切った自分が恐ろしくてあわあわとする結人。とはいえ――、


(今日まで二回もギュッとしてしまった。拒否されてない気はする。なら、少なくとも嫌じゃないのかな? 正直あの感覚、今になって思い返すと……)


 想いを寄せる女の子の体、その感覚を思い返すだけで鼓動が高鳴る。好きな気持ちが何倍にも膨らみ、胸の奥がきゅうっとなる。恋をしていると強く自覚してしまう。


(もうリリィさんと政宗、二人へ向ける気持ちに差異なんて感じない。なら、俺はもう……?)

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