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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第十五話「一人じゃないから」

「ボクね、一生友達ができないんじゃないかって思ってたんだよ? 誰とも関われない人生を生きていくんだって……半ば納得しかけてたんだもん」


 穏やかな表情を浮かべて政宗は思い出しながら言った。


 あれから――結人と政宗は抱き合う状況が恥ずかしくなり、反発するように体を離し、顔を真っ赤に背を向け合った。


 そんな恥ずかしさも落ち着いたところで結人は疲れたであろう政宗を思って眠るように促し、今に至る。


 政宗にベッドを貸し、結人はすぐ側の床に布団を敷いて身を横たえる。そして高低差のある二人は見つめ合い、結人はすがるように伸ばす政宗の手を取った。


 部屋の電気は消され、光源は窓から差し込む月明かりのみ。逆光を帯びて影を纏う政宗の輪郭は白く光り、結人の瞳には青白い月光が宿っていた。


 虫の鳴き声が僅かに聞こえる静寂の中、政宗はまだ眠気を感じないのか語る口を止めない。


「女の子の友達を作ったらまたあの子みたいに傷付けることになるかも知れない。そして、男の子と仲良くなったら……叶わない恋をしちゃうかも知れないでしょ」


「……そんなの悲しすぎるだろ。孤独で生きていかなきゃいけないって、政宗はずっとそんな風に思ってたのか?」


「うん。ボクは誰も好きになっちゃいけない人生を歩むんだって……そう思ってた。でも、メリッサに出会って……そして結人くんと知り合って少しずつ変わり始めたんだよ」


 政宗が語った悲しい過去、与えられた運命。それらを思い出として淡々と語っていけるのは、政宗がそういった一切にピリオドを打ったからだった。


 瑠璃や修司、そして結人――誰かと関わり、絶望に満ちた人生とは違う道へと躍り出た。


 ずっと自分の中に隠してきた秘密――性同一性障害は初めての告白を失敗で終え、二度と誰にも打ち明けられない埋葬すべき真実となるところだった。


 でも、結人と出会い――すべては変わった。

 もし恋に落ちても受け入れてくれる相手と出会えた。


 だからこそ政宗は過去を語ることができた。


 自分の傷口まで結人に晒すことができた政宗は今――ずっと超えられなかった一線も越えられるのかも知れない。もしかすると瑠璃とのすれ違いも――。


 結人は心の中でひたすら政宗に寄り添っていた。自分には分からない心情を必死に理解しようとして想像し、理解しようとした。


 そして、傷に触れたからこそ――穏やかに過去を語れる政宗とは対照的に、結人は瞳に涙を湛えて揺らす。


 月明かりに青白く輝く瞳、それは夜の水面を思わせた。


「なんで結人くんが泣きそうになってるのさ」


「別に泣いてないよ。泣いてない……ただ、目にゴミが入っただけだ」


 恥ずかしくなって顔を背ける結人。政宗は嬉しそうに笑む。


「そっか。……でも優しいね、結人くんは。ボクが抱えてきたものを必死に考えて、分かろうとしてくれる。泣いてくれる。……ボク、幸せだよ」


「……だから泣いてないって!」


「あはは、ごめん。そうだったね」


 政宗はくすくすと笑いながら、拗ねた口調で否定した結人を慈しむように見つめていた。

 

        ☆


(……あ、結人くん、寝ちゃったかな?)


 不貞腐れて顔を背けた結人は結んでいた手の力を不意に解いた。


 寝落ちた結人に少し残念な気持ちを抱きながらも、政宗はずっと自分の話に付き合ってくれた彼に語りきれないほど感謝していた。


 そして、政宗も眠りにつこうと天井を見上げ、目を閉じて今日を振り返りながら徐々に落ちていく意識の中で考える。


 やはり思うのは瑠璃のことだった。


(ローズちゃんと友達になろうとした時……正直言って不安だった。メリッサにそういう道もあるって示された時、やっぱりあの光景がフラッシュバックしたから)


 しかし、結人と一緒に瑠璃の悩みに向き合い、友達になった。


 結果として歴史は繰り返した。瑠璃も男の子として藤堂政宗を好きになり、叶わない想いを抱かせる結果になってしまった。


 でも――と、政宗は思う。


(あの時とは違う。ボクの秘密は結人くんと共有されて、彼と今も一緒にいる。なら、瑠璃ちゃんにも秘密を……? 前向きに考えられないかな)


 秘密を明かすと単純に決心することは難しい。しかし――政宗は自分の抱えているものを告白する、それを検討できるくらいには気持ちが変わっていた。


 きっと瑠璃は受け入れてくれる。

 自分の秘密を知った上で友達でいてくれる。


 それを分かった上で話せないのは、瑠璃が語ったように彼女を信用していないからなのか?


(……そうじゃない。ボクの臆病は瑠璃ちゃんへの不信じゃない。一度傷付いた経験が自分を守ろうとするから。でも、それって仕方ないことだよね。なら、それ自体を――瑠璃ちゃんに分かってもらわないと始まらない)


 どこでどのようにして、どんなタイミングで瑠璃と話せるのか――それとも機会は訪れないのか?


 それは分からないけれど――瑠璃もまた同じ空の下、自分を思っているのではないかと政宗は思った。出せない答えに抗いながら。


 なら、今はとりあえず眠ろう――そして、明日の自分に考えてもらおう。


 そう思い、政宗はゆっくりと沈むように眠りへと落ちた。


        ○


「ありがとね、泊めてくれて。借りた服は洗濯して今度返すよ」


「別に洗濯とかはよかったんだけどな……」


「いや、ただでさえ押しかけて迷惑かけたんだから、そこはきちんとしないと!」


 玄関にて、帰宅する政宗は見送る結人に強い口調で語った。


 翌日の昼下がり――佐渡山家で振る舞われた昼食を食べ終えた政宗は夜の間に母親が洗濯し乾燥させていた自分の服に袖を通して帰宅する。


 駅まで送っていこうとした結人だったが、適当な路地へ入りマジカル☆リリィになって帰宅すると言ったので玄関での見送りになった。


「あの時、結人くんが電話してくれなかったらどうなってたか分からないよ。元気出た。ちょっと瑠璃ちゃんの件、考えてみるね」


「そっか。元気出たならよかったけどさ、無理はするなよ? そんでもって何かあったら連絡してくれ。いつでも相談に乗るから」


「うん、ありがと。それじゃあ、帰るね」


 ギュッと目を閉じて嬉しそうに笑い、釣られて結人も口角が上がる。そして政宗は玄関から出て振り返って手を振り、扉を閉めた。


 その音を聞いて一段落といった感じで深く息を吐き、しかし理由はどうあれ政宗といられた時間の終わりに少し寂しさを覚える結人。


 政宗がいなくなり、昨日からこっそり抱いた疑問に向き合う。


(政宗はどれくらい気持ちが楽になったんだろう? そして――どのくらい抱えてたものを吐き出せたんだろう?)


 結人は昨日、政宗がずっと抱えてきた過去を受け止めた。


 それは事実だけれど、それで何かが解決したわけではない。政宗が話せて気持ちが楽になったとして、それで過去のトラウマを乗り越えた……そんな都合のいい話になったとは思えなかったのだ。


 しかし、結人はそれらをあまり深刻に考えていなかった。


(俺はとにかく政宗に優しくしたい、力になりたいって思ってる。重いものを抱えてたら持ってやりたいと思うけど……でも、その役目を俺だけがする必要もないのかな)

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