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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第十話「想いに溺れたら」

「そういえば佐渡山くんってリリィに告白とかしたのかしら?」


 告白の練習をするべく立ち上がった――と思いきや、急に話題が逸れたことに拍子抜け、ちょっと緊迫した気持ちが緩むリリィ。


 ゆっくりと息を吐き出し、リリィは少し迷って口を開く。


「告白されたよ。二回も」


「二回も!? 佐渡山くん、やるわね……大胆だわ。クラブとカルネの件もあるし、意外と度胸あるわよね」


「結人くん、なんかそういう告白にだんだん躊躇いがなくなってるんだって」


「そうなの? ……なんか恥ずかしいやつね。でも、二回も告白されて付き合ってないって……もしかして振ったのかしら?」


「いや、告白の返事を待ってもらってるだけだよ。告白された時には結人くんのこと、何も知らなかったから考えさせてって言ったの」


「へぇ、そうなのね。……で、どうするつもりなのよ?」


「どうするって……何が?」


「決まってるじゃない。佐渡山くんと付き合うのかって話よ」


 ローズの指摘するような口調にリリィは小さく「だよね」と呟き、考える。


(前向きに考えてる。藤堂政宗としても。そして、もう気持ちは前向きなんてものじゃないかも知れない……だけど)


 ひたすらに想ってくれていること。

 命を張って自分を助けようとしてくれたこと。


 結人から傾けられた想いは溢れそうになるほど沢山あって、それがリリィの中で響いていないはずがなかった。


 ――でも、そんな想いにリリィは溺れそうになる。


 ローズから向けられる好意に抱く恐怖心とはまた少し違って――しかし、根幹は同じ。過去に首根っこを掴まれて前に進めない、リリィの抱える明かされていない秘密。


 でも、自問自答すればするほど気持ち自体は固まっていて、


「そういう風になれたらいいなって思うよ」


 リリィは素直な気持ちを口にしてみた。すると耳の先までかーっと熱くなって、気持ちが昂る。


(素直な気持ちを口にすると気持ちよくなるなんて結人くんは言ってたけど、分からなくはないかも。恥ずかしい気持ちを通り越す感じ、ちょっと楽しい)


 興奮気味な感情が熱を持って胸の中で膨らみ、それは幸福感に似ていた。先ほどまでの緊張感が解けていくような感覚。しかし、この話題はローズの興味が本題から逸れたわけではなく――、


「なら、リリィは告白された経験者ってことよね。練習相手としてはこの上ないじゃない」


 冷や水でも浴びせられたように温かい気持ちは消え去り、リリィは緊迫したシチュエーションの中にいるのだと改めて自覚させられた。


 不意に与えられた小休止は反動となり、より重たい不安をリリィにもたらす。


 身体中の毛穴が開き、汗が滲むような感覚がして不快感を伴う。立っていられないほどの恐怖が彼女を襲い、そんな気持ちを後押しするようにローズは口を開く。


「じゃあ、ちょっとリリィを政宗くんだと思って告白してみていいかしら?」


「え? あ、いや……ちょっと待って。ボク、どうしたらいいのか」


「ただ聞いててくれればいいのよ。それで佐渡山くんからもらった告白と比べてどうなのか、感想を聞かせてくれれば」


 そう言ってローズは表情を真剣なものへと切り替え、胸に手を当てて深呼吸。自分と違うリズムで呼吸をするローズを見てリリィは混乱する。


 普段、自然に呼吸をしているはずの自分を見失い、息苦しさが伴っていく。どうすれば吸って吐いてという行動が無意識になるのかが分からなくなり、生理現象の手綱を握らされたリリィは暴走気味に呼吸を繰り返す。


 ――過呼吸。


 心拍数が上昇し、意識が朦朧とする。

 血の気が引いていく。


 眼前の光景が霞み、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。


 一方で月明かりを浴びて青白い顔をしたローズはほんのりと頬を紅潮させ、目線を泳がせながらタイミングを計る。そして、意を決して口を開く。


 その口が「好きです」を描こうとするのを、まるで時間の流れが遅延した感覚でリリィは見つめていて。過度な呼吸は最早、体に酸素を循環させる役目を真っ当しない。


 向けられる好意がリリィという外殻を貫き、正体が藤堂政宗という真実――いや、さらにその内側にある秘密へ触れようとする感覚があった。


 ならば、深海へ引きずりこもうとする手――それは今、目の前で告白しようとしているローズから告げられる想いではないか?


 そう認識した瞬間――糸が切れたようにリリィは緊迫していた全てから解放され、精神は限界を迎えた。


 極限まで高められた緊張、限界まで追い詰めらえた精神。フラッシュバックする過去の映像と今が重なってリリィの脳は平静を保つことができなくなり――、


「ちょ、ちょっと!? リリィ、どうしたのよ!?」


 ふらりと――リリィはその場に倒れてしまう。


 そして、気絶すると変身を解除されるシステムに従って――魔法少女マジカル☆リリィはその正体である藤堂政宗の姿を晒してしまった。


        ★


「……どういうことよ? 意味が分からないんだけど。どうしてここに政宗くんがいるの? どうして――リリィの正体が政宗くんなのよ?」


 口元を手で押さえ、目の前で倒れたリリィが政宗に戻っていく瞬間――そして、今も身を横たえてそこで気を失っている人物を、ローズは瞳を震わせながら見つめていた。


(――ちょ、ちょっと待って! 政宗くんがリリィなら、私はずっと自分の想いを本人に? いや、そこじゃないわ。政宗くんがどうして魔法少女に? 彼は男の子のはず……じゃあ佐渡山くんの想いって?)


 思考がぐちゃぐちゃになり、現状を整理できないローズ。とはいえ、変身を解除してしまった政宗をこんな高い場所に置いておくのは危険だと判断した瑠璃。政宗の身を抱えて移動することに。


(確かに考えてみればリリィが政宗くんだと言われれば辻褄が合う部分は多いわ。挙げればキリがないくらい。……でも、気付くわけないじゃない! 彼は――政宗くんは魔法少女とは縁遠い、男の子のはずでしょ!?)


 混濁する感情と思考を宿し、眠ってしまった真実を抱えて。

 ローズは夜の街へと跳び、駆けていく。


 灯台は海の向こうまで闇を切り裂く光を放つ。


 ――そんな場所に、魔法少女達の姿はなかった。

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