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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第八話「マジカル☆リリィ・ショー」

『きゃ――――――――っ! 助けて――――――――っ!』


 館内に響き渡る悲鳴。ゲームコーナーを出てウインドウショッピングを楽しんでいた四人は緊張感を伴って辺りを見回す。


「何かあったのかしら? すごく大きな声だったけど……」


「トラブルでもあったのかな。なんか只事じゃなさそうだったけど」


「あっちの方から聞こえたみたいだ。行ってみるかい?」


 修司が指差す先――声が聞こえてきたのは吹き抜け、そこから見下ろす一階フロアだった。三人は顔を見合わせ、頷くと声のした方へ駆け出した。


 ――そう、三人なのである。


「あれ? 政宗くんはどこへ行ったのかしら?」


「そういえばいないな。トイレかな?」


「だとして、僕達に黙っていなくなったりするかな?」


 すぐ目の前の吹き抜けから様子を見るだけなので、あまり気にせず進み続けた三人。吹き抜けから見下ろした一階、悲鳴が聞こえた現場を見下ろす。


 あの叫び声が上がった理由が、そこにあった――。


「な、なんだ、そんなことかよ。駆け足でここまで来て……俺達めっちゃファンみたいになってるじゃんか」


 イベントスペース――そこでは集まった子供達を前に特設ステージでヒーローショーが行われていた。ステージ上にはマイクを握りしめた進行役のお姉さんが怪人に両脇を抱えられ、まさにピンチという状況だった。


「……なるほどね。肉声にしては響きすぎると思ったよ。マイクで叫んでたんだね」


「何かのイベントなの? なんかあのお姉さん、襲われてるけど……」


 夏休みのため企画された子供向けのイベント。ここから子供達にヒーローの名前を呼ばせるお約束のためのフリが行われていたのだ。


 ヒーローを心待ちにする子供達の期待はピークまで高まっていた。


 あとは主役が登場するだけ――そんな瞬間に刹那、一階の光景を見下ろす結人の隣から何者かがフェンスを踏んで跳躍。人影が吹き抜けから飛び降り、ステージに向かって弧を描いて着地したのだ。


(――え? 今、誰か飛び降りた!? ここ三階だぞ!?)


 ()()()()()()()()怪我は避けられない高さからのダイブ。ヒーローの乱入を目前にして、ステージ上にまさかの人物が降り立っていた。


「――えぇ!? 嘘だろ!? 俺、目おかしくなったのかな……?」


「あ、あ、アイツ――何やってんのよ!?」


「まぁ、ある意味それでこそと言うべきなのかな。……いや、本当にそうかな」


 三人はフェンスから身を乗り出し、目を凝らす。悪事を働く怪人に対峙するべくヒーローに変わって現れた人物。



 それは、この街の魔法少女――マジカル☆リリィだった。



 勇ましい表情を浮かべたリリィはトレードマークとも言えるリリィ☆マジカロッドを怪人に突きつけて堂々たる態度で対峙する。


 しかし――、


『そこまでだよ! ボクが来たからにはもう安心――って、あれ?』


 自分の思っていた状況と違うことに気付いたらしく、首を傾げるリリィ。そして自分のやっていることに理解が及ぶと体をビクつかせ、


『あ、あれぇ――――!? ボク、間違えちゃった!?』


 と、先ほどまでの態度を崩し、マジカロッドを両手で握りしめてあわあわと周囲を見渡す。


「リリィさん、もしかして……」


「間違いないだろうね」


「さっきの悲鳴に危機だと思って駆けつけたのね……」


 結人は頭を抱え、修司は腕組みをしてまじまじと見つめ、瑠璃は肩を落として嘆息する。


(しかし、なんだろうなぁ……。リリィさんがあの場にいるのはそれなりに溶け込んでいるというか。ヒーローショーだからか、そこまで違和感はないな)


 一方、リリィはきょろきょろと落ち着きなく周囲を見回す。


 正義の味方という共通点はありながら、女児向けの方が出てきて観客の男の子達は困惑。そして、進行役のお姉さんと怪人までもが、突如として参戦した魔法少女に硬直する。


(……リリィさん、どうする気なんだろう。正直、俺達にできるのは見守ることだけなんだが)


 早とちりして大失敗したリリィには申し訳ないが、結人は今の状況をそれなりに面白いと捉えていたため好機の目で現状を眺める。


 あわあわと挙動不審になっていたリリィ。だが、何かに気付いたらしく、つかつかと怪人の方へと歩み寄る。そして――、


『――えいっ!』


 と、リリィはぶんとマジカロッドを振り下ろし、怪人へとかざす。いつも結人が見ているマナ回収の光景が繰り広げられ、怪人から真っ黒な光がロッドへと吸収されていく。


 すると、マナを回収された怪人はだらんと手を下ろしてお姉さんを解放した。


「えぇ!? 回収できるのかよ!? 確かにツインテールは反応してたけど!」


「間違いなく回収してるわね……! なんでそんなことが可能なのよ!?」


「しかも、ヒーローに代わってお姉さんを助けてしまったよ」


 驚いたり呆れたり、コロコロと表情を変えながらリリィを見守る三人。そんな視線に気付いたリリィは目を丸くし、瞬間――ステージ上から姿を消した。


 まるで最初からいなかったかのように消えたリリィに観客はざわめき、事情を知る三人は時間停止による移動だと理解し顔を見合わせる。


 そして、そんな光景へこっそり溶け込むように政宗はいつの間にか戻ってきていた。合わせる顔がないとばかりに目線を逸らし、顔を真っ赤にして佇んでいた政宗に瑠璃がいち早く気付く。


「政宗くん、どこへ行ってたのよ! さっき凄いことがあったんだから!」


「へ、へぇ……! そ、そうなんだ……?」


「突然、ショーにリリィが現れてマナ回収していったのよ! 記憶阻害があるとはいえ、度胸あるわよねぇ……! それでね」


「や、やめてぇ――!」


 恥をかいて戻ってきた政宗は先ほど自分がやらかした失敗を説明される地獄のような状況で二度も苦しむことになった。


        ○


「怪人からマナが回収できるって最初から分かってたのか?」


 ヒーローショーの一件が終わった後――ショッピングモール内のアイスクリーム屋に立ち寄り、瑠璃がレジで注文を行っている時、結人は政宗に問いかけた。


「いや、偶然だよ。ついステージに立っちゃってどうしようかなと思ってたら、怪人からマナの反応があったんだよ」


「佐渡山くんから魔法少女の回収するマナは人の悪意だって聞いたけど……あの怪獣の悪役設定に反応したとでも言うのかい?」


「それなんだけどね……」


 政宗は呆れて嘆息し、首を横に振る。


「あくまで推測でしかないんだけど……あの怪獣、進行役のお姉さんを必要以上に触ってたみたいでさ」


「要するにセクハラか。回収された瞬間お姉さんから手を離したからそう推測したのかだな」


「そういうこと。悪役には変わりなかったみたいだね」


 どうやらヒーローと悪役、両方が本物だったらしい。


(結果として乱入したのは間違いじゃなかったんだ。悲鳴を聞いて咄嗟に変身したんだ……やっぱり優しいやつだなぁ)


 政宗の優しさを感じられて温かい気持ちになった。

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