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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第七話「憧れの女の子」

「すごく可愛いぬいぐるみだわ……これ、売ってるのかしら? お金を入れるところがあるし自販機? でも何か違う感じもするわね」


 落ち着きなく瑠璃が観察する対象――それはUFOキャッチャー、そしてガラスの向こうでぎゅうぎゅう詰めにされたぬいぐるみ達。


 ショッピングモールへとやってきた結人達は施設内を見て回る途中に見つけたゲームコーナーにやってきていた。


 電子音が重なる賑やかな区画にはプリクラや音楽系、対戦にキャラクターものなどあらゆるゲームが並んでいた。そして、そのジャンルの中で一番面積と種類を押えているのがUFOキャッチャーだった。


「流石はお嬢様……と言いたい所だが、UFOキャッチャーを知らないのはちょっと驚きだ。どういう暮らしをしたらそうなるんだよ」


「転校してくるまでエスカレーターの学校にいたんだけど、そこの校風的にこういう場所への立ち入りは禁止だったのよ」


「厳しい学校だったんだね。でも、瑠璃ちゃんの行儀の良さはそういうところから来てるんだ」


「あら、やっぱり私の品性は隠し切れなかったかしら? ごめんなさいね、見せつけたみたいで」


「まぁ、最近は僕ら俗世の空気にどんどん染まってるから気にしなくても隠れていくんじゃないかな」


 修司の毒舌に瑠璃はムッとした表情を浮かべる――も、満更でもなさそうな態度に変わる。


(高嶺はきっとクラブとカルネの横暴に身の危険を感じて強引に住む地域を移したんだよな。その結果あの表情があるならきっかけはともかく……これも悪くなかったのかもな)


 あの日から瑠璃の歩みを見守っていた結人は微笑ましさを隠しきれなくなった。


「何をニヤニヤしてんのよ、佐渡山くん。――で、これはどういう装置なのよ?」


「ん、あぁ、すまんすまん。これは金を入れてあのアームを動かして景品を取るゲームだ」


「これもちゃんとゲームだったのね。ならチャレンジしてぬいぐるみをゲットしてやろうじゃない!」


「へぇ。高嶺さん、こういう可愛いキャラクターが好きなんだね。ちょっと意外だったよ」


 筺体に書かれた操作説明を読む瑠璃の隣、ぬいぐるみを眺めながら修司が言った。瞬間、結人は――、


(あ、修司のやつ地雷を踏み抜いたな。これは高嶺のやつ『べ、別に好きなわけじゃないのよ。ただゲームとして遊ぼうと思ったついでに手に入れてやろうと思ったのっ!』とか言ってごまかすぞ)


 などと予想し、内心でくすくすと笑っていた。

 しかし――、


「そうね、人並みに好きな方だと思うわ。家にもこれとは違うキャラクターのぬいぐるみがいくつかあるのよ」


 と、あっさり肯定して瑠璃は財布を取り出すと硬貨がないことに気付いて困惑する。そんな彼女を修司が両替機へと誘導し、筺体の前には結人と政宗だけになった。


 政宗はガラスの向こう、ぬいぐるみに視線を預けたまま、


「自信を持って好きだって言えるんだ。言っていいんだ。……ズルいよ」


 ぼやきを口にし、結人は眼前の少女の内情が自分の中へ入り込む感覚を受けて物悲しくなった。


(政宗にとって高嶺は全部を持ってる女の子なのかも知れない。高嶺が悩みから解放されてからその意識は尚更強まったのかも。憎んだり、嫌ったりはしないと思うけど――でも、ズルいとは思ってしまうんだ)


 結人は少し向こうで両替機を利用する、ズルいと言われた少女を見た。


 素直になれない悩みから解放され、自由を生きる姿は政宗にとっての憧れ。あらゆる本音を押し殺し、偽って生きる政宗は現状――瑠璃以上に素直ではないのかも知れない。


 彼女のように、白いワンピースは着られないのだから。


        ○


「や、やっと取れたわ……。掴んだと思ったのに手を離すこのアームの態度を見た時にはローズになって破壊してやろうかと思ったわよ」


「おーおー、高嶺の隠し切れない品性が滲み出てるなぁ」


「うるさいわねぇ。実際にやってないんだからセーフよ。セーフ!」


 金に物を言わせた思考回数で何とか景品をゲットした瑠璃。ゲームで上手くいかないと分かりやすくイライラするタイプだったようで、まだ冷静になれておらずゲットしたぬいぐるみを鷲掴みにしていた。


「高嶺さん、せっかく手に入れたぬいぐるみの顔が歪んでるじゃないか。景品を入れるビニール袋がもらえるからそれに入れた方がいい」


「そんなのもらえるのね。じゃあ取ってきてくれる?」


「え? あ、うん」


 ナチュラルに修司を使い、瑠璃はぬいぐるみを袋に入れて手で提げられるようにした。


 ――さて、ぬいぐるみはもう手に入った。少なくともこのUFOキャッチャーの台には用事がなく、移動してもいいことになる。だが――、


「俺もやろうかな。あんまり軍資金はないから取れるか分からないけど」


 結人はポケットから財布を取り出し、今ある小銭でプレイできる回数だけチャレンジすると決めた。それはやはりというべきか――政宗のためだった。


「えぇ!? 佐渡山くんもやるの!? ちょっと意外……男の子でもそういうの欲しいのね」


 瑠璃は心底驚いたように目を見開き、不思議そうに結人を見つめた。


 この反応、結人は想定済みでぬいぐるみのゲットを公言していた。政宗にプレゼントするなら別に後日一人でゲットしておく手段もある。だが、敢えてこの言葉を引き出したのだ。


『男の俺が欲しがって悪いか?』と――そして『男女関係なく、欲しいものは欲しいんだ』と言うことで今後、政宗が意思表示しやすくなるのではないかと考えたからだ。


 懐で暖めていた言葉を取り出すときが来た――と思ったのだが、


「……まぁ、でも他人の趣味なんて人それぞれよね。内に何を抱えていたって、他人にとやかく言われることないし」


 と、あっさり理解を示した瑠璃に結人は拍子抜けしてしまう。


(……あれ? こういう反応になるのか。まぁ、そりゃそうか……男がこういうぬいぐるみ欲しがるのがおかしい、そんな考え方自体がそもそも古いんだし)


 だが、この瑠璃の受け入れの早さは結人に希望を感じさせた。


 いつの日か――政宗が瑠璃に秘密を告白する時、こういう風に受け入れてもらえるのではないかと結人は思えたのだ。


(素直じゃなかったり、ちょっと乱暴な発言も目立つけど……高嶺はそういうとこちゃんと理解してくれる。そう思えただけでも意味はあったな)


 結人は政宗から譲り受けた暗雲が少し晴れていくような気持ちになりながら、UFOキャッチャーに挑んだ。


 結果――結人は一発でぬいぐるみを獲得した。どうやら瑠璃が大金をつぎ込んだおかげで所謂、UFOキャッチャーのアームが強くなる現象にサポートされたのだ。


 ぬいぐるみを掴んで振り返り、結人は政宗を見る。瑠璃と修司より少し後ろで見守っていた政宗はギュッと目を閉じ笑い、結人の優しさを喜んだ。


 ――結人はその表情が大好きだった。

 2020/10/20

 完全に書き直しました。

 ちなみに以前はキュ○べぇのぬいぐるみを取るという悪ふざけな内容でした。

 嫌いじゃなかったんですけどね。

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