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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第四章 魔法少女たちの夏休み
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第三話「マトリョーシカ」

「ホント……夏って毎年暑いよね。これが冬になったら暖房つけたくなるくらい寒くなるって信じられないよ」


「ははは。政宗、冬になったら逆のこと言ってそうだな。冷房つけたくなるくらい暑かったなんて信じられないってさ」


 クーラーの効いた部屋で窓越しに燦燦と降り注ぐ太陽を見つめる政宗と結人。


 七月二十四日――夏休みに入って初めての週末を迎えた。夏季休暇中も当然マナ回収は行うわけだが、学校に通っている時と同じく活動は平日のみ。週末はまるまる一日休みなので、政宗は結人の家へ遊びに来ていた。


「しかし、ここまで来るのも大変だったんじゃないか? 視界が歪みそうなくらい太陽が照り付けてるし」


「記録的な暑さらしいよね。やっぱりこういう日はこれだよ」


 政宗は手に持っていたコンビニの袋からソーダアイスを取り出し、結人にも渡す。


「お、貰っていいのか?」


「うん。一緒に食べようと思って買ってきたんだ」


「サンキュー」


 二人は封を開けてアイスを口に含み、頭痛に表情を歪める。


「この暑さなのに全然溶けてないな! おいしい!」


「ほんと? 変身して大急ぎでここまで来た甲斐があったよ」


「そういえば移動面でも便利だよなぁ、魔法少女って」


「だよね。しかも魔法少女の衣装って気温の影響受けないんだよ」


「じゃあこの猛暑の中を移動しても暑くなかったのか。本当に便利だなぁ!」


 夏になってからのマナ回収は夜でも十分暑く、おんぶで密着する結人にとって制汗剤は必携だった。しかし、リリィが暑さで汗を拭う場面は確かになかったと結人は今になって思った。 


「でも、不便なところもあるんだよ。実はあの衣装……脱げないんだよね」


「そうだったのか! うーん、脱げたらあの体で他の服も着られたろうになぁ」


「うん。……それができたら海にも行けたんだけどね」


「まぁ、そうかも知れないけど……海に行けないのを自分のせいだとか思うなよ? 俺は政宗と一緒なら場所なんてどこでもいいんだから」


 さらりと結構恥ずかしいセリフを言った結人。政宗は言葉に顔を紅潮させ、目線を逸らす。


「結人くん、そういうの……抵抗ないんだ? あ、もちろん言ってくれるのは嬉しいんだけど」


「ん? まぁ、リリィさんには二回も告白してるし、なんかそういう自分の気持ちを口にするの、どんどん抵抗なくなってきてるんだよなぁ。……まぁ、後で思い返して悶えたりもするんだけど」


「でもすごいと思うよ。自分の気持ちをちゃんと伝えるって……そんな簡単じゃないと思う」


「それは当然だ。でもな、内に秘めたものを口にするのが気持ちよくなる感覚ってあると思うんだよ」


 政宗が自分に好意を抱き始めているかも知れない――そう思った結人にとって、こういったアプローチをするのは楽しくてたまらない。


 打てば響く相手に想いを傾ける幸福感。それは何にも替えがたく、恥ずかしそうな表情で受け止める反応を結人は見たくて仕方がなかった。


 言ってみれば修司との勝負の際、手に入れた副産物だった。


(俺の政宗への気持ちも十分高まってきてるはず。もし、この気持ちに決着をつけるなら――この夏なのかな?)


 奇しくも瑠璃と似た考えをする結人。


 そして、そう――問題の瑠璃である。


「そういえば結人くん。ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」


「相談? もちろん構わないけど、どうしたんだ?」


「……実は、瑠璃ちゃんに関してなんだよね」


 視線を泳がせ、申し訳なさそうな口調で言った政宗。結人は納得したように頷く。


「あぁ、高嶺か。なら思い当たる節があるんだけど……あいつって政宗を好きになってないか?」


「えぇ!? 結人くん、何でそれを知ってるの!?」


「クラブとカルネの一件が終わった頃かな。なんか政宗と高嶺が厄介な会話してるなと思ってさ」


「あ、アレ聞いてたんだ。てっきり聞こえてないと思ってたけど……」


「あとはたまに高嶺ってばボーっとして、政宗に見惚れてたからさ」


「なるほど……結構見てるんだね。うーん。まぁ、だったら話が早いかも」


 下唇に人差し指を触れさせ、数秒悩んで政宗はどこか申し訳なさそうな表情で口を開く。


「リリィの姿でローズちゃんから相談されたんだよ。ボクが気になってるって」


「本当か? そりゃまた皮肉な相手に相談してるなぁ。高嶺はリリィの正体に気付いてないし、無理もないけど」


「そうなんだよね。でさ、ボクはどうしたらいいのかなと思って。瑠璃ちゃんの気持ちが大きくなる前に何とかしたいんだけど……」


 政宗は俯きがちに悩みを吐露し、結人は腕組みをして考える。


(告白されたら断ればいい、それが単純明快な答えだ。でも、それは政宗も分かってて相談してきてる。理由は分からないけど――()()()()()()()()()()()()()()()みたいだ)


 だとしたら――、


「まぁ、未然に防ぐって意味なら一つ方法はあるけど……」


「それはきっと、ボクの秘密を告白する――だよね? たしかに同性だと認めてもらえれば瑠璃ちゃんの気持ちは終わるかも知れないけど……」


「でも難しいよな? 高嶺は知ってもちゃんと受け止めてくれるとは思うけど、それでも」


 結人のどこか諭すような問いかけに政宗は苦しそうに頷く。


 ――政宗には秘密が二つある。


 一つは魔法少女。

 もう一つが、性同一性障害。


 秘密が重なりマトリョーシカのように皮を被ったような姿がマジカル☆リリィで。ならば正体を知られれば確実に問われるだろう。


 何故、魔法少女をやっているのか――?


 その問いが最奥の秘密に触れるから、政宗は正体を明かせない。そこで嘘を吐くくらいなら、最初から真実を語らず偽り続ける方がいいのだ。


「受け止めてくれるだろうって予感はボクにもあるよ。でも……ちょっと難しいかな」


 無理な笑顔を浮かべた政宗は、テーブルの下で手首をギュッと握りしめる。そんな僅かな挙動を一瞥して、結人は自分の考えが安直だったと悟った。


(いつか高嶺に秘密を話せたらいいな、なんて思ってた。でも、簡単にできない背景が政宗にはある……そういうことなのかな?)


 結人は政宗の内面に、まだ自分の知らない何か大きなものがあると直感した。


 それから――瑠璃の気持ちを穏便に諦めへと向かわせる方法を考えてみたが、納得できる答えは出てこなかった。

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