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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第三章 想いをはかる試験
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第二十二話「似た者同士」

「告白なんだけどね、色々と考えてしないことにしたよ」


 結人と修司の姿はやはりというべきか自販機前にあった。


 いきなり本題に入ったため飲み物を買うなどはせず、二人は目線を合わせず晴れた早朝の空に視線を預けていた。


「クラブとカルネに邪魔されたからか? だとしたら後日改めてもいいんじゃないか?」


「おや、僕は告白をしないって言ったんだよ? 君としては好都合じゃないのかい。それとも――自信があるのかな?」


 少し苛立った口調で修司が語り、結人はそれを耳にして苦笑する。


「そんな言い方するなよ。ずっと抱えてきた想いを口にしないのが辛くないのかなって思っただから」


「……なるほど。僕と君は似たようなものだから、その辺は分かるのか」


「まぁ、そういう感じ。どうもリリィさんを何年も忘れずにいるのって並大抵のことじゃないらしい。魔法少女の存在は本来忘れてしまうらしいから」


「そうなのか。何だか自分の気持ちを評価されたようで……悪い気はしないな」


 寂しそうに笑んで修司は深く息を吐き出す。そんな横顔を一瞥して修司には告白する気ないのは事実だと結人は悟った。


「正直言って政宗くんに正体を知っていると明かした時から僕は迷い始めていたんだ。自分が告白してもきっと困らせるだけだろうなって」


「そんな時から? どうしてそう思うんだよ?」


「随分と酷なことを聞くね。……まぁ、いいや。端的に言うとね――僕は君に勝てないと思った。いや、それはずっと前から感じていたのかも知れない」


 修司はズボンのポケットに手を入れ、睨むように空を見つめていた。先ほどから一度として、結人の方は見なかった。


「それは俺のセリフだと思ってたんだけどな。成績優秀、スポーツ万能……俺はお前に勝てないって、ずっと感じてたのに」


「まぁ、その言葉は否定しないよ。僕が今日まで積み立てた結果だしね。……ただ、彼女の気を引くために必要なのはそんなのじゃないんだよ」


「……そういうものか?」


 結人には修司の言葉がいまいちピンときていなかった。


 いくら勉強ができようと――運動ができようと、誰かの想いを確実に射止めるものにはならないのは結人にも分かる。


 しかし、ならば――自分に何があると言うのか?


 その答えを修司は溜め息混じりに語る。


「僕にはあんなことできないよ。命さえ惜しくないとばかりに彼女を守ろうとするなんて……あんななりふり構わない真似、僕にはできない」


「……何だよ、そんなことかよ。あれは無意識にやっただけで」


「そんなこと――と君は言うのか。そして無意識なのか。……僕と試験の成績で勝負した時もそうだ。君は自分の身を粉にすることに抵抗が無さすぎる。そういう部分が……僕にはきっと足りない」


 結人の言葉一つ一つが挑発として聞こえているかのように修司は苛立ちを募らせ――しかし、その度に納得させられて最後には肩を落とす。


「あの魔法少女二人が現れた時、僕は何も言えなかった。リリィが襲われた時、僕は何もできなかった。あの時行動できたのは――君なんだよ」


 ギュッと握った拳を震わせ、修司は絞り出すように語った。苛立ちを秘めて震える手――しかし、その感情の矛先はきっと結人ではなかった。


 あの時――クラブとカルネは魔法少女としての力を振るって暴れていた。


 目の当たりにして足がすくむのは生物として当然なのだ。天災による抗えない力のように人の命が容易いとさえ言えたあの場所で、修司の反応は正しかった。


 結人も本来ならばあの場所で動くことなど出来るはずがなかった。実際、クラブとカルネの攻撃を前にしてすぐに動けたわけではない。


 しかし――結人はあの超常的な場において言葉を発していたし、結果として動けた。


 それは無論、リリィの存在があったから。


 彼女がいるから強くなれた――そこで想いの強さが証明されたのならば、あれも気持ちを試す一つの試験だったのだ。


「だから、僕は告白できない。君には勝てない。僕にできないことを君がやってのけた。……そして、傷付いた君に彼女が涙を零した。それらを目の当たりにして……僕は身を引こうと決めたんだ」


 結人からすれば自覚のない、思ってもない言葉が並んでいた。しかし、政宗に先ほど怒られた結人はそれらの行動を他人事だと言うわけにはいかない。


 結人がリリィのためを思って起こした行動。それが修司より勝っている部分なのだとすれば、結人は誇らしいと素直に感じられる。


 だけど――、


「お前はそれでいいのか? ……本当に、それでいいのか?」


 結人は口にしてすぐ、後悔した。修司の気持ちを考えれば自分が言うことではなかった、と。


(でも、それでも――俺は気持ちを抱えて、やり場のない日々を過ごす辛さを知ってるから)


 修司は結人の言葉を受けて奥歯をギュッと噛む。


 握った拳を震わせ、瞳を閉じ、震える唇で修司は――、



「…………いいわけない。――それでいいわけないだろ!」



 胸の内を叫んだ。


 空気が震え、反響する声。

 結人は圧倒される。


 それはクールで淡々としてると思っていた優等生が隠していた、感情。


「ずっと好きだったんだ……リリィが、ずっと! なのに君は僕より先に彼女と出会った! 僕よりも強い思いを抱いている! そんなのってあるか!? 苦しすぎるだろ、悲しすぎるだろ! こんなに想ってても好きな人が自分のものにならないなんて、そんな不条理あるか!? 何でだよ……何でなんだよ!」


 修司は泣き顔を隠すこともなく理性の殻を破って思いを叩きつけ、頬を伝う涙は地面に零れた。悲鳴のような――嗚咽のような声を漏らし、修司は感情を堪えられなくなっていた。


 決して結人はリリィと――政宗と付き合うことになったわけではない。


 想いが明確に通い合ったわけではない。しかし、修司は今日までの日々で付け入る隙がないと確信してしまった。勝てないと理解してしまった。


 だからこそ――彼は自分の想いが敗れたのだと自覚した。


(何を語ればいいんだろう……? 今の俺に、何か語れることがあるんだろうか)


 修司が負けを認めたことで、結人は勝者になってしまった。そんな結人が語る言葉全ては修司を傷付けるかも知れない。


 そう思うけれど――。


「俺はそれでも、告白した方がいいんじゃないかと思う」


「…………負けると分かってて、告白しろっていうのか?」


「お前が本当に今のまま終わってもいいっていうなら、それでいいんだろう。でも、俺はきちんと伝えないと駄目だと思う。ぶつかって引き出さなきゃ、何も分からないよ」


 修司が告白しないならば、それは結人にとって好都合なはずだった。


 そして――、


(もしかしたら俺は修司の告白に政宗がどう答えるのか、知りたいだけなんじゃないか。ブラックボックスを許せないから)


 と、修司を試すような気持ちがあるのではないかとも思うけれど。しかし、今語ったことが本心であると自信をもって言えた。


「ぶつかってみるとか……そういうなりふり構わない姿勢がないから僕は駄目なんだ。さっき自分で言ったところなのに」


 涙を袖で拭って修司はゆっくりと立ち上がり、自嘲気味に言った。


「それはお前が賢い証拠だと思うけどな」


「じゃあ、僕はもっとバカになるべきだったのか」


「何だよ、俺がバカだって言ってんのか?」


 結人は絡むように文句を口にするも、修司は首を横に振る。


「いや、バカなのは僕の方だろうな」


 修司はそう言って、呆れた笑みを結人に向ける。


 どこか吹っ切れたような表情。

 それは蒼く透明な空みたいに清々しいもので。


 結人も同じ表情で顔を見合わせる。


「……それにしても君はどういうつもりなんだ? 僕はテストまでの日々、随分と君に嫌がらせをしたつもりだったのに。まるで今背中を押されている気分なんだが?」


「あー、それな。……多分、俺もバカなんだよ」


 後ろ頭を掻きながら語った結人の言葉。それにどちらからともなく二人は自然と笑いだし、そして――、


「……分かった。バカを演じて、僕は彼女に告白するよ。玉砕覚悟でぶつかって確かめてみる」


 修司は決意を秘めた瞳を揺らし、頭で散々考えた諦めの全てを放り投げた。

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