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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第三章 想いをはかる試験
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第十六話「決戦の日」

「やべぇ……もの凄く緊張してきた。今まで受けてきた試験で一番緊張してる」


 結人は教室の席から壁に設置された時計を見つめ、その時が来るのを待っていた。


 時は流れて五月二十日、中間テスト当日――死にもの狂いの勉強は非効率的だという失敗を活かし、きちんと睡眠と勉強の時間を配分。


 効率よく頭に叩き込む方法を試行錯誤しながら試験勉強を進め、とうとう本番を迎えた。


「結局、あんたが何と戦ってるのか分からないままね。とはいえ、このあたしが教えたんだから半端な成績だったら許さないわよ」


「分かってるよ。俺だって今日まで本気でやってきたんだ。ベストを尽くすさ」


 瑠璃の遠回しな激励に軽い口調で返す結人。切羽詰まって勉強した頃とは打って変わって余裕ある表情が浮かんでいた。


 その変わり様に瑠璃は目を丸くし――何かを悟って笑む。


「まぁ、頑張りなさいよね。成績トップはどうせ私だと思うけど」


「そうかな? 知らないんだろうけど修司も一位候補みたいだぞ。何でもこの学校の入試も満点だったとか」


「嘘でしょ!? 彼、そんなこと全く言ってなかったじゃない!」


「能ある鷹は爪を隠すってことだろ。誰も彼も洗いざらい話すと思うなよ……」


 結人はジト目でぼやくように語る。


 そんな時、結人のスマホが着信を告げ、政宗からのメッセージが入っていた。


『テスト頑張ってね!』


 賑やかな絵文字に彩られたその一言に結人は穏やかな笑みを浮かべ、


『他人事じゃないぞ! 政宗もテスト頑張れ』


 と返信した。


 ――さて、今日まで結人は必死に勉強してきた。一人きりで時間を費やした記憶が色濃いが、実際は瑠璃にハイレベルな応用問題の解き方を解説してもらったこと。


 そして、政宗から暗に伝わってくる想いに勇気をもらったこと……決して孤独な戦いではなかったと、結人は思う。


 チャイムが鳴り響き、教師がやってきてテスト開始を告げる。


 結人と修司の戦いの火蓋が――切って落とされた。


        ○


「げっ……よりにもよって朝からお前の顔を見かけるなんて。何だかついてないなぁ」


「随分と失礼な物言いだね。それはこちらのセリフ――と言いたいところだが、よく考えてみれば僕にそのような嫌悪感はなかったよ」


 中間テスト最終日の朝――登校した結人は気合を入れるべく飲めない缶コーヒーでカフェインを体に入れようと校内の自販機を訪れ、修司と鉢合わせした。


「何だよ。こんな勝負は余裕だから俺なんか目じゃないってか?」


「……言ってて虚しくならないのかな?」


「虚しくて仕方ないさ。でも俺は言ってみれば挑戦者側だし、見下されるのは当たり前だと割り切ってるよ」


 結人は自販機に硬貨を投じ、少し迷って冷たい珈琲を選んだ。


 六月も間近となって入学の頃に比べれば随分と暖かくなった。今日は随分と天気が良いようで雲一つない快晴。青空が朝日に焼かれてうっすら白く染まっていた。


 結人はプルタブを開き、中身を口内へ投じる。広がる苦みに表情をしかめそうになるのを我慢し、一気に飲み込む。修司の手に握られていたのはアップルジュースだった。


「それでどうなんだい、佐渡山くん。テストの調子は? あれだけ死にもの狂いで勉強してた成果が出そうなのかな?」


「今のところそれなりに手応えはある。でも、完璧とは言えないかも知れないな」


「そうかい。言っておくけど、僕は全教科満点を狙ってテストを受けている。これは昔からだけどね」


「そりゃ凄いな。厳しい戦いになりそうだ」


 結人は修司との差を想って、憂鬱そうに肩を落として嘆息。そんな反応に修司は悦に浸るでもなく、不愉快そうな表情を浮かべた。


 修司はわざとらしく咳払いする。


「改めて確認しておく。獲得点数の合計で君を上回った時、僕は告白する。そして、下回った時には君を認めて告白はしない」


「確認されるまでもなく分かってるよ」


「そうかい。……まぁ、僕は負けることなんてないと思ってるよ。今日までの積み上げ、そして努力……全部、他の追随を許さない自信があるからね」


「だろうな。俺も勉強ができないほうじゃなかったけどさ。流石に普段からの積み上げなしでトップは無理だよ」


 肩をすくめてさらりと降参に近いことを言ってのける結人。なのに余裕さえ感じさせる物言い――それは自信の裏返し。


 修司は苛立ちに口元を歪ませ、握っていた缶の中身を一気に飲み干す。


「無理だと分かっているのにあれだけ死にもの狂いに勉強していたとは……君は随分な変わり者だ。僕には理解できないよ」


「そうか? お前が言ったんだろ。これは想いをはかる試験だって。もちろん勝ちたい気持ちもあったけどさ、何より俺の本気を証明するための努力だったんだよ」


 終始、表情を陰らせることなく淡々としている結人。修司は「チッ」と舌打ちを鳴らし、明確な嫌悪感を見せた。そして缶をゴミ箱に投じ、教室へ戻ろうとする修司だったが、


「なぁ。聞いてなかったんだけど、同点で引き分けだったらどうなるんだ?」


 結人に問いかけられ、足を止める。修司の中でもし引き分けになったらどうするのかに関しての裁定はあった。


 しかし語ることはせず、眉間に寄せた皺と睨みつけるような眼光を結人に向け――修司は校舎の中へ戻っていった。


        ○


「わ、私が……二位ですって!? 嘘でしょ……ショックだわ、あり得ないっ!」


「いや、瑠璃ちゃん。普通に二位でも凄いと思うけど……」


 さらに時は流れ五月三十一日、中間テストの成績が順位で並べて張り出される日がやってきた。


 二人の勝負、その結果発表というべき日だが――結人は穏やかな気持ちでこの日を迎えることができた。そして、政宗が成績上位者の名前を見て発した言葉が、結人の気持ちを揺るがないものへと変える。


「うわぁ、結人くんも勉強してただけあって凄いね! ボク、こんな頭の良い人達に囲まれててちょっと自分の成績が恥ずかしくなってくるよ」


 ――と、後ろ頭を掻いて恥ずかしそうに語った後に、


「やっぱり修司くんは学年トップなんだね。全教科満点って流石だよ」


 続いて修司の成績へと触れたその順番は、些細ながら結人にとって嬉しいことだった。


 善戦したと言えるだろうが、それでも結局のところ結人の負けでこの勝負は幕を下ろした。だが、自分の名前と順位を見て、結人は満足そうに佇む。


 佐渡山結人の名前は――七位で記載されていた。



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