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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第二章 二人目の魔法少女
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第十七話「対立する日々を越えて」

「そういえば高嶺は大量のマナを抱えてたみたいだけど、どうして魔女はそれを回収してなかったんだろう?」


「あー、それに関してはもしかしてって思ってることがあるんだよね」


 四月二十三日――ローズからマナを回収した翌日の朝。学校へと向かう生徒達の中に結人と政宗の姿があった。


 電車通学の結人に対し、政宗は徒歩で登校できる距離に家があるため学校までの距離はそれほど長くない。だが、仲直りしたこともあって今日は駅で待ち合わせて一緒に登校する約束をしていた。


「魔法少女ってマナ回収のノルマをこなして願いを叶えてもらうわけじゃない?」


「そういう話だったよな。仕事をこなした報酬で魔法を使ってもらうんだっけ」


「でね、魔法ってマナを消費して使うんだって。例えば魔法少女の時間停止もマジカロッドに回収したマナから消費してるみたい」


「つまり、願いを叶える魔法もマナを使うのか?」


「うん、そういうこと。願いを叶える魔法にもマナが必要。そして、魔法少女は魔女の取り分になるマナに加えて、自分の願いを成就させるマナも回収する。それがノルマの正体らしいんだよ」


「なるほど。自分の願いに必要なマナを回収して魔女に魔法を使ってもらうのが契約か。しかし、それが高嶺の件とどう関係があるんだ?」


 結人の問いかけに政宗は神妙な面持ちとなり、一呼吸の間を置いて語る。


「結人くんが気付いたように、魔女もたぶん瑠璃ちゃんの問題をマナ回収で解決できるのは分かってたと思うんだ」


 友達になったからか、政宗は「瑠璃ちゃん」呼びをしていた。


「でも、ローズは願いを叶えるためにマナ回収をしてたよな」


「もしかしたらだけど、その魔女は取り分とローズちゃんの願いを叶えるためのマナ、そして瑠璃ちゃんから回収できる感情――全部を自分のものにしようとしてたんじゃないかな?」


「そ、それって、つまり――高嶺は騙されてたのか!?」


 驚きに満ちた表情の結人に政宗は首肯する。


 当然、魔女も人間からマナが回収できるかは判別できる。ならば魔女は初めて出会った時点でかなりのマナ量を抱えていたはずの瑠璃を敢えて魔法少女にし、利用した可能性がある。


 マナを消費した魔法を行使せず、瑠璃の感情を回収するだけで願いを叶えれば契約によって回収されたマナは魔女の総取りとなるからだ。


 結人が思いついたようなシンプルな解決方法に魔女ならば行き着くはず。しかし、敢えてそうしなかった強欲な魔女像が浮かび上がる。


「確定じゃないんだけどね。ただ、ローズちゃんがわざわざこっちの方へ引っ越してきて魔法少女をやってる理由もちょっと気になってさ」


「魔女を疑ってしまう要因が多すぎる、か……。穏やかじゃない問題の気配がするな」


「だよね。いずれ、瑠璃ちゃんが詳細を話してくれるかも知れないけど」


「まぁ、ローズを担当してる魔女がどんなやつなのかも気になる。だけど、何よりまずは高嶺がどうなったのか。そこが問題だよな」


 昨日の一件、その終わりを思って二人の表情には緊張が滲み出る。


 マナ回収によって瑠璃の悩みに対する対処はしたものの――まだ、二人はその結果がどうなったのか知らないのだった。


        ○


「うわぁ、相変わらず凄いね……瑠璃ちゃん家の車。なんかお金持ちって感じだよ」


「だよな。あの長さでどうやって角を曲がってるんだろう」


 学校の前に停まっている真っ黒な高級車を見て二人は立ち止まる。


 後ろから歩んでくる生徒が鬱陶しそうに二人を避けて学校へ向かうが、それすら気にせず立ち尽くして校門へと視線を注いでいた。


 校門前では運転手がドアを開き、瑠璃を降車させる。その光景を見つめ、緊張に胸を高鳴らせながら結人と政宗は佇む。


「高嶺のやつ、どうなったんだろう? 昨日の時点では話せなかったもんな」


「どうなんだろうね。回収は上手くいったはずだけど……」


 昨晩――マナ回収を受けた瑠璃はそのまま意識を手放してしまったのだ。


 政宗によると多大なマナを一気に引き抜くと心を整理すべく眠ってしまう場合があるらしい。仕方なく彼女のスマホから家に連絡を入れて迎えを呼んで帰らせたため、結人と政宗は瑠璃とまだ話せていない。


 つまり、瑠璃がどのような状態になったかは――まだ分からないのである。


 二人が緊張と共に望む先、瑠璃が車から出てきた。車から伸びた足、黒いローファーが地を踏む。髪を手で払い、運転手からカバンを受け取とると――不意に結人と政宗の方を向く。


 すると二人の方へとやってきて、立ち止まった。顔を背けて髪を指で弄り回し、何かを言おうとして躊躇って――彼女はそれを乗り越える。


「佐渡山くん、それと……あなたは政宗くんだったわよね? ……お、おはよう」


 ボソボソと呟くような声だったが、瑠璃が自ら挨拶したのを二人は聞き逃さなかった。結人と政宗はパァっと表情が明るくなり、顔を見合わせて笑い合う。


「おう、おはよう高嶺。今日も相変わらず高級車で登校とはド派手な登場だな」


「うるさいわねぇ! 別に好きで車使って登校してるんじゃないわよ。たまたま家に運転手がいるから仕方ないでしょ!」


 相変わらずの口調――しかし、高嶺瑠璃の姿であるにも関わらずその話し方はマジカル☆ローズを彷彿とさせ、


(これが本来の高嶺瑠璃、ってことなのかもな。自己嫌悪やトラウマが軽減されて、他者を拒むこともない。これなら――これなら大丈夫かも知れない)


 緊張感から解放され、本当の意味で救われた瑠璃を祝いたい気持ちになった。

 しかし、この場には新しく生まれた厄介な問題がある。それが――、


「おはよう。結人くんと同じクラスの高嶺瑠璃さんだっけ? 最近転校してきたんだよね?」


「…………んん?」


 瑠璃は政宗のまるで初対面のような(・・・・・・・・・・)反応に顔をしかめ――瞬時に事態を理解する。


「あぁ! そうなのよ、そうそう。名前は佐渡山くんから聞いたの! いきなり慣れ慣れしく呼んで気を悪くさせたかしら?」


 瑠璃の視点からすれば政宗は記憶阻害によって魔法少女の記憶を失っている。なので、あの日ローズの変身を見られた時の面識はなくなっているのだ。


 ――とはいえ、


「ううん、そんなことないよ! じゃあボクも瑠璃ちゃんって呼ばせてもらうね!」


 瑠璃の方にはあの日の記憶があるわけで、政宗からの名前呼びに顔をカーッと赤くする。


 この流れから明らかなように政宗はリリィの変身者だと瑠璃に明かしていない。無論、そんなタイミングもなかったのだが――これからも明かすつもりはないのだ。


 政宗の秘密である性同一性障害は簡単に打ち明けられるものではなく、結人は特例中の特例。もし瑠璃に自分がリリィだと明かせば「願いは何?」と問われ、その秘密に迫られることになる。


 だったらその質問に対して嘘の願いを言えばいい――そう思うかも知れないが、どうせ騙すことになるならばリリィの正体だという部分から秘匿したいと政宗は思うのだ。


(男の身で魔法少女をやっていること。これだって政宗からすれば隠したい秘密だもんな。……つまり、高嶺はこれから政宗とリリィを別個の存在と捉えて付き合っていくのか)


 何だかスッキリしない関係性に結人は浮かない表情になり、他愛のない話をする政宗と瑠璃を見つめ、


(政宗が構わないと思える時がきたら……高嶺に秘密を話してやって欲しいな)


 余計なお世話と自覚しながら、勝手なことを願ってしまうのだった。


「ほら、さっさと教室に行こうぜ。学校の前にいて遅刻は馬鹿みたいだろ?」


「そうだね。行こっか、瑠璃ちゃん」


「え、ええ。行きましょうか。……それでさっきの続きだけど、政宗くんは食べ物なら何が好きなのかしら?」


「瑠璃ちゃん、そんな形式的に会話せずもっと砕けた感じで話そうよ……」


 若干顔を引きつらせる政宗と、他人と友好的に話すのに慣れておらず目を回しそうな瑠璃。正直言って嘘みたいな会話だが、彼女なりに頑張っているということなのだろう。


 ――さて、瑠璃を縛っていた茨は取り去られた。


 だが強気な口調は残っているし、素直じゃない態度も完全に消えてはいない。


(でも、トゲがないなら誰かの手は取れるか。そうして普段の会話に笑顔が増えていくのなら、これでいいのかな)


 自分を十割好きになれる人間などいない。誰だって多少は自分自身のどこかを気に入らないまま――愛しているものなのだから。


 高嶺瑠璃は再生のための一歩を踏み出した。得られなかったものを手に入れていくため日常に挑戦し、その隣を友人達が歩いて行く。

 

 第二章完結しましたっ!

 明日から第三章が開始しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


 あと、この第二章までを読んだ感想などありましたら、是非書き込んでいって下さい!

 とりあえずここまで、ありがとうございました!


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