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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第七章 魔法少女は少女を目指した
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第一話「はじまりの季節」

「放課後になると結人くんがさっさと一人で帰っちゃうんだけど……アレ何なんだろう? 一緒に帰ろうって言ってもよく分からない言い訳してくるし……」


 瑠璃と修司を前に、政宗は嘆息しながら悩みを告白した。


 四月十四日――春休みを終え、二年生へと進級した政宗達はクラス替えによって一年の頃と異なった組み合わせで一学期をスタートしていた。


 二年に上がって結人と同じクラスになったため政宗は飛び上がるほど喜んだ――のだが結人は最近、放課後になると理由をつけて一人で帰りたがるのだ。


 というわけで不信感を抱いた政宗は結人の去っていく背中を見送ったあと、瑠璃と修司の在籍するクラスを訪ねて相談していた。


「確かに最近、放課後を佐渡山くんと一緒に過ごすことってない気がするわね。……二年に上がってから一度もなかったんじゃないかしら?」


 瑠璃も薄っすら感じていたようで政宗と疑問を共有し、探偵が悩むようなポーズを取る。


「そうなんだよね。でも、週末になるとデートに誘ってくれるからボクのこと避けてるわけじゃなさそうなんだけど……」


「あんたたち週末にはちゃっかりそういうことしてんのね」


 口元に手を当て、ニヤニヤと政宗を見る瑠璃。政宗はうかつなことを口走り、恥ずかしそうに俯く。


「そもそも彼は常に政宗くんのことで頭がいっぱいな人間だ。寧ろ、この謎めいた行動も政宗くんのためだったりするんじゃないかな?」


「え、ボクのため……? うーん、放課後の時間を使って何やってるのかな?」


 不安そうな表情を浮かべて俯く政宗。瑠璃も疑問符を頭上に浮かべていたのだが――ふと、何かに思い至ったのか古典的にポンと手を叩いて納得を示す。


「分かっちゃったかも。なるほどね……佐渡山くんらしいかも」


「え、瑠璃ちゃんは分かったの? 教えてよ」


 縋るような表情と声の政宗だが、瑠璃は勿体ぶって笑う。


「それは駄目。政宗が自力で気付くか、佐渡山くんから教えられなきゃ。私が話す権利はないわね」


「えぇー!? 分かってるのに教えてくれないの!?」


「考えればすぐ分かるんじゃないかしら? ……というか、政宗は気付いてもおかしくないことだと思うけど」


「何だろう……修司くんは分かった?」


「僕にもさっぱりだよ。どうやら明かされる時を待つしかなさそうだね。でも、高嶺さんの様子から察するに不安を抱くようなことはしていなさそうだよ?」


「うーん……じゃあ、大人しく待ってたらいいのかなぁ?」


 言葉では納得しているものの、内心は腑に落ちていない政宗。


(だとしてもボクに隠さなきゃいけないって、サプライズ的だったりするのかな……?)

 

        ☆


(うーん、どうしても結人くんが何をしてるのか気になるなぁ。でもあんまり追求し過ぎると重たい女だと思われて嫌われちゃうかも……? あ、でもなんかこういう葛藤って恋人っぽくて悪くないかも)


 嘆息して暗い表情を浮かべたかと思いきや上機嫌になったりと忙しい政宗は駅通りを一人歩いていた。


 瑠璃は家の用事があるらしく今日は校門に迎えの車が待っており、修司はその運動神経から部活の助っ人として声がかかっていた。


 なので賑やかだったさっきまでとは対照的に今日は一人きりの静かな放課後となった。


(魔法少女じゃなくなってから放課後の時間がぽっかり空いちゃったけど、それを埋める方法が思いつかないや。何か趣味とか始めたらいいのかな?)


 そんなことを考え二年になった時、結人と部活に入ることを検討した。しかし、そこでも結人は放課後の時間を大事にしたいと難色を示していた。


(もしかして結人くんの方が何か趣味を始めてたりするのかな……? だとしたら相談して欲しいなぁ。ボクも付き合うのに!)


 結人と付き合うようになってどんどん恋愛面が明かされてきた政宗。どうやら彼氏の趣味に染められていくタイプだったらしい。


 そんな政宗、結人と一緒に帰れない寂しさを紛らすためスマホを取り出し、この春休みで撮りためた写真を眺める。


(春休み、みんなで行った旅行……本当に楽しかったなぁ。きっとこれからゴールデンウィークや夏休み、それから先も色んな思い出を残せるはずだよね)


 一度は写真を撮ることにトラウマを抱いた。しかし、同じくスマホのデータを全て失った結人から「また一緒に思い出を残そう」と言われ、恐怖心を抑え込んで旅行のあらゆる一ページを切り取った。


 すると写真自体が心の支えになり、政宗は気持ちを落ち着かせるルーティンとして思い出を振り返るようになった。


 ――ちなみにそんな四人の旅行はまだ肌寒い季節なので温泉に決まった。だが学生の身分で交通費に加えて宿泊費を捻出することは難しく、遠出という計画自体がとん挫しかけた。


 しかし、実家が金持ちの瑠璃が持ちうるカードをガンガンと切り、彼女の父が経営する会社傘下の温泉旅館に無料で宿泊することができた。今まで友達と遊ぶことがなかった娘のため、父親は快く結人達を招いてくれたのだ。


(瑠璃ちゃんが突然仕掛けててきた枕投げ、すごい躍動感を残して撮れてるなぁ。何故かあの時はみんな結人くんを狙ってたんだよね)


 写真から思い返される記憶にクスクスと笑いながら政宗は自宅への道を歩む――そんな時だった。


 前方からたったっ、と地面を駆ける靴の音が響き、政宗はスマホから顔を上げる。すると向かい側から結人が慌てた表情で走ってくるのだ。


 そして、結人は政宗の存在にも気付かずあっという間にすれ違い走り去っていった。その後ろ姿を見送る政宗。


(結人くん、駅から走ってきたのかな? だとしたら帰ろうとして忘れ物に気付いたとかそんな感じ? ――って、結人くんってば何か落としてる!)


 政宗の視界に飛び込んできたのは結人のものと思われる落とし物だった。拾い上げたそれは生徒手帳で、政宗は持ち主を確認する。


(やっぱり結人くんの落とし物だ。ただ走ってるだけでなんで生徒手帳落とすんだろ? そんなことはともかく――何だろう……ボクの中で湧き上がるこの予感は。何となくこれからの展開が読めた気がするんだけど……!)


 呆れた表情で生徒手帳から結人の走り去っていた方向へ視線を向ける政宗。結人の後ろ姿は確認できず、おそらくは路地を曲がったのだろう――と、あっさり予測できてしまった。


(瑠璃ちゃんが言ってたこと、何となく分かってきた……。なら、確かめるしかないよね!)


 政宗はイタズラでも企んだような笑みを浮かべる。預かっているとメッセージで伝えればいいはずの生徒手帳を手に、政宗は駆け足で路地へと向かう。


 そして、角を曲がった先で政宗の目に飛び込んだ光景。それは反射的に瞼を閉じてしまうほど眩い光だった。


 光が止むまで待ち、ゆっくりと政宗は目を開く。

 すると視界には佇む一人の少女。


 一切見覚えのない眼前の少女を前にして――政宗は肩を落として嘆息し、ジト目で問いかける。


「……結人くん、何やってるのさ?」


「ま、政宗!? どうしてここに!?」


 政宗が呼称した「佐渡山結人」とは結びつかないハスキーな女性の声。しかし、その口調と驚き方は明らかに彼のクセが見え隠れしていて。


 赤みがかった紫と、白のコントラストが印象的な衣装は政宗もよく知る魔法少女に重なる。紫色の髪や丸みを帯びた体躯で騙されそうになるが――顔の造りは「佐渡山結人」だと意識してみれば面影が残っていた。


 そう、結人はこの春からメリッサと契約し――魔法少女マジカル☆アイリスになっていたのだ。

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