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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第六章 とある小さな幸せ
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第十五話「そこにピリオドが穿たれる」

「藤堂くんってバレンタインはどうするの? っていうか、そもそもどっちがチョコあげることになるんだろう?」


「あ、それ私も気になってたー! でも、何となく藤堂くんがあげるイメージだよねー」


 いつぞや結人の意識が目覚めたのか気にしていた女子生徒二人は、登校してきた政宗の席へとやってきてどこかワクワクしながら問いかけた。


 謎のテンションに困惑し、政宗は無理に作った笑みを浮かべる。


「え、えーっと……どうなんだろうね? っていうか、ちょっと気が早くない? 来月の中旬だし、まだまだ先のような気がするけど」


 政宗が語るとおり今日は一月二十五日。二月十四日はもう少し先だが、女子生徒達はおそらくショッピングモールが先取りして仕掛けたバレンタインフェアにでも感化されたのかもうスイッチが入っていた。


「あ! でも、そもそも佐渡山くんがバレンタインまでに退院できなかったらチョコ渡せないんじゃない? 病院ってそういうの持ち込んでいいのかな?」


「大丈夫なんじゃないー? もし持ち込みが駄目ならベッドの傍らでリンゴとか剥けないじゃんー」


「そんな病室でリンゴ向くとかドラマみたいなこと現実にする人いないでしょ~!」


 ベタなことを実際にやった経験がある政宗。気まずそうに二人から視線を逸らす。


「とりあえず、私達は二人のことを応援してるからね!」


「え、えぇ……!? 応援してくれてたの?」


「もちろんだよー。私は佐渡山くんからチョコもアリだと思うけど、キャラ的にはやっぱり藤堂くんだと思うから頑張ってー!」


 ひらひらと手を振って上機嫌に去っていく二人。彼女らは校内で生まれた同性カップルである結人と政宗のことを見守り応援している、ちょっと濃い人達である。


 性同一性障害に関しては明かしていないため男同士だと思われ、色々と妄想されているのだが……政宗は自分達の関係をとりあえず受け入れてくれている彼女たちを好意的に捉えていた。


 それに――、


(ボクがチョコをあげる側に見えてるのはちょっと嬉しいかも)


 彼女らは政宗の中にある女性的な部分を暗に感じ取った発言をしており、そこはかなりポイントが高かった。


 ……だが、彼女らが持ってきたバレンタインという話題。実は今の政宗にとってかなり厄介なもので目を逸らしていたが、こうして向き合わされることになった。


(もしボクがチョコを渡したら……秘密を明かしづらくなるよね。今も変わらず好きだよって、伝えることになるんだもんね)


 嘘が長引けば秘密を明かすハードルは当然高くなる――というか、バレンタインにチョコなど渡してしまえば、もうどのように嘘を撤回すればいいか分からなくなる。重ねた嘘が膨らめばいざ明かされた結人の負担も大きくなるだろう。


 つまり、このイベントはパスすべき――なのだが、


(何もしないのも不自然だよね。結人くんはボクとまだ両想いだって思ってる。なら、理由もないのにこのイベントをスルーできない)


 寧ろ選べないのは――チョコをあげない選択肢となる。


 ……そう、人々の好意が交錯するこのイベントが存在するおかげで、政宗は先伸ばしにしてきた決断を迫られるのだ。


(このまま気持ちを偽ったまま結人くんの隣にいるならチョコをあげるべき。だけど、そうしないなら――この日までに秘密を告白しなきゃ駄目だ)


 今の状況をダラダラ続けるのも悪くないと思い始めていた政宗。しかし、二月十四日で道は二つに分かれて二度と交わることはないのだろう。


 ――ただ、もしも結人が二月十四日に入院しているならば政宗は言い訳を手に入れることができる。病人の心身に負担をかけないため、秘密は明かさない。だから仕方なくチョコを渡して今の関係を続けたのだと。


 全ては仕方のないことなのだ、と――。


 しかし、運命の悪戯なのだろうか……まるで見えない力で未来が収束していくように偶然は起こる。


       ☆

 

「二月の十四日に退院だってさ。やっと病院からおさらばできるよ」


 病室のベッドの上でうーんと伸びをしながら結人は言い、政宗は驚きに染まりそうな表情を必死に堪えて無理に笑った。


(えぇ――、どうしてこんなのことになるの――!? そんな日に退院が重なるなんて!)


 身の振り方を二月十四日までに決めさせる鋼の意志を感じる偶然。どうやら政宗に逃げ場や言い訳の余地はなくなったらしく、これからの振る舞いに明確な答えを出さなくてはならなくなった。


 とはいえ、今はそんなことを考えている時間ではない。


「ゆ、結人くん、いつの間にかそんなに回復してたんだね……。ついこの前まで生まれたての小鹿みたいに震えてたのに」


「そこはいじってくれるな……恥ずかしかったんだから。とはいえ、最近は随分と体の感覚も戻ってきててさ、退院が近いのは感じてたよ」


「そうなんだ? 退院日が決まったんならそれはおめでたいや。瑠璃ちゃんや修司くんに教えてあげないとね!」


 内心は気が気じゃない政宗だが、必死に平静を装って退院を祝福する。すると、結人は古典的に手をポンと叩いて閃く。


「そうだ。退院する二月十四日は確か平日だっけ……じゃあ、政宗が学校終わってから二人でどこか遊びにいかないか?」


「えぇ!? 退院してすぐ遊びに出かける気なの!?」


「おかしいか? 病院が治ったって認めたから退院させるんだし、そりゃあ遊びに出て問題ないはずだろ?」


「……あぁ、言われてみればそうなのかも?」


 結人の合っているのか、そうでないのかよく分からない理屈に腕組みをして納得する政宗。


「せっかくだからパァっと明るく遊びたいもんだな。病院っていうのはどうも辛気臭い雰囲気が漂っててしんどかったし」


「そ、そうだね……。パァっと明るく、いいんじゃないかな?」


「じゃあ、二月十四日はそういうことで予定は決まりだな! 構わないよな?」


「……う、うん。もちろんだよ。楽しみだね」


 退院の日程に用事を作る隙さえ失い、決断を強いられることは確定した政宗。無理に笑みを作りながら結人の誘いを承諾した。


(どんどんと外堀が埋まっていく感じ。……でも、これでいいのかも。うやむやにしてないで、どうするべきか答えを出さなきゃいけない時が来てるんだ)


 明るく過ごしたいという結人の言葉が胸に刺さる。彼の気持ちを無視してでも残酷な真実を告げなければ、政宗はずるずると秘密を抱えたままになる。


 でも、それでいいのではないかと怠惰な誘いが脳裏に浮かぶ。


(嘘をついたまま過ごして、いつか本物になるまで演じる。でもその選択なら皆が傷付かないはずなのに、正しいとは思えない。結人くんを騙すみたいで罪悪感があるから?



 なら、結人くんを救ったことは――罪だったの?)



 ポツリと、心に浮かんだ問い。もし肯定されたりしたら自我が崩壊する危険な自問自答。政宗は思考を振り払うように結人の目も気にせず顔を振る。


 すると思考は切り替わり、政宗は結人が二月十四日の放課後に自分を誘ってきたことにちょっとした違和感を得る。


(……そういえば結人くん、どうして放課後にボクを誘ってくるんだろう? それにこうして放課後にボクが結人くんのお見舞いに来れちゃってることを一度も疑問に思ってないし。もしかして結人くん――もうボクが魔法少女じゃないことを?)


 もしかすると自分の視点から見えるものだけで問題は進んでいないのかもしれない、と――政宗は仄かな予感を抱いた。


 全ては二月十四日――この日に運命は収束し、何もかもが決まる。


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