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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第六章 とある小さな幸せ
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第四話「世界は変わらず日常を描く」

(……アレってもしかして自分からマナ回収してるのかな? ボクが普段回収してるのと違って白くて綺麗。あんなこと……可能なんだ)


 メリッサは手をかざした自分の胸から白い光を取り出し、いつもテレビ台の上においている小瓶へと移動させる――そんな状況をこっそり目の当たりにして政宗は神秘的に感じていた。


 気を失ってから少し経過した深夜三時――意識を取り戻した政宗は自分が気絶したことを自覚し、そして体を包んでいる毛布の温かさを感じて状況を把握。


 迷惑をかけたメリッサに謝るつもりでベッドの方を見て、魔法少女のものとは違うマナ回収を目撃することになった。


(そういえばあの瓶、いつもボクに成長阻害の魔法を使う時にメリッサが出すやつだ。ああやって自分のマナを移動させてるんだとしたら、成長阻害の魔法って――?)


 メリッサは政宗に成長阻害を使う際、さも大したことのない魔法であるように言っていた。なので政宗は日頃から貯蓄したマナによって与えられる魔法だとは知らされていなかったのだ。


 何となくメリッサが意図が分かった気がした政宗。ボーっとその光景を見つめていると、不意にメリッサと目が合い両者は体をビクつかせる。


「な、なんだ、政宗……! 目が覚めたなら言ってくれ。驚くじゃないか!」


「ごめんごめん。……それより、何をやってたの? なんかマナ回収みたいに見えたけど?」


「え、あ、これか? えーっと……これは何ていうか、その、アレだ!」


 あからさまな狼狽を見せるメリッサ。


 政宗はそんな彼女の慌てぶりに嘆息して身を起こす。床に直接寝ていたので少し体に痛みを感じた。


「成長阻害の魔法に関係があることなんでしょ? いつもボクに魔法をかける時、その瓶を取り出すもんね」


「ど、どうだろうなぁ……? 魔法を使う時、この瓶を持つのが私のルーティンなのかも知れんぞ?」


「メリッサ、変な言い訳しないでちゃんと話してよ」


 咎めるような口調でピシャリと言われ、メリッサはバツの悪そうな表情を浮かべる。そして言い訳は不可能と悟ったのか、諦めたように嘆息した。


「……そうだ。私は自分自身から取り出せるマナを瓶に入れて貯めていた。それは毎月、政宗の魔法を使用するためだ」


「そのマナを使わないとボクの成長阻害――って、ちょっと待って。メリッサどうして突然、そんなに眠たそうになってるの?」


 メリッサは政宗の言葉に相槌を打っているように見えて、実際は眠気で意識が落ちそうになるのと戦っていた。


「……マナがなくなるまで、魔法を使ったり……こうして、マナを引っこ抜くと……眠くなるんだ。……物事に対する、やる気をマナとして……回収しているから、無気力に……なって、眠くなるん……だ」


 段々と眠気に抗えなくなり、メリッサが意識を保てる限界はすぐそこまで来ていた。


「ちょ、ちょっと待って! マナ回収って悪意以外からでも可能なの!?」


「可能……だ。魔法少女は……悪い感情からしか……回収を許されてないだけで……魔女ならできる」


 その言葉を言い残してメリッサはベッドの上、大の字で倒れて幸福そうな表情で眠りに落ちてしまった。


(……メリッサが普段からぐーたらしてるのは活力を引っこ抜いているからなんだ。ボクのためにずっと無気力な生活をしてたから。じゃあ、だらしないなんて言っちゃダメだったんだね)


 メリッサの自堕落な生活に秘められた真実を知って驚く政宗。


 そして――、 


(マナ回収が悪意や怒り以外でも可能……じゃあ、ボクが知らない方法でマナを生み出すことが可能なんだ。これって結人くんを助ける方法にならないのかな?)


 諦められるはずがない結人の運命。それを変えるための糸口として、政宗は可能性を見出していた。


        ☆


(こんなに悲しくても――こんなに苦しくても、お腹は空くんだ。今まさに死ぬかも知れない人のことを考えながら、それでも必死に生きようとしてる自分が何だか恨めしいな)


 政宗はメリッサの家から出て、近所のコンビニへ買い物するため向かっていた。


 頬に触れる凍てついた空気に身を抱いて耐えながら、夜の静まり返った住宅街を歩いて行く。


 メリッサが眠ってしまってから政宗はスマホへ大量に入っていた自宅からの電話を折り返し、親に怒られながら外泊する旨を伝えた。学友が危篤だと言えば説明がつくような気はしたが、政宗はそれを口に出したくはなかった。


 政宗にはまだどこか現実を認めていない気持ちがあったからだ。しかし、その現実を知らせるべき相手もいるわけで。


 政宗はスマホを取り出し、かじかんだ手でぎこちなく操作して送られてきていたメッセージを開く。それは瑠璃から届いたもので――、


『クリスマスの予定は何か決まってるのかしら? どっちかは二人きりがいいだろうし、もう片方は一緒に楽しむわよ!』


 事故の直前に結人と会話していた内容と奇しくも重なる誘い。悲しくなるような――しかし、明るく踊る絵文字を見つめて少し励まされるような。


 そして、そんな未来こそを政宗は切望する。


(十二月二十五日、ボクの誕生日。……何にもいらないから、ただ結人くんだけを僕に残して下さい。それだけが願いです)


 祈る相手は神なのか、それともサンタクロースなのか。非現実的な存在にすら縋ってしまうほど、どうしようもない状況を暗に物語る。


 ――これが運命。


 人は良いことがあると運命の巡り合わせだと喜ぶけれど。しかし、いざ自分に不都合な現象が起きるとそんな運命を目の敵にする。


 決してこの世界の筋書きは万人にとって良い隣人ではない。

 特に自分にとっては――と、政宗は思う。


(瑠璃ちゃんや修司くんに結人くんのこと……話した方がいいのかな? もし話すなら早めにしておかないと、いざということがあったら――)


 政宗はそこで思考を打ち切り、首を振る。


 瑠璃のテンションに付き合って先のことを考えるような余裕もなくて、政宗はメッセージに既読をつけたまま返事ができず、スマホをポケットにしまった。


 そして、空へと視線を預けて考える。


(今から魔法少女として街を跳び回って……寝ずに活動したら結人くんを助けるだけのマナが貯まったりしないかな?)


 政宗は魔法少女になって初めて考えてしまった。大量のマナが回収できる猟奇的な犯罪者が群れのように現れて、街を荒らし回ってくれればいいのに、と――。


 マナのために犯罪者を望む思考は絶対にしてこなかった政宗だが、今の彼女にそんな優しい気持ちはなかった。


 愛しい人を取り戻すためなら――どんな犠牲だって払える気がした。


(結人くんがこのまま死ぬくらいなら……他の誰かが犠牲になってくれればって思っちゃう。最低だよね。こんなこと考えてたら、きっと結人くんに嫌われる。でも……ボクはついそんなことを考えちゃうくらいに、結人くんを失いたくないんだ)


 空にきらめく星々が滲み、頬を冷たさが伝う。


 やがて見えてきたコンビニを前に、政宗は目元を袖で拭って日常の風景に紛れる。ただ、夜中に小腹を空かせた客のフリをして。


 彼女を迎えたコンビニの中は暖かく、やる気を感じさせない店員の挨拶が響いた。


 政宗はふと、自分が過ごした今日という日――そして世界に、これほど平和で何も変わらない日常的な風景があることに驚き、無性に苛立ちを感じた。

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