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魔法少女は少女を目指した  作者: あさままさA
⬛第六章 とある小さな幸せ
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第二話「全てを捧げて」

(部屋に電気が点いてる。メリッサってこの時間だと起きてるんだ)


 街のビルを足場に跳んでやってきたのはメリッサの住むアパート。変身を解除すると魔法少女の姿によって守られていた冷たい外気に晒され、政宗は震えながらインターホンを押した。


 すると――、


「……ん、誰だ? 空いてるから勝手に入ってくれー」


 という声が家の中に響き、政宗は目を丸くする。


(誰か分からない人を中に入れちゃダメじゃない……。まぁ、なんかメリッサらしいけど)


 呆れた笑みを浮かべる政宗だったが、目は笑っていなかった。


 扉を開くと暖房の効いた空気が漏れ出して政宗はホッとする。そして部屋の奥、メリッサは上下スウェットに缶ビール姿でテレビを見てゲラゲラと笑っていた。


 しかし、やってきた政宗の明らかな顔色の悪さに何かを悟ったのか、上機嫌な表情を真面目なものに変えてテレビの電源を消した。


「どうした、政宗? こんな時間に来るのも珍しいが、酷い顔だぞ。何かあったのか?」


 政宗は返事をせず暗い面持ちのまま、部屋へ上がると散らかった床など気にせず腰を下ろす。


 今にも倒れてしまいそうな顔色、活力のない様子にメリッサはどう対応していいか迷って後ろ頭を掻く。


 少しの間、緊迫した静寂が横たわっていた――が、政宗は自ずと口を開く。


「……結人くんがね、トラックに轢かれちゃったんだ。ボクを庇って。カルネさんがボクを押してさ。手術をしたんだけど、もしかしたら助からないかも知れないって」


 憔悴した声で語った政宗。メリッサはまるでばら撒くように与えられた不十分な情報を拾い集め、


「ゆ、結人くんが? ちょ、ちょっと待て! そもそもカルネがどうして出てくる? あいつは魔法少女の契約を完了したはずだろう?」


 血相を欠いて問う。


「カルネさんの変身者がいたんだ。ボク、背中を押されて轢かれかけたんだけど結人くんが身代わりになって……。さっき、手術が終わったところなんだ」


「まさかこの前の件に対する報復だとでも言うのか? 行動原理が幼稚過ぎる! ……とはいえ、問題はそこじゃないな」


 メリッサはおおまかな話を理解し、頭を抱えて嘆息した。


「一つ困難を乗り越えたと思ったらまたこんなことが……どうして君達の運命というのはこうも」


 ――犠牲が絡みついて離れないのか?


 語ろうとして、しかし――うな垂れる政宗を見つめ、メリッサは口にしなかった。


「きっと私のところに来たのは、普通の手段以外で結人くんを助けられないかと考えたからだろう?」


「……うん。ごめんね。お世話になりっぱなしなのに、こうして都合よく頼る真似をして」


「気にするな。それにお前がこうして頼らなくとも、結人くんの危機を知れば私の方からできることを探していたさ」


 メリッサは優しい口調で語り――しかし表情は厳しいものを浮かべており、顎に手を触れさせる。


 ちなみに政宗が謝っているのは、十一月一日の政宗救出の件に関してだ。メリッサは結人と修司に魔法を与えて一般人を傷付けさせたことに関し、魔法の国から罰則を受けた。


 だがそれは比較的軽度なもので、支給される活動資金の減額で済んだ。クラブとカルネの悪行に対する正当防衛として、罪を軽減されたようだった。


 つまり現状――メリッサの罰則は魔法の使用規制などではなく、力自体は存分に発揮できる。……だが、毎度の問題が立ちはだかる。


「できることは何でもするが……私には治癒するマナがない。今の私にはマナの蓄えもないし、今回はきっとクラブに殴られたレベルの被害じゃないだろう。治癒魔法はマナ消費が多いし……正直に言えば私が力になるのは難しいな」


 メリッサの言葉に政宗は「だよね」と力なく呟く。


 マナは貴重で、そして人間世界に暮らす魔女にとっても魔法は特別なもの。それは政宗も理解していた。そして理解しているからこそ、政宗がここに来た目的は――ただ泣きついて無理を言うことではなかった。


 政宗の表情が意を決したものに変わる。


「あのね、メリッサ。ボク、大量のマナに心当たりがあるんだ。もし真奈が確保できたら、結人くんの容態をどうにかすることは可能かな?」


「大量のマナに心当たりがある……? 重犯罪者が束にでもなっていない限り、そんな膨大なマナは手に入らないと思うが……」


 政宗の心当たりにピンと来ず思案顔を浮かべていたメリッサ。



 しかし、ふと――政宗の手元を見つめてその疑問は氷解。



 メリッサは硬直して言葉を失い、政宗はその様子に頷いた。


「ボクが今日まで集めたマナを使えば……結人くんの命は助かるよね?」


「……お前、それが何を意味しているのか分かってるのか?」


 メリッサは声を低くして問いかけ、政宗は瞳を決心で揺らす。


「手術を終えた結人くんを見た時、ボクの中で迷いなくこの方法が浮かんだんだ。女の子の体になる願いを捨ててでも――ボクは結人くんを助けたいって」


 政宗は手に持ったマジカロッドを強く握りしめ、メリッサの目を真っ直ぐに見つめていた。


 魔法少女がマジカロッドのマナを使用する時。

 それは願いの成就――そして魔法少女の契約が完了する瞬間。


 一度しか叶えられない願いを結人のために消費すれば――政宗は一生、今の体で生きることになる。政宗は魔法の国のルールに従って、もう二度と魔女と契約することができなくなるからだ。


 それが分からない政宗ではなく、そしてメリッサもそれらを踏まえた決意なのだと理解し、先ほどとは違った意味で頭を抱えて俯く。そして、堪えきれない感情に体を震わす。


「どうして――どうして君達の運命というのはこうも、犠牲が絡みついて離れないんだ。どうして……どうして!」


 今度は声に出してしまったメリッサ。悔しさに奥歯をギュッと噛む彼女を見つめ、政宗は物悲しく笑んだ。


 自分のことのように悲しみ、悔やんでくれることが政宗は嬉しかったのだ。


「メリッサ、願いの変更は可能だよね? じゃあ、ボクが今日まで集めてきたマナで結人くんも治せる。……そうでしょ?」


「……そりゃあ、治せるだろう。お前が集めたマナは膨大だ。しかし、そうしてしまえばお前の願いは」


「結人くんがいない世界でボクが女の子になる意味なんてないよ。寧ろ、ボクは結人くんが生きている世界でなら――今のままでも構わない」


 胸に手を当て、無理に笑んで決意を語った政宗。


 ――しかし、その声が震えているのをメリッサは聞き逃さなかった。


 愛する者の命を繋ぎ止めるためならば、ずっと切望してきた願いさえも捨てられる。


 だが、その一方で――もう二度と女の子になれない事実を受け入れる辛さ、そして結人の前で正しい性として生きられない申し訳なさが政宗にのし掛かっていた。


 答えは揺るぎなく決まっていて。

 だからといって割り切れるものじゃない。


 それが分かるからメリッサは政宗の言葉に二つ返事で「分かった」とは言えないのだった。


「結人くんの治癒にどれほどマナが必要なのか確認する必要がある。とりあえず私も病院に行こう。……政宗、連れて行ってくれないか?」


 返事を先送りにし、メリッサは立ち上がる。


 結人は手術を終えてもまだ危険な状態にある。しかし、その状態から自力で脱して回復する可能性はゼロではないのだ。


 できることならその可能性を――政宗の願いも守られる未来を。


 一縷の望みを抱き、メリッサは指をぱちんと弾く。瞬時に服装は部屋に脱ぎ捨てられていた黒いローブ姿となり、メリッサは頭に乗っかるとんがり帽子を深く被った。

投稿時間めちゃくちゃですみません……。

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