じゅうはちわっ 「スピアさま、ごめんっ」
スピア姫は他の領に比べるとまだ歴史の浅い【アステリア】って侯爵領の女領主さま。わたしや他の魔女子仲間がお世話になってる国ね。
彼女は始祖から数えて4代目にあたるご当主でさまでして、偉大なる賢候、レディ・ブランシェの孫だとゆうんやが、これはシータンから知り得た付け焼刃の情報で、わたしにはまーったく備わってない雑知識。
3代目やったお父さんが隣敵パヤジャッタとの大戦で傷を負い、それがもとで早世してしまい、8歳って異常な若さで女ながら後継者になった苦労人の頑張り屋さん。
その賢候ブラン……なんとかさんってのがせめて存命やったならって思うと可哀想で気の毒すぎるが、タラレバゆっても仕方がないよね。
シータンなぞはそんな健気な存在の彼女に強い思い入れがあるらしく、いつも彼女のコトを気にかけているみたいで、今日のサプライズ来訪にも珍しくコーフンしていた。
「ハナヲ。くれぐれも阻喪のないようにしなさいっ。まっ。なんですか、そのマズそうなお茶の入れ方は! そんなのリボルトセンセだって吐いちゃいますよっ?」
なーんてゆった具合。
「シンクハーフはむかーし、レディ・ブランシェの育ての親だったからねぇ。その孫のスピア姫に彼女の面影をだぶらせてるんじゃないの?」
とはルリさまのお言葉。
そーゆールリさまだって、スピア姫を時には腹立てながらもその実なかなかに敬慕しているご様子で、はてさてどこから調達して来たのか知らんけど、本日の訪問ではいかにも高級そうなクッキーだの、ケーキだのをどっさり差し入れしている。
――ふぅん面影、ねぇ。
まじまじとスピア姫を眺めてると、その亡くなられたってゆーレディ・ブランシェさまとやらの昔日がいかにキラキラしていたかを思わずにはいられない。
赤色の髪と緑青色の瞳の色はわたしとまったくおんなじで、こりゃ他人とは思えない。しかしながらわたしが強調したいのは、その内から滲み出る気品とか、優しく温厚で誰とでも分け隔てなく接する大らかな陽気さとか、……わたしには無いサラサラストレートな髪質やねぇとか、いちいち人の上げ足をとってほくそ笑むようなイジワルな魔女っ子では無いなーとか。
とても敵いっこないお嬢さまオーラを発散する彼女に、ひとりの女の子として嫉妬と憧憬の念を抱くのはイケナイことなのかしら? と思うのであります。
なーんてのをボンヤリ、ウットリ思ってると、シータンにジロリと睨まれた。
「ま、なんてイヤらしい汚れた目なんでしょう。目障りだからどっかにお行きなさいな。……そうそう南米あたりなら最適ですね」
「……。どーやって行けゆーんや」
「穴でも掘ってお逝きなさいな。スコップは外環沿いのホームセンターに売ってますので」
あーん。シータンが全力でわたしの心を折りにかかってるよぉ。
エッチなオジさんの目なんてしてへんのに。そんなのはもうとっくの昔に捨てた特技なのに。
「ハナヲ。それ、ヨダレぇ? 口元ゆるんでるよ?」
「え? ち、ちがっ……!」
ヨダレなんて垂らしてないしー!
ルリさままでわたしをイジるなんてぇ。
慌てて近場のタオルを取りカオをぬぐう。
そしたらスピアさまがわたしに何か、ゆった?
「それ……わたくしの……」
「わたくしの?」
あらためてタオルを確認。
うん? シルクの肌触り。オウ、これはまさに……。
ショオオオオツウゥゥゥ! ですかああああ。
大・お・や・く・そ・くぅ!
「ごごごごめん、なさいっ!」
お風呂場での騒ぎで濡れたので、着替えたときに足元に隠してこっそり乾かしてたご様子。
「あーあ。やっぱ真性のヘンタイね、ハナヲは」
ルリさま。深手の傷をさらにエグるのかっ?




