じゅうさんわっ 「なんで隠れんの?」
冥界の独身寮の前で惟人とゴチャついてるところへ、陽葵があらわれた。
パーカー着の下に穿く赤色のスカパンが印象づいたが、それは、彼女が両手持ちしてる不釣り合いなほどに大きなエコバックが目立ちすぎてるせいやった。
「オマエ、何こんな所までノコノコ来てんだよ?」
などとつっけんどんな聞き方をした惟人だって、スグにその大きなエコバックの存在と、ここに来た理由に勘付いたやろうに、そうゆうバカな態度しかとれないのが見ていてイラっとした。
「何ノコノコ来たんや、やて? たまにはシンクハーフの言うコトを聞いてやろうと思ったからや。こんの、アホチンッ!」
罵声を浴びせて投げつけたエコバックが惟人のカオに直撃した。
シャツ、靴下、それにおパンツなど……。彼の着替えらしきものがそこらに散乱した。
「わッ、何しやがるっ! この乱暴女」
「乱暴女、やて? もっかいゆってみ?」
事態は急加速をつけて険悪な方向へ。
陽葵の眼はとうに据わりきってるし。
……としかし、今日はいきなりは魔力弾が飛んで来なかった。
グイッと惟人の首根っこが持ち上げられて。
さては直接的物理的攻撃か。
――ってちゃう! 冷静に実況してる場合ちゃう、そーやないッ、またケンカが始まってもーた!
「アンタなぁっ! 仕事辞めたとか、アステリアには帰らんとか、家出とか、どーでもいーんやけどなぁ! ちっとはまわりを気遣えよッ?! どんだけ、……どんだけなぁ……!」
ちょっ、タンマタンマ!
「待って! 誰か来たしっ。――ルリさまとポーくんだよ?!」
息を止める陽葵と惟人。
既にふたりは髪の毛とホッペのつかみ合い状態だ。いーや、ホッペどころか片っ方の指が口にまで入ってるし!
「ヤベ、隠れろ!」
「隠れ……?」
「早くッ」
惟人の号令で3人素早く、近場の草むらに身を潜ませた。
……ところで、なんで隠れなアカン?
『なぁ、陽葵。わたしら別に隠れる必要無い……』
うう。あぁ、ああああ。
……こ、こわいぃッ。睨まれてるう!
陽葵の凍てつく視線が突き刺さってるう。完全にわたしの身体も凍てついた。凝固した。もう動けん。息が苦しいしッ。今日はやたら心臓に負担掛かってるしぃ。
『ちゃんと聞いて? わたしと惟人は単に今後どうするかについて話し合ってただけで……』
『今後の? ふたりの生活について? 我が家のラブハウス化計画?』
『ち、ち、ちがいまふ』
『僕はハナヲちゃんが大好きだ?』
『ち、ち、違いマセン……が』
「シッ!」
「!」
惟人の「黙れ」の指示につい従うわたしら。
なんでやねんっ。アンタのせいでなぁっ、こっちはとばっちり喰らって、ガケっぷちに追い詰められてんねんぞっ。
「来たぞ、静かに」
「なッ!」
「黙って!」
独身寮の門前で立ち止まったポーに一同陰ながら注目する。(だから、なんでやねん)
「るりチャン。遊園地、楽シカッタヨ、マタ行コーネ!」
「ダメだよ。わたし勉強忙しいだもん。落第しちゃったらアンタのせいにするからね」
「イーヨ、るりチャン! 僕、モットイッパイオカネ稼グ仕事見ツケテ、るりチャンヲ幸セニスルカラ!」
黙るルリさま。首をかしげてる。
抱っこしたマカロンの、スヤスヤ眠りカオを撫でながら。
「ポー。わたし別にあなたのお金をあてにしたいとか、幸せにして欲しいとか、そんなの思ってないし? ポーくんはハタチで大人でも、わたしはまだ学生だし、勉強が本分の身分だし。……好かれてるのは悪い気しないよ? でもさ、お互いもっとちゃんと地に足着いたコト考えなきゃ。……でしょ?」
……ルリさま、ごもっとも。
「オーノー、るりチャン。夢ガ無イデース。僕ハ将来るりチャンニ相応シイ男ニナッテ、るりチャント結婚シタインデース! ダカラ何時マデモ工場ノ工員デ留マッテタラ、イケナインデース!」
ポーくん、そんなコトを考えてたんだ。
「工場の仕事もじゅうぶん良い仕事だと思うけど? 何が不満なの?」
「僕ハコレカラびっくニナッテ、豪邸ヲ建テテ、るりチャンヲ奥サンニ迎エルンデース! ソウ決メテルンデース! ダカラ、るりちゃんモ応援シテクダサーイ!」
「きゃあああッ!」
急に抱きつこうとしたポーに、ルリさまのカウンタービンタが炸裂。
……ダメだよ、ポーくん。
逃げ去るルリさま。
間が悪かったとしかゆいようが無いが、ルリさまの足に、落ちていた惟人のおパンツがまとわりついた。拾いきれなかったものだ。
つまみ上げて正体を知り、もう一叫び。
「オトコの下着……イヤああぁぁぁ!」
「待ッテクダサーイ、るりチャアアアン!」
寮から数人の男たちがワラワラ出て来た。
取り残されたポーくんは「近所の迷惑を考えろ」とアタマをはたかれきながら建物内に引きずり込まれた。ああ、無常。




