じゅういちわっ 「陽葵は口下手やなー」
いまさら言ーんも何やが、娘の陽葵は恐ろしく口ベタだ。
そのむかし、魔王魔女まで張ってたクセに。
自分の気持ちを相手に伝えるのが苦手。それってどーゆーコトなんすか。
そんなんでよく魔物仲間たちがあなたを慕って付いてきてくれましたねえ。
「えっと……ごめん。もっかいゆって? 陽葵のその……人生相談?」
陽葵の部屋で彼女の悩みに耳を傾ける。部屋のトビラは前話で吹き飛んだからナイショごとだったとしても外に筒抜けだ。ちなみに向かいは惟人の部屋やが、カレはいま絶賛家出中であるのでセーフ。
「だから。同じ話をシンクハーフに相談したら、『あなたのお父さんが何とかしてくれますよ』って繰り返すばかりでちっとも話し相手になれへんし、役に立たんから『もう帰れ』って怒鳴ったってん」
「そりゃシータンがカワイソーやろ? どーゆー相談の仕方したんよ?」
「だから! 『ダラダラしてんと惟人をギャフンといわせ』と」
「ギャフン……? ふーむ昭和か。なかなか今どき言わんな?」
「黙れ。とにかくギャフン言わせ」
黙れと来ましたか……。限界までムダな言葉を削ぎ落した……ってレベルを遥かにK点越えしてまったく主旨が伝わらん相談文句や。
でも恐らくシータンはその彼女の「ゆわん」とした内容を薄らボンヤリとは理解したんやろ、あるイミ返答は的を射てる……ように思う。意を汲んで最大限の助言を施したシータンにあらためて脱帽したい。
「シータンの気持ちも分かってあげなよ? 彼女が毎日この家に遊びに来るのは何でやと思う?」
「はぁ? ゴハン漁りに決まってるでしょ? 他に何の理由があるゆーの?」
はいぃ? 思いがけない発想やな!
食べ物目当てで来訪やて?
まさか……、いや……そーなんか?
「いやいやいや。シータンはわたしらのカオを見に来てくれてるんやて。日中はアステリアでの公務で忙しいから夕方にしか来られへんねん。それがたまたま夕飯どきに重なってるだけやろ。ルリさまもそーやで? 向こうでの学校の勉強大変らしいのに、彼女もしょっちゅうカオ出してくれるやん?」
「ココロクルリはアステリアから日本を通って冥界に行ってるだけやん? 例のあのカタコトで話すバイトっ子に会うために」
うん?
まさか……、そーなの?
「そんなコト、ないよ。……いや少しはそうかも知れん。でも陽葵やわたしを気にしてくれてるのはゼッタイにあるんやから。わたし、さっきシータンにゆわれたんやで、『また明日』って。で気付いたんやがそれって毎日別れ際にゆわれてるなぁって。『バイバイ』とか『さよなら』やなくてさ。わたし、きっと意図的にゆってんやなぁって……そー思えたんよ」
そーゆーコトなんだよ? 理解した? 陽葵。
な?!
ところが陽葵さん、何もゆわずに部屋を出て行った。
待てい、どこへ行く! まだ話の途中やで?! あわてて背を追う。するとキッチンに着いた。
そこで陽葵のヤツ、チンスパ作り始めた!
ああ……こりゃ人の話、ゼンゼン聞いてねぇわー。
「だいたい陽葵のゆいたいコトは分かるよ。要は、惟人にハッキリ自分の意思を示させて欲しいと? そーゆー話やな?」
「――今さあ。パパ活とか、恋人代行業とか流行ってんやん? 手っ取り早くお金稼げそーやし、わたし、それしよーかな」
「あ? アホチン! シバクでワレ!」
よりによって、なんてコトゆい出すんや!
思わずドキタナク怒鳴ってしまった。つか、噛み合わんやっちゃなー。
「……嘘やて。そんなオトコの下僕になるみたいなの、わたしにはムリ。務まるワケないし。そんなんスグに察しがつくやろ、大声で喚くな」
シラッと、冷ややかに目だけこちらに振って吐き捨て。
「でな、惟人のコトや。わたしはアイツが許せへんねん。いっつも独りで解決しようとする。それはお父さん、アンタもやで?! オトコって大概そーなんか?! 女の子になってもそのビョーキは直らへんのか?!」
「陽葵……」
乱暴に冷凍庫を開ける陽葵。
「どーしてアイツ、家に帰ってこーへんの! なんでお父さんはそれを許してんの? わたしにはまったく理解できんわ!」
「……ムリに理解しよーとせんでも、いいんとちゃう?」
「ハァ……で、どーすんの?」
「どーすんのって? なにが?」
どーするったって。惟人も思ところがあるんやし。
「で、お父さんは? どーすんの? いつものカルボナーラでええの? それとも違うのにするの? 早く決めてよ!」
冷凍パスタの希望を聞いてくれてた。
って、そっちかーい。




