きゅうわっ 「カレ、バイトするってさ」
もう春なのに、真夜中の公園はタマシイが凍えそうなほど寒っぽい。
桜の花はとうに散り修め、電灯の光が、地に払え去りつつある花びらの残滓をわびしく浮かび上がらせている。ああ、余計に冷え冷えする。
ベンチで肩を落とす少年が独り、そのうら寂しい風景に一筆を添えている。ヤレヤレ……としか言いようが無いほどの憔悴図だ。
ここはややおどけ気味に行くか。
「――そこの少年。こんな時間に何をしているんだい?」
「……ハナヲちゃん。探しに来てくれたんだ」
「そりゃ……。ド夜中に家を飛び出されちゃ、フツー心配するやろ」
「だよな。だって僕いまは中坊だもんな。こんな時間にウロウロしてちゃヘンだよな」
タメ息交じりの言葉には自嘲の念が籠っていた。
「はい、コレ。よかったら飲んで」
「あちっ? 粒コーンスープ? ヘンなの! でもアリガトウ」
そこの自販機で買ったんやが、ボタン上下押し間違えたんデス。まぁ許したも。――ちなみにわたしはおしるこ。これはわたしの好み。
「惟人の悩みは何となく分かるよ。要はお金の心配してんでしょ?」
「え? ま、そりゃ……。だってビンボーは辛いぜ? ハナヲちゃんは本当の貧乏を知らないから悩まないんだよ。勉強も大事だけど僕はどちらかって言うと働きたいんだよね。それがよりによって中学生に転生って。働きたくても働けないってホント不便だ」
ビンボー? それならかくゆうわたしだって年中無休で悩んでるさ。
うーん。そうはゆうけどねぇ。
この令和の世、働いてる日本の中学生なんていったい何人いるのやら。
「だいじょうぶや、お金の心配やったら。リボルトセンセが仕送りしてくれてるし」
「待って。……それ、異世界のお金でしょ? 換金できないじゃん」
う! スルドイ。
確かに正直、アステリアの硬貨をどう日本円に換えようかと鋭意思案中なのである。
「あ、でも金貨か銀貨ならどうにかお金に出来ると思うし。とにかく子供はそんな心配ご無用やから! それより一緒に惟人の将来のコト、考えよう!」
「……ハナヲちゃん」
「なーに?」
「まるで親か姉ぇちゃんみたいだね」
「……え、そーかな?」
「言っとくけど。ハナヲちゃんと僕、同学年なんだよ?」
「分かってるよ。だからゆってんやん。一緒に遠足行こうって」
クスクス笑う惟人。
「でさ。その遠足代はどーすんの?」
「そんなのはお姉ぇちゃんに任せなさい」
またそれか……と再び笑う惟人。
「確かさ、この場所」
「ん? ……あぁ。先生稼業で落ち込んでたボルトセンセが、お巡りさんに職務質問されてたよね」
「あのときのセンセの心情、なんとなく今なら分かるなぁ。状況は正反対でセンセはこっちの世界に、僕は異世界側に嫌われたんだけど」
そうそう。
リボルトセンセ、学校で生徒からイジメられてこの公園でしょんぼりしてたんやった。わたしと惟人が見つけたとき、通報されてお巡りさんに職質されててめっちゃカワイソーやった。
「ハナヲちゃん。中学生でも働けるところ、知らない?」
「はあ、働けるところ……」
「ハナヲちゃん、冥界でアルバイトしてるよね? さっきココロクルリのカレシがそのバイト辞めるとかって言ってたよね? 人手が要りそうなら雇ってもらいたいんだ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「暗闇姫惟人です。よろしく」
「ワアア、凛々シイネェ。ワタシぽんネ、ヨロシクネ!」
「ボクハ、こころくるりチャンガ大好キナぽーデス! 後輩歓迎スルネ」
「ワシハぽむジャヨー! 分カラナイ事ハ何デモ聞クネー」
惟人、戦慄の汗を垂らし。わたしの耳元にカオを寄せ。
『マジ? 名前似すぎててゼンゼン憶えらんないよ?』
『名前覚えるのも仕事です。戦場の戦友か部下だと思って』
『わ、わかった。ポン、ポー、ポム。女、若い、オジサン。オッケー』
「はい、ではよろしく。ちなみに今日はシフトに入ってない人があと2名います。後日紹介します。なまえはポイさんとポノさんやから」
「ま、マジかぁー」




