ろくわっ 「黒姫陽葵がおフロでお出迎え」
「コレット。明日は必ず学校に行こな。出席日数少なすぎたらわたしみたいにダブってまうかも知れんしな」
日本にいるときのコレットは暗闇姫惟人を名乗り、異世界人の素性を隠して普通の中学生として暮らしている。但しアステリア領国境守備隊の隊長だった彼なので新学期以降ほとんど登校できておらず、親の海外出張に同行してるとか体調がすぐれないとか、なんやかんや理由をつけてサボっていたのである。
「ハナヲちゃん」
「なに?」
「いろいろ有難う。嬉しいよ、僕」
初心っぽくハニカムな。
キミは前に魔女っ子のわたしを殺そーとした勇者さまやろっ。もっと……なんてーか、勇者っぽく清廉朴訥げな態度しろっ。そんなカオ見せられたらショタっ気自覚ゼロのわたしでもよろめいてまうし!
もっともゆーとくが、彼は中一やけど過去に何回も転生を繰り返した、人生のチョー経験者やからね?
「いーから。さっさと帰ろう!」
彼の背中を押し、衣裳部屋の奥にあるウオークインクローゼットへ。
そこにある鏡が日本とつながってんの。
いざ、鏡の中に突入!
「うわあああっ!」
突入した途端に大声を上げるコレット。後ろに付いていたわたしが事情も判らずグイグイ背を押すものだから――。
「……ちょっと、何やの? ふたりして死にたいん?」
浴室をイメージしてもらいたい。
そんでから浴槽をイメージしてもらいたい。
そこに3人の少年少女が団子で重なってる図が展開された。
しかも、そのうちのひとりは完全にハダカである。
「……あ。ひ、陽葵。……た、ただいま」
ハダカの女の子に恐る恐る挨拶するわたし。
その彼女の胸元にカオをうずめて昇天しているコレット。いやあ、まーイワユルラッキースケベデスかね、はい。
この子はわたしの娘、暗闇姫陽葵。
異世界では魔王魔女、黒姫と呼ばれていた正真正銘の魔女っ子。しょせん魔力保持者のわたしとは格が違う。(親子なのに。)とゆーか、こわいぃ!
「まず。このエロオトコをのけてもらえる? それから死ぬほどの絶望を味わいながら殺されてくれる?」
深海で出会った未知の巨大生物のように、ゆい知れない恐怖を覚えた。
色白で日本人形みたいなカワイイ顔なのに。まったく寒気しか感じない。
「ひっ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっっ!」
コレットの首根っこを掴み、浴室を逃れようとした。
うっとコレットが正気に戻る。
「なんだオマエ、こんな時間にフロなんて入りやがって! 夜中の11時だぞ!」
「……何時に入ろーとわたしの勝手やん。それで覗きする理由にはならんやろ?」
ゆい合いしないで? ご近所メーワクやから!
「ノゾキ? ダーレがオマエのちっちゃい胸なんて見るかっ」
胸と限定したあたり、見ましたよね? それ? しかもキミ、そこにカオうずめてましたよね?
現に陽葵のカオが見る間に赤くなった。
と、なんと、コレットのカオも赤くなっている?!
待て、アンタの発言やろっ。
「バカ、アホ、カスっ、おたんちんっ! 死ね死ね死ね死ねっ!」
洗面器とかでなく、我が家ではここで火の玉が飛んで来る。
――ほらっやっぱり! こんな近距離で!
魔力障壁を張ったが流れ弾で浴室入口のトビラはトーゼン粉砕。脱衣所の一部もボヤった。
「テメエ。ヤル気なのか? このクソ黒姫」
「はぁ? ナニこのクズ勇者。今日が命日にしたいんやな?」
……うぅ。帰って早々これやで。
お願いコレット。
やっぱし砦に出張してて?




