さんわっ 「やめれ、ヘンタイッ」
3話投稿します。
宴会場から一歩出た瞬間に、コレットはアステリア国境守備隊の隊長でなくなった。
何故なら彼の追い出しを図った副官が、コレットの背中を見届けた刹那、皆に向かって高らかに新隊長就任を宣言しちゃったからだ。さらには兵士たちに自らの指針方針を語りだした。
しかもや。
なんと場の雰囲気は、新体制に完全に移行したかのように華やかな盛り上がりをみせたんである。
奇声を発し「カンパーイ」と祝杯を挙げる者すらいる。
あぁ確かに。
コレットは部下の規律に異様に厳しかったと聞いていたが、まさかここまで嫌がられてたとは……。
……あ、いえ、本人前にして言い過ぎました。ゴメンなさい。
「去る者は追わず、だな。ちぇっ。『辞めないでくださいよ、隊長!』 とか追いすがって引き留めるヤツ、ひとりくらいいてもよかったけどな。……ま、いいや。ハナヲちゃん、10分後に城門棟の前で落ち合おう。移動用の馬も用意しとくよ」
追いすがってまでは……なかなか……どーだろう。わたしが代わりにゆってあげよーか?
「わかった。城門棟の前やね」
てか10分か! 短いなぁ。
そんな短時間じゃ支度が出来へんって言うワケやなく、そんな短時間で後クサレ無く去れるコレット隊長に対して驚きやってば。
ま、そーゆーわたし自身もほとんど荷物が無いので早々と待ち合わせ場所に来てしまった。
「暗闇姫さま!」
衛士が慌てた様子で走り寄って来た。
コレットが呼んでいるとゆう。何だってんだ?
「教会塔?」
実はわたし、正確にはこの世界の住人やない。れっきとした令和時代の日本国民なのです。ただ単に、用事で今日ここにいるだけなんですよ?
なので、元々の異世界の住人であるコレットの、宗教上の儀礼的行動はあんまし認識してない。
まぁだからそーか、【いとまごい】の挨拶をお世話になった神さまにしておくのかー? それに付き合えとゆうコトだろーなぁと安易に自己解釈しておいた。
――砦の敷地内に建つ木造掘立小屋の教会、その内部は石畳のせいか、ひんやりとしてて少しかび臭かった。それにすっごく暗い。
建屋内の最奥に祭壇があり、そこの暗がりに人がひざまずいているのが見えたのでコレットだと思い近づいた。そして、警戒心を孕ませて難詰したわたし。
「副官さん。まだ何か用なんか? ウソまでついて! ――あっ!」
――ゆっくりと身を起こして不快な嗤いで応えたのは、コレットを追い出した副官。
――背後から、わたしの口をふさぎ羽交い絞めにしやがったのは、彼の従者。
「なあ小娘。オマエいったいここに何しに来た? 命を懸けて戦っている戦場に何をしに来た? ガキのおママゴトをする場所じゃねえんだよ、あぁ?! ……コレットのガキと乳繰り合いに来たってのかよ? ガキ同士の分際で」
うおっ、コイツ! 胸っ、揉みやがった?!
「ふぐぐ、はぐぐっ!」
「ハッ、なけなしだな。……いいさ、女は女だ。ずいぶんご無沙汰だったんでな、せっかくだからキモチのイイ土産を持たせてやろう、くっくっく」
キモチのイイ土産?
ま、マジかぁ。コイツ、本気でゆってんの?!
「うぐうっ、ふぐうっ!」
第1話でも語ったがわたしは元中年のオッチャンだ。
でも今はなあ! 今は中学一年生のうら若き女の子なんやぞーっ?! なぜか転生してもーたTS乙女なんやぞーっ! 恥じらいも貞操観念もしっかりあるんやからなーッッ!
この時になってようやくわたしは深ーく後悔した。
この外道らに言われんでも確かに遠足気分でこんな場所に来ちゃったこと、武器の一つも持参しなかったこと。
そんでから、女の子ってのは思った以上に非力やって、あらためて実感しちゃったこと。
ファンタジー世界でさ、よく魔法使いが身にまとっているような濃紺のローブに、あとは厚手のシャツとフレアスカートのみの、およそ戦地にはふさわしくない出で立ちのわたしはローブをはぎ取られた時点で魔力行使も辞さないと思い詰めた。
何を隠そうこのわたし、【限定解除】のお墨付きを拝領している魔力保持者でして、下手な魔女よりかずっと優秀? な魔女っ子なのですよっ。
ところが他の魔女っ子仲間たちから心身への悪影響を心配され、わたし自身も自覚して魔力の行使を控えていたきらいがあり……、だけどもうそんな悠長な状況やなくなってマスガナ!
「……おい、お前ら。僕のハナヲちゃんにいったいナニしようとしてる?」
魔力行使のため、念を込めて右手を延ばし掛けたところで待望の救世主がお出ましになった。
「ふぉえっふ! (コレット!)」
副官はわたしからサッと離れ、無抵抗の意を示した。
彼らとて、コレット元隊長の強さは充分知っていたのである。
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